第1話「それは、ネオン・ペンドラゴン」
「ふう…だいぶ耕せただろうか。」
そう呟いたのは、ドラゴンの少女。荒廃した地面をひたすら耕した直後だった。汗が噴き出している。
「今、この世界の大地には栄養が無い。土が駄目だと作物は育たないが、何もしないよりはマシだろう。」
ここはキャメロットの都、ログレス。草木は枯れ果て、建物は朽ち、人の姿は一切無く、渇いた土地だけがそこに広がっていた。
見るも無惨な景色だが、ドラゴンの少女の瞳には、希望の光は失われてはいなかった。
「私は、出来る事から解決してゆくしかない。そうする事しか、今は出来ぬのだ。」
ドラゴンの少女は、視線を城へと向ける。それは、朽ちたキャメロット城だった。
「キャメロット城には、我が妃、ミラが居る。彼女のためにも、せめて衣食住は整えなければ…このログレスも、救う事が出来れば良いのだが…そもそも自身の事すらまともに出来ていない状態では、話にならないからな…」
ドラゴンの少女はそう言うと、その場に座り込み、少し休憩を取ろうとする。
「ネオンさん、調子はどうですか?」
そう声をかけたのは、まるでペガサスとユニコーンを掛け合わせたような見た目の獣人だった。関節が馬そのものだが、二足歩行をしている。
「…マーリンか。見ての通りだ、いつものように耕してはみたが、やはりこの通り…駄目だな。土地が死んでいる。」
ネオンと呼ばれたドラゴンの少女は、そう答える。
ネオン・ペンドラゴン。それがこのドラゴンの少女の名前だった。
「そうではありませんよ、ネオンさん。貴方の調子を聞いたのです。ずっと重労働をし続けていますので…瓦礫の片付けやら何やらと、色々作業をしているではありませんか。」
マーリンと呼ばれた、ペガサスとユニコーンを掛け合わせたようなこの獣人は、そう伝える。ネオンを気遣うと言うよりは、シンプルに状態確認をしているだけ、といった感じの声のトーンだった。
「私なら問題は無い。というか…マーリン、調子を聞くぐらいなら、飲み物の差し入れでもしてくれたら助かるのだが?」
そうはいったものの、今のこの世界は水すらまともに確保出来ないレベルの状態である。ネオンもそれは分かってはいるため、冗談として、そして嫌味としてマーリンにそう言ったのだった。そんな小言でも言わなければ正直やっていられないのだろう。
「これはこれは、気遣いが出来ずにモーシワケナイ!貴方は私に〝だけ〟は当たりが強いですねぇ。それでは、少しでも気分が明るくなるように、ここはひとつ〝どうでもいい話〟をしてあげましょう。」
「ッッ!?(げっ…また始まったわね…)」
マーリンの〝どうでもいい話〟という言葉を聞いた瞬間に、ネオンの顔がとても渋いものを食べたような表情になる。
「ネオンさん、空から鳥のフンが落ちてきたとしましょう。これはひとつの驚異です。さて貴方ならどうしますか?」
「そんなもの、避けるに決まっているだろう。服に付こうが肌に付こうが汚いからな。」
「避ける必要なんて無いのですよ。そのまま受けましょう。汚れてしまっても後から洗えば良いのです。もし鳥のフンという脅威を顔面受けしたとしても、洗ってしまえばモーマンターイ!ですからね。」
ネオンは絶句し、頭を抱える。マーリンの〝どうでもいい話〟は、毎回ホントにどうでもいい話なのだ。ネオンはマーリンを放ってキャメロット城に向かおうとする。
「おや、ネオンさん。もう城へ帰るのですか?でしたら、グゥイネヴィア王妃に宜しく伝えておいて下さい。」
「伝えるって、何をだ?マーリン、お前がミラに要件なんて特に無いだろう。」
「もちろん、それは〝どうでもいい話〟を今度、披露して差し上げようかと。」
それを聞いたネオンは、マーリンを完全に無視してサッサとキャメロット城へと歩みを進めるのだった。