『指ヲ飾ル物』
その手は世界を掴む。全てを掴み、握り潰す。
指の隙間から零れ落ちる存在らは怨嗟の声と狂気を放ち、愛情と嫉妬を吐き出しながら、世界から、星から、宇宙へ落ちていく。
しばらして分かれた存在らが新たな星となり、生命が生まれる。
『大いなる手』を飾っていた指輪の名前がその星の名になった。
原初の記憶を封印し、ただ生命としての役割を果たすために生きる。
文明は栄華を迎え、原初の記憶が目覚める。『怨嗟』『狂気』『愛情』『嫉妬』最後に『無』この五つの指輪の末裔らが一つの星に集まり、互いが持つ存在の意味を掛けて戦う。
『狂気』を飲み込む『無』。『怨嗟』を飲み込む『無』。『愛情』を飲み込む『無』。『嫉妬』を飲み込む『無』。
全てが『無』に飲み込まれ、正しき形となった。世界を掴む手が望む結果になった。
飽きた。私の指を飾るのはもっと美しい指輪と。
手より更なる先、意思の元は新たな指輪を求める。『親愛』『抱擁』『慈しみ』『友愛』『無』。今度はこれを望もう。
『無』は捨てるわけにはいかない。
打算的な存在は常に自身を安全な場所に置きたがる。ただ、全ての指輪が武器として恐ろしいほどの力を持っている。
力無き者は全てを奪われる。
奪われることに慣れる事は良いことなのかは分からない。ただ、思考を手放すには丁度良い。
指を切断する者はまだ現れない。
現れた時、どれだけの意思が目覚めるか分からない。
生贄になるのか、それとも救世主になるのか、魔王になるのか。それは誰にも分からない。
『指ヲ飾ル者』でも――