『予言の杖』呪い
古びた鎧と汚らしい布を巻き付けた中年男性が言う。
「こんな予言は信じられない! 何故、俺の未来が最悪な結果にならなければならない!!」
怒声は響くが、その声に反応する者はいない。
固定した世界。
夜、様々な種族が行き交う街中は動きを止めていた。動けるのは中年男性のみで、罵詈雑言を撒き散らしながら歩いている。
空を見上げると、男が経験した景色が醜く繋ぎ合わせられた、異様なモノが広がっている。
殺人、強姦、暴力と様々な悪行が映し出されている。
全て中年男性が犯したことだった。
絶叫。記憶の奥底に封印していた事までが空に暴露される。
『予言の杖』は、手に入れた瞬間に見た未来を必ず実行することで願いが叶う。どのような内容でもだ。
だから、罪を犯した。
憎む相手を必ず呪い殺すために――
しかし、実際には何も起きなかった。怒りに任せて『予言の杖』を捨てようとした時、世界が変化した。
男は周囲をもう一度見渡し、しばらくして気づく。全身から嫌な汗が吹き出し、額から流れた汗が目に入り、思わず閉じてしまう。急いで目を擦り、再び目を開く。
淡い期待。映る景色が元の世界だったらと――
だが、何も変わっていなかった。
『予言の杖』の中に閉じ込められてしまった――
この杖の魔力は、姿を消すことが出来るだけ。
相手を殺すには、杖の先端にある複数の翼が絡みついた造形物で撲殺すること。黄金の柄の先にある真っ白のソレは血で汚れ、酸化した赤で彩られていた。鈍い赤と白の境界から赤と白の粒子が立ち上り、絡み合うと消滅していく。
願いが成就しないと所有者が気づき、放棄しようとした瞬間、杖に閉じ込められる。
杖が破壊されない限り、犯罪者に対して罪を償わせることが出来ない。
「此処から出してくれ!! 俺は俺は、アイツを殺さなければならないんだ!! 頼む! 出してくれ!!」
慟哭が杖の中で響く。一切の音が外に漏れることなく、杖は新たな所有者を探す旅を続けていた。
姿を消し、静かに。
とある国の王が暗殺されてから一週間が過ぎていた。
城下町に変装して出掛ける悪癖が漏洩していた事で暗殺されてしまった。
何かが複雑に絡み合った物で撲殺されている姿で発見された。この事実を隠蔽するために迅速に影武者が王になったが、城内では不穏な動きが出ている。
内乱が起きる前のキナ臭いが漂っていた。
『予言の杖』に閉じ込められていた中年男性の命が尽きようとしていた。
薄れる意識の中、最後に殺した男の顔を思い出していた。
あぁ――
アノ男―― 誰かに似ていたような――
何も見ない―――
魔術使いの少女
薄汚れた白のローブ。フードを目深に被り、顔を隠しながら歩いている。
人の往来が激しい夜の街の中を縫う様に歩いている。少女の視線の先には、同じぐらいの体格の少女が歩いている。対照的な服装。
清潔な服装。爽やかな香りを漂わせている。
追跡者は酷い匂いを放っている。不潔な匂い。
「アイツを殺す。アイツ殺す。私から全てを奪ったアイツを……」
『予言の杖』を汚れた布で包み、いつでも引き出せる様にして握りしめる。
奪われた魔術を取り戻すために、ようやく見つけたこの魔具でアイツを殺す――
先天的に魔術しか使えない種族のため、他の攻撃を使うことが出来ない。
この魔具に呪いがあるのは分かっている。それでも、私にはこの道しかない――
それからしばらくして夜の街が騒がしくなった。
薄汚い少女が、この国で有能な魔術使いの少女を撲殺。犯人を捕らえよとした瞬間、姿が消え、その場に残されたのは奇妙な形をした杖だけ。
衆人環視の中、杖はゆっくりと姿を消した。




