第4話「それは、決意表明」
ネオンは、感じ取った異様な気配の元へと向かう…
「この方向は…そして、この気配は…まさか…!?」
ネオンの足取りが次第に早くなる。焦りが見え始め、そして気付けば全力疾走となっていた。
「ミラッ!!」
バタン!…と、ネオンはとある扉を大雑把に開ける…その扉は、謁見の間の扉であった。
「やあネオン!久しぶりだねぇ〜♪」
そう言葉を発したのは、レッサーパンダの獣人の少年だった。黒い糸のようなものがネオンの玉座を覆うように纏わりついており、その中心にミラが縛られている。ミラは気を失っているようで、微動だにしない。
「…フラジャイル、戻ったのか…その魔力は…」
ネオンは宝物庫から持ち出したエクステンド・レリックを強く握り、自身の右後方に位置するように構える。腰を落とし、居合いのような構えである。しかし、普通の居合いの構えと違うのは、右手に剣の柄を持ち、左手に剣の鞘を持つ…まるで鞘を振り抜かんとするような構えである事だ。
「怖いなぁ、そんな顔をしないでよ〜。せっかくボクの魔力の〝影糸〟が、こうして発現したんだからさっ!」
フラジャイルと呼ばれたそのレッサーパンダの少年は、無邪気な笑顔で強い魔力を放ち、その影糸なるものでミラを強く締め上げようとする。まるで新しいオモチャが手に入った子供のように。
「やめろッ!今すぐミラを解放するんだ!貴様がその魔力に呑まれたのであれば、私は…!」
決して振り抜く事のない剣を強く握りしめ、ネオンはフラジャイルを睨みつける。このままでは何か良くない事が確実に起きる、そうネオンは確信していた。
「え〜、ヤだよ。だって…ようやくキミからミラを奪えそうなんだもん♪…ボクね、ずっと思ってたんだ。どうやったらこの子をボクのものにできるかってね!」
フラジャイルは無邪気な笑顔から下卑た冷笑へと変わり、自身も影糸で縛り上げ、ミラと共に影糸の中へと沈もうとする。
「ミラを拐かそうとするのならば…私は例え、貴様が相手であっても容赦はしないッ!」
しかし、ネオンの剣は抜かれる事は無い。だが、それでも止めねばならぬとネオンを焦らせる。その焦りが、剣を握る手の強さを強める。
「じゃあ…ボクから取り返してみてよ。コレから逃げられるならね!隠遁…ダークネスホール!」
その直後、フラジャイルの影が巨大化し始め、瞬く間に広がってゆく…謁見の間の床をフラジャイルの影が全て覆い尽くしてしまう。
「これは…!?くッ、私は…例え汝を振り抜く事が叶わぬとも、未抜刀の剣とし、振り抜かずが故の振り抜く刃として、この瞳を拓き、この身体で示してみせよう!」
ネオンがそう決意した瞬間、ゴポッ…と音を鳴らし鞘から水がじわりと溢れ出る…
「……!!!この魔力は…この感覚は…!そうか、このレリックは、そういう事だったのだな…!!
『未拡張が故の拡張の剣』…それが、汝の本質…そして、それが私の本質でもある、そういう事なのだな…!いいだろう、この私と共に、恵みの雨を降らせよう!」
ネオンは鞘を持つ手を右後方から一気に左側へと振り抜く…その剣の刃は鋼では無く、水であった。その水剣は、ネオンの決して振り抜く事の無いという決意に同調し、その本質を露わにする。
「へ〜、ネオンもやっと使えるようになったんだ〜♪…でも、ボクは負けないよ?それでボクを倒せるのなら…やってみせなよ、ネオン!」
フラジャイルはネオンを煽る。例えネオンが魔力を解放しようとも、自信満々といった様子だ。その身体の至るところから影糸が滴り落ちる…
「いいだろう、フラジャイル。私は貴様を止める!そして、ミラを返して貰うぞ!」
ネオンは再び鞘を柄に納めるように居合いの構えを取る。鞘と柄の役割が真逆の、独特で異質な構え。水の魔力がネオンの中を満たしてゆく…
「我が名はネオン・ペンドラゴン!今この場において、聖杯に選ばれしチカラの開拓者となる足がかりとしてみせよう!」
水剣は渦を巻き、ネオンの魔力も渦を巻く。両脚と尻尾で地面に3点立ちし、腰を落とした低姿勢で構え…そして、3点を蹴りフラジャイルへと猛スピードで突貫して行った…