『美しい毒ノ剣』
とある市に有名な女性がいた。誰もが美しいと思う人物。高級な服、装飾品を身につけている訳でもなく、彼女の振る舞いが全て美しかった。一目見てしまえば共に居たいと願ってしまうほどだった。それに対して彼女はとても愛想が良く、誰にでも笑顔で真摯に応えていた。その噂を聞いた市長も、彼女の美しさを認め、傍へ置こうとした。しかし、彼女は断り、市内を歩き続けた。全ての人に逢うように、親愛を持って接した。その行為は全ての生き物と言っても過言ではなかった。
それからしばらくして疫病が流行り始めた。凄まじい感染速度広がり、市に存在していた生物は全て死んだ。
市の中心、普段なら多くの人々が行き交う賑やかな広場は死体が点在している。腐臭が立ち、不衛生な風が吹く中、彼女は変わらない雰囲気で歩いて来る。周囲を見渡しながら歩を進め、顔にはいつもと変わらない笑み。そして、広場の中心に立ち、見上げる。空気の淀みにより、弱く感じる陽光。市の空を覆っている魔力を帯びた霧。病の力を持つ魔力が次第に渦を作り、竜巻の形となって彼女の頭上に伸びていく。額で受け止め、笑みが歪になっていく。身体がゆっくりと崩れていき、体内に魔力が走ることで、皮膚に切れ目が出来る。ゆっくりと肉が切り離され、落ちていく。中はドロドロに溶けており、赤黒い液体がレンガ調の地面に広がる。肉に引きずられるように骨も溶け、彼女は数分で完全に液体となった。悪臭を放つ中心、『茨で作られた柄を持つ両刃の黒の剣』が現れた。そのまま地面に突き刺さり、魔力を帯びた霧が一度周囲を回った後、空へ戻って行った。刀身から漏れだす黒い霧。ゆっくりと地面に落ち、静かに広がっていく。
時が流れる――
あらゆる病を生み出す呪われた土地として管理されていた。強力な魔力で封印、併せて特殊な材質でドーム状に覆っていた。生物が生きられない空間の中、あらゆる無機物が黒の剣を守る様に変形していた。それと同時期、遠く離れた市で、神話に現れる女神の様な女性が居ると噂が立った。誰もが美しいと思う女性だと――