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ハヅキとミサキ

街の正門に着く。

最初に通った時とは違い、プレイヤーでごった返していた。

「うっわ人多すぎ><」

中には中国人の観光バスガイドみたいなものもいる。

「はーいこちら初心者ツアー受付でーす!」

右手に持っている側には、『Incomplete Hero 運営 初心者ツアー』と書かれていた。

「GM主導のチュートリアルみたいな感じですかね?プレイヤー主導のやつなら他ゲーでちらほらみたことあるけど、運営がやってるのは珍しいなぁ」

物珍しそうな目でみていると、ツアー参加者の何人かの目線がこちらに向く。

「うお!?スッゲー可愛い子いるじゃん!」

「ほんとだー!きゃーこっちみてー!」

まるで動物園のパンダがいるかのような黄色い声。


「ほらルリザクロちゃん手とか振ってあげたらどうです?」

隣のシフォンに肘でせっつかれる。

適当にはにかみながら手を振ってやると、さらに甲高い声が響き渡った。

「ん、そういえばあんまり可愛いキャラクリしてるやついないな」

「デフォルトがリアルの自分ですから、そこから変更する人はあんまり居ないんじゃないです?せいぜい変えたとしても目の色とか髪の色とかでしょ」

「なるほど?」

「まぁ下手に弄ると異形の化け物になるってのもありますが……」


「っていうかそこまで可愛いキャラを用意できるルリザクロちゃんがおかしいんですよ。どうやって作ったんですかそんなの」

「強いていえば……気合いと根性?」

「んな無茶苦茶な」

くだらない話をしていると、物珍しそうにみてた連中の一人から声をかけられる。

「ねぇねぇ君たちも一緒に行かない?」


声をかけてきたのは綺麗な黒髪をした少女だった。

何のことやらと考えていると、後ろからもう一人紫色の髪の子が出てくる。

「こらハヅキ!いきなり声かけちゃダメでしょう!」

「えーミサキちゃんが行けって言ったのに〜」

「もうちょっと話しかけ方と言うものがあるでしょうに……」

完全に身内のやりとりに、俺もシフォンもついていけずただ呆然とみることしかできない。

そんな俺たちの様子に気付いたのか、気まずそうに話を切り出す紫ちゃん。


「あ〜……こほん。

私たちこれから街の案内をしてもらうんですよ。それでご一緒にどうかなぁ〜って」

「ミサキちゃんもほとんど変わらないじゃないの」

「うるさい」

頬を膨らませてぶーたれる黒髪ちゃんの頭をはたく紫ちゃん

「ん〜?シフォンさんはどうする?」

「私はちょっとバイトの時間なのでパスですかね〜」

時計を見れば時刻は14時30分

「おしおとがんばえー」

「がんばってきます」

サムズアップと共にフレンド申請が届く。

「あいるびーばっく!」

そんな言葉を言い残して落ちていくシフォンさん。

「それであなたはどうします?」

よくよく考えればスタートダッシュを決めようと、狩場に直行したため街のどこに何があるのかわからなかった。

「ちょうど街も見ておきたかったし行こうかな」

渡りに船ということで参加することにした。

「そろそろ受付終了しまーす!ご参加の方はお早めにー!」

「じゃあちょっと受付してくる」


受付は名前を入力するだけというシンプルなものだった。

「こちら参加特典となっておりまーす」

参加特典としてもらったチョコバーを齧りながら先ほどの少女たちの元に戻る。

『・チョコバー

  食糧ゲージを30回復 水分ゲージを10消費

 *お腹が空いたら人が変わるあなたにも。お腹が空いたらツニッカーズ!』

某有名チョコバーのようなフレーバーテキストだが、中身もだいたい一緒だった。


「受付できたみたいですね。

んじゃ改めまして自己紹介を。私はミサキです。職業は魔法使いやってます」

丁寧な自己紹介とお辞儀。

何となく育ちの良さを感じさせる雰囲気に、少し苦手意識を覚える。

「はいはーい!次は私ね!

私ハヅキ!騎士やってる!」

こちらはミサキとは違いパワフルな感じだった。


順番的に俺の番になる。

「じゃあ私の番かな?

名前はー……ルリザクロ。職業は盗賊」

名前を決めてなかったことを咄嗟に思い出し、シフォンからつけてもらった名前を名乗る。

「ルリザクロちゃんかー。ルリちゃんって呼ぼー。

ねえねえ今何年生?」

「?」

何年生とは何のことだろうか?社会人歴?

社会人歴なら途中でニートになったから3年とかだが……。

「ちなみに私たちは中学二年だよ〜。ルリザクロちゃんはあれかな見た目的に〜……小学五年生とか!」

「あぁそっちの」


まさかこの歳になって小学五年生と間違えられるとは。

だが、如何せん見た目が見た目だ。仕方ないっちゃ仕方ないのだろう。

っていうかこのゲームは18禁では?

「こらこらハヅキ。ここはネット上なんですから迂闊に年齢とか言っちゃダメです!

