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『溶岩ノ剣』

 とある時代の話。

 炎。どんな敵でも焼き尽くす力ある剣。セジウル火山の洞窟に住む魔物が鍛造した魔剣。

 世界を支配する魔王を討ち取る為に、勇者は、世界中に存在する力ある剣を探していた。しかし、大半は魔王に破壊されていた。残された剣は少なかった。それらも破壊され、唯一残ったのは『溶岩ノ剣』だった。


 セジウル火山に向かった勇者。この土地には有毒ガス、凶暴な魔物が存在、間違って入り込んでしまえば確実に命を落とす。彼は知恵と力でそれらを乗り越え、『溶岩ノ剣』を鍛造した魔物と出会うことが出来た。

 洞窟内を見渡し、再び魔物に顔を向ける。

 魔物にしては理知的に見え、独特な雰囲気があった。それは所々に置かれた古びた本、それらが彼の生き方、過ごした年月を証明している様であるから。

 皮膚が緑と青の斑模様。長く伸ばし、痛んだ銀髪を後ろで一つに結い、少し広い額には深い皺が刻まれている。その下、落ち窪んだ眼窩から鋭い視線向けられている。

 魔物が枯れた声で溜息を一つ。その後、此処に来た理由を聞かれた。


 俺は、来た理由と現在の世界の状況を説明した。

 それに対し、何個か質問してきた。ただ、何というか、的が外れな内容だった。普通なら、魔王はどんな力を持っている? 何処を根城にしている? などを聞きそうなのだが、質問の内容は魔王の出自、どの地域から侵略していった? 魔王の行動、心理的な事に関する質問ばかりだった。

 思わず、何故そんな事ばかり気にする? と問いかけてしまった。無視されてしまったが。

 一拍置き、「魔王を殺すことに躊躇いはないか?」

 質問の意味を考えるだけ時間の無駄。殺すことに何故躊躇いを持つ必要がある! と俺は返答した。


「そうか……」魔物は地面に手を置く。炎の魔法陣が生まれ、赤い光が天井にまで一気に伸び、静かに元へ戻る。光点が魔法陣の上を走り、中心で一時停止、ゆっくりと浮いた光点が勢いよく飛び込む。次の瞬間、凄まじい熱波が起きる。

 勇者は熱から顔を守りながらも、魔法陣から視線を外さない。

 光点から引き上げられる獣の頭蓋で作られた柄。乱杭歯が溶岩と同じ色で輝いている。その先の刀身は両刃だろうとしか表現出来ないものだった。常に形を変え、その本体は剣の名前通りの溶岩を刃に変えた物だった。形を変える度に落ちる奇妙な文字列。

 魔物は、この文字を『魔力文字』と言った。溶岩を拘束する為に必要な力と付け加えた。

 勇者は剣に向かって歩いて行く。全身に感じる熱波。この熱に耐えられなければ、魔王を討ち取る事など夢のまた夢。ここからは覚悟ではない、俺がしなくて誰がする。これは必然なのだ――

 

 柄へ腕を伸ばす。掴んだと同時に乱杭歯が伸び、手に突き刺さる。凄まじい熱で肉が炭化する。同時に回復魔法を発動。再生と破壊が繰り返される。『狂黒曜石甲冑』の手甲から肩当てまでが破壊され、吹き飛ぶ。

 純白の肌に『魔力文字』が刻まれていく。腕から発する熱風で、顔に火ぶくれが出来る。金髪が焼け、緑色の瞳が白く濁っていく。

 回復魔法が追い付かない。このままだと半身が焼失してしまう。だが、ここで諦める訳にはいかない。魔王を必ず倒す。この世界に平和が訪れるのなら、この身など喰わせてやる。

 力を寄越せ―― お前が持つ全ての力を俺に寄越せ!

 その言葉を待っていたかのように『溶岩ノ剣』は静かになり、手に突き刺さっていた牙は抜けていた。


「お前を次と決めたようだ。権利が移動した以上、私に止める権利は無い。好きな様に使い、勇者の役目を果たせば良い」

 

 剣を受け取った勇者はしばらくして魔王を討ち取った。

 全て終えた彼は母国へ戻る。その夜、突如起きた大火災で国は焼失。翌朝、大地震が発生。これが原因で新たな火山が生まれた。わずか一日で周辺は地獄と化した。所々から噴き上がる毒性ガス。流れ、川となった液体は強酸。

 彼を称えた人達は全て消えた。愛している人も消えた。全てが消えた。

 目覚めた勇者、彼は無傷だった。ただ、右手が握る『溶岩ノ剣』が腕と同化していた。同時にこの剣が存在している意味も知った。

 この火山が存在し、溶岩が生まれ続ける限り、『溶岩ノ剣』は勇者を呪い続ける。

 気づくのが遅かった。

 あの魔物は剣を鍛造したのではなく、受け取っただけ。前の勇者から――

 彼はこの場で、人間や魔物、その他の異形が、星を傷つける事の罪に気づくまで、不死の呪いで生き続ける。溶岩に流れる『魔力文字』が全身に流れ、灼熱の中で星との対話を強制される。

 次の勇者が来て世界を変える。その為には新たな魔王が必要。彼が根気よく星と対話し、命あるモノに罪を気づかせる事が出来れば―― この連鎖は終わる。

 

 数年後、この火山を調査しようとした隊が、何処からともなく聞こえて来る不気味な叫び声を聞いたと報告が上がった。調査は一時中断され、それから再開されることなく封印地域とされた。

 それから内乱、小国同士の争い、異形からの侵略など多々起きたが、魔王は誕生しなかった。

 更に数百年が経ち、『氷の魔窟』で魔王が現れたと噂が流れた。


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