魔石と宝箱
真っ直ぐ伸びる坑道にこつこつと足音が響く。
「はぇー結構足音響くねぇ。PKやるなら裸足一択かも」
「裸足は裸足で痛そうだけどな。まぁたぶん足音少なめの靴装備とかもあるんじゃない?」
「そうだといいんだけどねぇ……。っと敵だよ」
視線の先には少し広めの空間とツノの生えた背の小さい人型生物が3匹。
「なにあれ?ゴブリン?」
「まぁ友好MOBじゃなさそうなのは確かだ」
お相手さんも既にこちらに気づいている。
敵の位置は奥に一人、左右に一人ずつ。
「場所的には広く戦えるあっちが有利だけど……どうする?」
「弓で奥のやつ落とすから、右のやつお願い」
「おーけー」
弓を構えて矢をつがえる。
弦を引き絞って離す。
弓を撃つのは単純な行為に見えてかなり難しい。現実ならば目標まではおろか1mさえ飛ばないだろう。
だがここはゲームの世界。システムの補正で矢は目標の胴体へと真っ直ぐ吸い込まれる。
「いきますよー」
弓の命中を合図にシフォンが飛び出す。
腰にぶら下げた二本の剣を引き抜きながら接近する。
それに遅れながらも反応したゴブリンAが棍棒を振りかぶる。
左の剣でその棍棒を弾いて、右の剣で止めを刺す。
もう片方のゴブリンが体勢を崩したシフォンに攻撃を仕掛ける。
が、その視線はシフォンにしか向いておらず、背後から接近する俺には気づいていなかった。
「ハッ!」
右手に持つ魔道書を頭に叩きつける。
グシャッという音と手に伝わる卵を潰した時のような感覚。
倒れて動かなくなったのを確認してから魔道書をインベントリに戻す。
「いやなんかそれ使い方違いませんか……?」
「仕方ないでしょ。魔法の使い方とかわからんし」
「それでも本を鈍器のように使うのはダメでしょ」
そんなかるきちを叩き合いながらゴブリンの死体を漁る。
「うーなんかばっちそう」
「文句言うんじゃありません」
と言いつつ俺も汚そうなゴブリンの死体を漁るのは抵抗があった。
「みた感じ腰の布しかつけてませんし漁らなくてもいいんじゃないです?」
「いや、こういうゲームとかラノベとかの定番だと心臓らへんに魔石が埋まってたりするだろ?」
「あーありますねそういうの。……まさかっ!?」
「気にならない?」
「ちょっとだけ……。じゃあ耳とかギルドに持っていくとお金くれるのとかもありそうじゃないです?」
「試してみるか」
ゴブリンの腰あたりにまたがって腹を開いていく。
「気分はお医者さんだな」
「猟奇殺人犯の間違いでは?」
邪魔だった肋骨をどうにか砕き、肺を引き摺り出して心臓へと辿り着く。
「お?なんかある」
「まじで?」
心臓の少し右辺りに紫の石がある。
取り出してシフォンに見せてみる。
「ほらこれこれ」
インベントリに入れてアイテム名を見てみると、『魔石 小』となっていた。
『・魔石 小
強い衝撃を加えると爆発する。INT * 0.3 = dmg
*魔物の体内で生成される物質。その用途は多岐にわたる』
「マジで魔石だわこれ」
「フレーバーテキスト的に使い道いっぱいありそうですね〜。固定値のダメージも与えれますし意外と重要では?」
「ってまてよ?モンスター倒すたびにこの作業やるの?割と真面目に解体寄生に需要出てきそうだな……」
♢
ゴブリンの解体に四苦八苦しながらも洞窟内を進んでいく。
戦闘を5回ほどこなして慣れ始めた頃、少し大きな部屋に出る。
部屋の中央には大きな女神像とその背後には宝箱があった。
「休憩ポイント的な場所かな」
女神像の下には噴水のようなものと紫色の果実が実っていた。
「水と果物ありますしそうなんじゃないです?」
試しに調べてみる。
『・ヤマブドウ
食糧ゲージを5回復 水分ゲージを2回復
*酸味と渋味の強いブドウ』
『・癒しの水
水分ゲージを20回復 HPリジェネ(小)
*女神像の噴水から汲まれた水。汲んでから少し経つとただの水になる』
「ヤマブドウは微妙だけど、水の方はリジェネついてるし有用そう」
「ブドウは素材アイテムっぽそうですね〜。ワインとか作れそう」
「クラフト要素が熱いゲームは神ゲー」
あたりを一通り調べ終えて、大本命の宝箱をみる。
「このゲーム初宝箱は一体何が入ってるんでしょうか?」
「ごーまーだーれー」
一昔前のネタと共に宝箱の蓋を開ける。
中には剣とガラス瓶に入った液体がひとつづつ。
『・未鑑定武器(剣)
STR?? AGI ?? VIT??
特殊効果 ??』
『・ポーション 低級
HPリジェネ(小) HP即時回復』
「おぉー未鑑定武器。こう言うのなんだかワクワクしますよね〜」
「ね。特殊効果ついてるっぽいのがポイント高め」
「このダンジョンはこれで終わりっぽいかなぁ?」
「宝箱あるし行き止まりだからそうなんじゃないです?」
一応宝箱の後ろの壁や照明などを調べてみたが隠し扉やスイッチはなかった。
「んじゃ一旦街戻りかな?持ち物売りたいし」
「んじゃルーラでぱぱっと帰っちゃいましょう」
その辺で拾った石を掲げてルーラと叫ぶシフォン。
「そんなものがあったら楽だったんだけどなぁ」
ここまでくるのにかかった時間は一時間。
その道のりを逆戻りすると考えると少し気が滅入った。
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