第5話「それは、水と影」
ネオンはフラジャイルへと急接近してゆく…
「おっと!そう簡単に攻め入らせないよ!」
「ッ!!」
フラジャイルは数本の影糸をネオンに向けて振り抜く。ネオンは咄嗟に抜刀し、影糸を弾く。
「フラジャイルの方が射程距離は優位か…ならば!」
ネオンは横から回り込もうと弧を描くようにダッシュして接近を試みるが…
「そうはさせないよ!シャドウスカー!」
床全体に広げられたフラジャイルの影から黒い爪のようなものを伸ばし、ネオン目掛けて連続で切り裂こうとする。
「なッ!?まさかこの影…この場において、私の方が圧倒的に不利という事か…!?」
ネオンはフラジャイルの連続攻撃を避ける事に精一杯で、なかなか攻め入る隙が見つけられない。
「ほらほらほら〜♪そんなんじゃ、ミラはボクが奪っちゃうよ〜?」
そう煽りながら、影から何本も影糸を伸ばし、ネオンを貫こうとする。
「くッ、だがこのまま何も出来ぬと思うな!アクアレーザー!!」
ネオンが影糸を薙ぎ払うように水剣を振るうと、一本の細い水のレーザーが発射され、フラジャイル目掛けて飛んでゆく。
「うわあっ!飛び道具!?」
意表を突かれたフラジャイルは、慌てて影糸の束を前面に展開しシールド状にしてレーザーをガードする。
「今だッ!ストライドエッジ・ミッド!!」
その隙を見逃さず、ネオンは素早い踏み込みから一気にフラジャイルの目の前まで接近し、上から下へと水剣を振り下ろす。
「ちょっ、危ないなぁもう!!」
影糸の束を頭上にも展開し、ネオンの攻撃を凌ぐ。さらにそこから影糸を数本伸ばし、ネオンの身体を貫こうとする。
「そうはさせないッ!はあぁッ!!」
影糸を避けるようにスライディングし、続けざまにフラジャイルの顎に向けて尻尾を下から振り上げ攻撃する。
「わわっ、そんなに張り付かないでよぉ!シャドウバインド!!」
接近されるのを嫌がるかのように、影糸を振り回してネオンの尻尾を弾く。それと同時に、複数の影糸を自身の足元から伸ばし、ネオンの手足と尻尾に絡みつかせて拘束する。
「なッ!?まずい!!断ち切らねば…!」
捉えられたネオンはそのまま逆さ吊りにされ、無防備な姿を曝け出す。水剣を変形させ、自身に絡みつく影糸を切り拘束から抜けようとするが、影糸は次々と絡みついてくる。
「そのまま飛んでっちゃえ〜!それそれそれ〜!」
幾重にも影糸を振り回し、ネオンの全身に連続攻撃を叩き込み、その衝撃でネオンは一気に壁際まで吹き飛ばされる…
「がっ…!!…くっ、なんて…厄介な…」
ズキズキと痛む身体。少しふらつきながら立ち上がったネオンの中へ、徐々に魔力が満ちてゆく…
「あ〜少し攻め入られ過ぎたかなぁ?キミの魔力が溜まっていってたのは分かってたよ。ボクは最初に隠遁ダークネスホールで溜めといた魔力使っちゃったからなぁ…」
「惜しいな、フラジャイル…2つ、足りていない。1つ目は、私はレリックによる魔力の累積だけではない。私自身の魔力…劣勢になればなるほど、私の潜在能力は引き出されるのだ。そして2つ目は、私を拘束した時点でケリをつけなかった事だ。『フォースドライブ』…水竜リヴァイアサン・オーラ!!」
その瞬間、ネオンの全身から水の竜のようなオーラが出現し、まるでネオンの守護霊かのように背後に位置取り、ネオンはそのオーラに水剣から水の魔力を流し込む。その様子は、さながら水剣によって作り出された水竜。ネオン本人と水剣の魔力が混ざったそのオーラは、ネオンの一部の攻撃性能を限定的に強化する。鞘と柄を左右に大きく広げて構え、どれだけ両腕の距離を離そうとも、鞘と柄を繋ぐ水は決して途切れる事は無く、水剣の刃を全て振り抜く事が出来ない…そんな光景だった。
「行くぞ、フラジャイル!貴様のその影、元来在るべきものに粛正してみせよう!」
再び鞘を柄に納め、居合の構えを取る…まだ居合抜刀術は繰り出せていないネオンだが、ネオンの『フォースドライブ』と発した言葉は何を意味するのか…