第7話「それは、潔癖」
ネオンはフラジャイルと共に傷を癒すために、とある場所へと向かう。
「ねぇネオン…ここってさ、大浴場だよね?」
「ああ、そうだ。」
「なんで!?」
2人が辿り着いたのは、キャメロット城にある最も豪華な造りになっている大浴場。一部崩壊している場所はあるが、浴場としての機能は充分過ぎるほどである。
「なんで…って、それは傷を癒すために来たに決まっているだろう。」
「だからなんでぇ〜!?!??」
「………フラジャイル、私の魔力は水の魔力だ。それも、この荒廃した世界に恵の雨を降らせてみせようとするレベルのものだ。私はこの魔力で傷を癒す。医療器具の備品を無駄に使わないためにもだ。」
「それならさっき謁見の間でやればよかったんじゃないの?ネオンが割と水浸しにしちゃってたし…」
「あれ以上あそこを散らかしたら後片付けが余計に大変になるだろう。だからここで済ませようというのだ。ここならば水の魔力を使っても気にならないからな。」
「え〜?だったらさぁ〜、外の畑とかでやった方が一石二鳥じゃないの?確かに土は肥えてないけど少しくらい水吸わせられるしお得じゃない?」
「………フラジャイル、お前は外で全裸になるつもりか?」
「えっ!?外で服なんて脱がないよ!?…えっ、ちょっとまって!?服脱ぐの!?なんで!??!?!?」
「なんでって…水の魔力で癒すのだから、服を脱ぐのは当然だろう。」
「えっ、そういう魔法とかじゃなくて物理!?!??ダイレクト!?!!?」
「私の魔力はそこまで器用な能力では無い。普通に服が水浸しになるぞ。」
「えっちょっ、まさか2人で一緒に裸の付き合い!?」
「ええい、さっきから色々とやかましいぞ!!細かい事を言っている暇があるなら早くそこに直れ!!処置が遅れれば傷跡が残るだろう!!」
「ちょ〜っ!!年頃の女の子が小さな男の子をひん剥こうとしないで!?」
わちゃわちゃしながら結局全裸になった2人。もちろんフラジャイルは無理矢理脱がされた。そしてネオンは水剣を構える。
「あのぉ〜…もしかしてネオン、ボクとこういう事したかったの?」
「斬るぞ?」
「ちょっ、怖いって!どこに剣先向けてるのぉ!?」
「冗談はこれぐらいにして、さっさと始めるぞ!…そこで少し大人しくしているといい。」
「はぁ〜い…」
納得いかない様子のフラジャイルと、事務的な態度のネオン。少し恥ずかしそうにしているようにも見えるフラジャイルをガン無視して、ネオンは水剣に魔力を集中させてゆく…
「……バブルトリンケット!!」
ネオンが水剣を振るうと、2人の身体に小さな泡がいくつも纏わりつき、少しずつ傷を塞いでゆく。
「………あのさネオン、なんかやけに泡立ってない?あと水剣振る前に混ぜたソレはナニ?」
「洗剤だ。」
「なんで!?」
「小汚いからだ。」
「めっちゃ滲みるんだけど!?」
「傷口にも優しいものだから安心するといい。」
「いやいやいや!そうじゃなくて!せめて獣人用ボディソープとかにしてよ!?」
「獣人用ボディソープは、今はミラ用のものしか無い。あれを勝手に使うと説教されるからな。」
「てかなんでネオンまでアワアワになってんの!?」
「それはさっきまで私は土を耕していたからな。汗もかいている。この際だから、ついでに洗ってしまおうという事だ。」
「なんでボクまでソレに付き合ってんの!?」
「言っただろう。小汚いからだ。フラジャイル、お前は風呂嫌いだろう?お前の事だ、どうせここ暫くシャワーすら浴びてなかったのではないか?」
「うっ…」
「今のお前はただの小汚いレッサーパンダの子供だ。小汚いフラジャイル、その汚れを落とせ。小汚いからな。」
「小汚い小汚い連発しないでよもうー!うるっさいなぁー!!!」
「傷を癒して汚れも落としたなら、この浴場の湯船に浸れ。100数えるまで上がるんじゃないぞ?」
「あーーーー!!!もうホンッッットに子供扱いばっかしかしてくれないんだからこの堅物精神年増おばさんドラゴン!!そんなんだから色気も無いし胸も無いんだよぉ!!」
「貴様…!!言ってはならない事を…!!それに胸は種族柄仕方が無いだろう…!!」
「やーいやーいロリババアー!色気も胸もボクに対する気遣いも無い母性ゼロの女捨てた堅物女〜!」
「貴様ァッ!!もう捨て置けん!!そこに直れッッッ!!!その身体の汚れごと心の汚れも落としてくれるッッ!!!」
「わ〜!?!!?年頃の女の子が小さな男の子をひん剥こうとしないでってば〜!!!!!」
結局その後フラジャイルはネオンから強制的に全身を洗われ、そして湯船に沈められ100数えさせられた。そして洗剤で洗われたため毛並みがボサボサになった…ちなみにネオン自身はテキパキと全部済ませた。
「さて、フラジャイル。入浴は済ませたが、そんなナリではダメだろう。しっかり毛並みを整えるために体毛を綺麗に乾かし、ブラッシングもしてやろう。お前の事だ、服も適当に着て着崩れするだろうから私が着せよう。」
「ボクそこまで子供じゃないよ!?なんでそうお母さんみたいな事ばっかするの!?」
「お前は実際自分でちゃんとやった試しが無いだろう。浴場からずぶ濡れのまま全裸で走り去った事が何度あったことか。服も脱ぎ散らかしたままでな。それを毎度片付けていたのはヒルトなのだぞ?」
「うっ…」
「お前は雑過ぎる。食事の席でも…」
「あーもー!!わかったわかったよ!!うるさいなぁ!!!全部ほじくり返そうとしないでよ!」
「ならば大人しくする事だ。さあ、脱衣所で全部済ませるぞ。」
「ちょっ、引っ張らないでって!」
「バスタオルはお前には必要無いな。このハンドタオルで充分だろう。」
「わっ!!?!?ちょっ、自分で拭けるから!!マジで全部やるつもりなの!?!?」
「そう言って出来ないのがお前だろう。少しじっとしていろ。」
「ちょっとちょっとちょっと〜!!!そんなとこまで拭かなくていいからっ!!!!」
「ええい、ジタバタするな!拭きにくいだろう!!」
「だ〜か〜ら〜!!年頃の女の子が以下略!!!」
結局その後フラジャイルはネオンから強制的に全身を拭きあげられ、綺麗にブラッシングされ、髪を綺麗にとかされ、ドライヤーで丁寧に乾かされ、汚れていた服の代わりに替えの服を着付けされた…ちなみにネオン自身はテキパキと全部済ませた。
「………はぁ、ネオンのバカ…」
ふてくされた様子のフラジャイル。だが、こんなくだらない事でため息をつくよりも、今は自身がしでかした事…ミラを襲った件が頭にちらつく。その件の事をミラ本人に謝りに行かなくてはと思うのだった。ネオンは既にミラの元へと向かった。
「シリアルかぁ…今なにしてるんだろ?ボクに用事って…ボク、あの人にナニかしたかなぁ…??」
マーリンから伝えられた、シリアルという名の人物からの伝言。色々と雑なフラジャイルは考えても結局何も分からないため、とりあえずネオンとマーリンが居るであろうミラの部屋へと向かって、たたたた〜っと元気に走ってゆくのだった。