『戯言ノ刀』
とある国の王座の後ろには隠し部屋があり、円形の一室の中心には美しい刀が円形の台に刺さっていた。純白で荘厳な城の中、一番美しく装飾された場所に。黄金と純白で統一されている中、際限なく無駄を省いた武器。刀身のみこそがこの存在の正しい姿、と言われている様な感覚に襲われる代物。
その魅力に取りつかれた人達は多く、数多の手を渡り歩いた歴史もある。そして、女王もその一人だった。東方から流れ着いた武器。美しい水面を刀の形で固定していた。その中では水疱が生まれ、時折、見たことも無い魚が回遊している。
本当に不思議な刀だった。女王がゆっくりと近づくと、刀身を境に女性の顔が浮かび上がってくる。美しい黒髪の女性。年齢は私よりも少し下の様に見える。異様に白い肌。普通の存在ではないことぐらい分かる。この刀に憑りつく化け物だろう――
それでも構わない。日々感じる重圧と孤独から逃れられる瞬間だから――
会話をする。
他愛も無い会話。決して日常の話はしない。空想の話だけ。
この時間が次第に長くなっていることに一抹の不安を感じる、楽しい時間の中にある僅かな理性。似つかない二つの感情。これが会話を重ねる度にゆっくりと削られていく。
いつか私は―― この国を亡ぼすだろう。いや――、必ず滅ぼす。
そして、最後にこの『戯言ノ刀』で自害する。
「なあ、いつもの言葉で終わりにしようか」私の言葉に、黒髪の女性が頷く。
「私は呪われた。美しい呪いで。もう少し待っていてくれ、すぐに行く」続くように刀から声がする「アナタと一緒に」
このやり取りを家臣に見られてしまった。即刻処刑し、この日から私の殺戮が始まった。