第8話「それは、フラジャイル・スロート」
ネオンとフラジャイルは、マーリンがミラを連れて行ったであろう、ネオンとミラの寝室へと向かった。
「マーリン、ミラの様子はどうだ?」
「特に問題はありませんよ。ランスロット卿はグゥイネヴィア王妃に危害は加えていませんからね。」
「そりゃそうだよ〜!いくら闇に呑まれかけたからって、元々ミラの事が好きだったんだし…」
その直後、ミラがゆっくりと目を覚ます…
「んゆ…あれ?フラジャイル…?とっても久しぶりじゃない〜!また会えて嬉しいわ〜♪しばらく会えていなかったから寂しかったのよ〜?」
「えへへ…久しぶり…」
ポリポリと少しバツが悪そうに頭を掻く、フラジャイルと呼ばれたレッサーパンダの少年。
フラジャイル・スロート。別名、ランスロット。
それが彼の名前であり、そして、ネオンと目的を共にする1人でもある、朽ちた円卓の騎士でもあった。
「えっ、あれ?ここって寝室…?アタシなんでこんな所で寝てたのかな…?」
「えっ!!あっ、なんでだろ〜?不思議だねぇ〜!きっと疲れて寝ちゃったトコをマーリンが運んでくれたんじゃないかなぁ〜!?」
「私はそんなことはしませんよ。」
「……(ソコは話を合わせてよ…)」
「…ゴホン!ミラ、私が運んだのだ。まだ少し眠そうな顔をしているな。もう少し休むと良いだろう。」
「えっネオンが?……う〜ん…?言われてみれば、確かにちょっとまだ眠いかも…?」
「私はこれからフラジャイルと共に城を出る事になる。シリアルに会いに行かなければならなくなったからな。」
「えっ!シリアルに!?でもそれってネオンはここから…」
「ああ、しばらく城を空ける事になる。」
「……そっか、行っちゃうなら仕方ないよね…じゃあせめて、このコンパクトを覗いて…?」
「ああ、分かった。」
ネオンはミラが取り出したコンパクトの鏡に顔を映す。すると鏡にはネオンの顔が常に映ったままになる。
「アタシの魔力って、あまり役に立たないよね…でも、こうしていつでもネオンの顔を見られるから、アタシはこの魔力は、と〜っても好き。」
「城の事は任せたぞ、ミラ。…では、私達は準備を済ませたらすぐに出る。フラジャイル、行くぞ。」
「う、うん…またね、ミラ。」
「うん!またね〜、フラジャイル!」
そしてネオンとフラジャイルは寝室を出てゆく…ちなみにマーリンは置き去りである。普段からマーリンは雑な扱いをされているが特に問題は無い。
「さて…準備とは言ったが、特に用意するものは無いな…長旅するという訳でも無い。このまま向かっても構わないだろう。」
「ねーねーネオン、シリアルの居場所って目星ついてるのぉ〜?」
「具体的な場所は分からぬが…アレで分かるだろう?」
「……あっ、あー…アレね。うん。すっっっごく分かる。てかめっちゃ分かりやすい。」
そんなこんなでシリアルを探しに行くため、城を出てゆく2人だった。
そして、とある場所では……
「美しき〜輝きを放つ〜、あの宝石の〜ような〜、輝きは〜きっと〜、大豆の甘辛煮〜♬」
とんでもなく音痴かつ、壊滅的に歌詞が酷い詩を披露する、鳥の獣人の吟遊詩人が居る。その近くに居た子供達はポカンと口を大きく開けている。
「にーちゃん吟遊詩人なのに下手っぴ〜!変な歌〜!」
「イケメンなのに全部台無し〜!」
やいやいと子供達に小馬鹿にされている、鳥獣人の吟遊詩人。
「自分は、それでも吟遊詩人として生きるのが好きです。…あまり路銀は稼げませんけどね。」
そう言ってハープを奏でる。本人の詩とは違い、その旋律はとても美しく、そしてとても洗練されている。こっちをメインにした方がよっぽどウケが良さそうである。
……そして、そこに丁度居合わせた、ネオンとフラジャイル。2人とも面食らっている。
「…いや、すぐに見つかるとは思っていたが、まさか城下町に居るとは…」
「うん、ボクもビックリした…特に歌詞が…」
「来ましたか、フラジャイル。それにネオンも一緒ですか。」
「シリアルやっほ〜!えっと、マーリンから聞いたんだけど、ボクに何か用があるの?」
「はい。それでは簡潔に教えますね。フラジャイルの持つ闇の魔力と同じものが、別の世界で見つかったようです。」
「えっ!?それってつまり…」
「はい。罪剣アロンダイトで間違いなさそうです。」
「え…このままだとマズいよね…ねぇネオン、これってつまり…」
フラジャイルはネオンを見つめて反応を伺う。
「ああ、つまり…ifの粛正をする時だ。」
鋭い風が、その場を通り過ぎた…