ルリちゃんもごめんね?」

ハヅキの方はいかにもネット初心者といった感じだが、ミサキの方は少しネットリテラシーがあるようだった。

「全然大丈夫だよ。年もだいたいそのくらいだし」

適当に返しておく。

まぁ10年なんて誤差だろう。

「じゃあ後輩ちゃんだね〜。以後は私たちのことを先輩と呼ぶように!」

「わーハヅキ先輩ー」

これはあれだ。親戚の子供を相手してる気分だ。


「では初心者ツアーはじめまーす!参加者の方はこちらの旗を目印についてきてくださいねー!」

「んじゃいくぞー後輩くん」

張り切って進んでいくハヅキについていく。

「ごめんね〜ルリちゃん。

ハヅキはいい子なんだけどちょっとおバカだから……」

気遣ってフォローしにきてくれたミサキに笑顔とサムズアップを送る。

「はうん!」

なんか崩れ落ちたけど無視をした。


◇ side 葉月



まず最初に案内されたのが、冒険者ギルドだった。

「こちら冒険者ギルドとなっていまーす!冒険者に登録をしていただくと、マップや館内の図書エリアが使えるようになったりと便利機能が盛りだくさんですので是非ご登録を〜」

ちなみに登録費用は5000Gだった。

その後アイテムショップ、武器工房、宿屋などを紹介され、最初の正門まで戻ってきた。


「みなさん最後はいよいよフィールドでのモンスターとの戦闘ですよ〜」

引率のそんな言葉に歓喜の声が上がる。

「うっわーやっと戦闘だよ!たのしみだね。ミサキちゃん!」

ハヅキも例外ではなかった。

隣のミサキもまんざらそうで、みるからにワクワクしていると言った様子だった。


正門を潜って最初の草原へと出る。

「ではみなさんにはこれからこの辺りにいるモンスターと戦ってきてもらいまーす!戦い終えたらこちらにドロップ品を持ってきてくださーい」

その言葉を機に参加者たちが蜘蛛の子を散らすように駆け出していく。

「私たちも行きましょう!」

駆け出すミサキに負けじと食らいつく。


「あ、あそこスライムいるよ!」

さっそくスライムを見つけて接近する。

ログインした時から背中につけていた大剣を抜き放ち、攻撃を仕掛ける。

だが、スライムに回避されてしまう。

「あ!こら!よけるな!」

もがくように大剣を振り回すが、どれも命中しない。

「火の矢よ!敵を射抜け!ファイアアロー!」

魔導書を構えたミサキが詠唱と共に魔法を繰り出す。

背中に弾けるような轟音と痛み。

「あ!ごめんハヅキ!」

その言葉でミサキの魔法が背中にあたったのだと理解した。


ファイアアローのノックバックで前に押し出されたハヅキに容赦のないスライムの体当たりが襲い掛かる。

鈍い音と鋭い痛み。

脳震盪が起こっているのか、フラフラしてまともに思考が回らない。

「あ」

意識を取り戻した時にはもう遅く、スライムは目の前に迫る。

恐怖に目を瞑る。

痛みと死の恐怖。どちらもまだ14歳の少女には耐えられるものではなかった。

だが1秒2秒とたっても衝撃は来ない。

恐る恐る目を開けると、目の前には金髪の少女。

「大丈夫?」

右手には先ほどまで戦っていたスライムが捕まえられている。

「まだやれそう?」

心配そうに見つめる青と赤の瞳。

同じ性別である自分ですら見惚れてしまうほどの綺麗さ。


「あ……う、うん!まだまだ!」

大剣を構え直す。

「次は動きをしっかり見て戦ってみるといいよ」

そう言ってルリちゃんはスライムを解放する。

スライムはルリちゃんには向かわずに私に突進してくる。

舐められているのか、あるいはそういうシステムなのか。


突進を横の動きで交わして、ルスライムをよく観察してみる。

動きは不規則で振りの遅い私の武器じゃ捉えられない。

再びスライムの体当たり。

こちらに跳ねてくるだけのシンプルな技。

少しの予備動作の後に一直線に飛んでくる。

速度でいうと90kmほど。


三度の体当たり。

溜めて、飛ぶ。

真っ直ぐもといた場所を目掛けて。

「ここだぁ!」

体を横に向けて、バッティングの要領で飛んできたスライムを迎撃する!

命中の手応えとぐちゃりという音。

「やった!当たった!」

5mほど飛んだスライムは瀕死ながらもまだ動いていた。

「私も負けていられませんね!ファイアアロー!」

負けじとミサキちゃんも魔法を放つ。

火の矢は吸い込まれるように命中した。

爆散し粉々になったスライムは再び動き出すことはなかった。

「いえーい!」

みんなに向かってピースサインを掲げる。

初の戦闘は勝利に終わった。



はっきりいえばひどい戦闘だった。

攻撃の当たらない前衛に味方に魔法を当てる後衛。

だけど、勝利の後のピースと笑顔は死ぬほど楽しそうだった。

「んじゃまだまだ戦うよー!次は魔法当てないでね!ミサキちゃん!」

「言われなくても!」

笑いながら平原をかける少女たち。

その姿は羨ましいほどにキラキラしていた。

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