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恋唄

友達のお姉さんを好きになってしまった……!

作者: 間咲正樹

「姉ちゃん、こいつがいつも言ってる淳弥(じゅんや)だよ」

「あらいらっしゃい。雄馬(ゆうま)がいつもお世話になってるね」

「――! ど、どうもはじめまして……」

「ふふ、こちらこそはじめまして」


 最近友達になった雄馬の家に遊びに来たところ、雄馬のお姉さんが出迎えてくれた。

 ――俺の全身に雷に打たれたかのような衝撃が走った。

 な、何て綺麗な人なんだ……。

 大人の余裕を感じるショートボブの茶髪。

 獲物を狙う女豹みたいな蠱惑的な瞳。

 プルリと艶のある唇。

 そして抜群のスタイル……!

 そのうえ服装は薄手のキャミソールにホットパンツという、思わず「そんな装備で大丈夫か?」と訊きたくなるくらい、布面積の乏しいものだった――!

 今にもキャミソールから、たわわわわわな双丘がセカンドインパクトしそうだ……。


「俺の部屋二階だから、そこで遊ぼうぜ」

「あ、うん」

「後でジュースとお菓子持ってってあげるね」


 お姉さんからニコリと微笑まれ、また一つ心拍数が上がった。




「適当にその辺座ってよ」

「お、おう」


 雄馬の部屋は漫画本やゲームが散らかっていたり、壁には最近流行りのロックバンドのポスターが貼ってあったりと、典型的な男子高校生の部屋だった。


「……お姉さんと結構歳離れてるんだな」

「うん。姉ちゃんが今24だから、俺とは8コ差。うち母ちゃんがいねーからさ。姉ちゃんが昔から母親代わりで、いちいち口うるさいったらねーよ」

「そうなんだ……」


 雄馬のお母さんは雄馬が生まれて間もない頃に病気で亡くなり、それ以来お父さんとお姉さんと雄馬の三人でずっと暮らしてきたらしい。

 だが数年前からお父さんは単身赴任でアメリカに行っており、今は二人暮らしだそうだ。

 あのお姉さんと二人暮らし……!

 俺だったら毎晩眠れなくなりそうだ……。

 そしてお姉さんの名前は真礼(まあや)さんというらしい。

 うん、素敵な名前だな……。


「よし、早速装獣戯画(ビーストアート)やろうぜ!」

「ああ」


 装獣戯画(ビーストアート)は最近流行っている複数対戦型のスマホゲーで、偶然同じチームになった俺と雄馬は、それがキッカケで仲良くなったのだ。

 

「よーし、今日こそランク上げるぜ!」

「おっ、やっとるね二人共」

「――!」


 そこへ真礼さんが、ジュースとフィナンシェを持ってきてくれた。

 真礼さんが持ってきてくれたというだけで、謎の感動が全身を包む。


「おっ、ラッキーフィナンシェじゃん! これメッチャ美味えんだよ! 淳弥も食ってみ!」

「あ、うん、いただきます」

「淳弥くんが来るって聞いてたから、張り切っていっぱい作っちゃった」

「っ!?」


 真礼さんがパチリとウィンクを投げてくる。

 えっ!?

 てことはこれ、真礼さんの手作りですか???

 あわわわわ……!

 恐る恐るフィナンシェを一口齧ると、しっとりとした上品な甘さが口の中に広がり、今まで味わったことのないレベルの多幸感で心と身体が満たされる。

 これならいくらでも食べられちゃうよ!


「あっ、そうだ淳弥くん、せっかくだから、今日夕飯うちで食べていきなよ」

「へっ!?」


 ま、真礼さん!?


「おっ、いいじゃんいいじゃん、そうしろよ淳弥! いつも姉ちゃんと二人だと、味気なかったからさ!」

「……!」


 そう言われると、断りづらいな……。


「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えようかな」

「ふふ、決まりね」


 パンと両手を合わせると、鼻歌交じりに真礼さんは部屋から出て行った。


「ははぁん、姉ちゃんさては」

「?」


 雄馬?


「いや、何でもねーよ。さっ、装獣戯画(ビーストアート)やろうぜ」

「あ、うん」


 何だったんだ今のは?

 まあいっか……。


 因みにこの日の夕飯は、真礼さんお手製のハンバーグだった。

 真礼さんが自ら捏ねた肉の塊を体内に入れていると想像すると、得も言われぬ背徳感に襲われ、この夜俺はなかなか寝付けなかった――。




「ふぅ」


 その数日後。

 また雄馬に家で遊ぼうと誘われたので、俺は心を落ち着かせるため、ゆっくりと深呼吸してから雄馬の家のインターホンをそっと押した。

 ――すると。


「はーい、いらっしゃい淳弥くん」

「ど、どう、も……!?」


 玄関のドアを開け、出迎えてくれたのは真礼さんだった。

 それだけでも俺にとっては十二分に不意打ちだったのに、あろうことか、真礼さんの格好はバスタオル一枚というあられもないものであった――。

 バスタオルの隙間から、今にも本来表の世界に出てきてはいけないものたちがプリズンブレイクしそうになっている……!!

 ふおおおおおおおおお!?!?!?


「ごめんねーこんな格好で。ちょうどお風呂入ってたもんだから」

「い、いいいいいえ……!! こちらこそ、も、申し訳ございません……!!」

「まったく姉ちゃんは。普段は昼間に風呂なんか入んないくせにさ」


 雄馬!??


「もう、あんたは黙ってなよ雄馬!」

「ハイハイ、まあとりあえず俺の部屋行こーぜ淳弥」

「あ、うん」

「どうぞごゆっくり~」


 ひらひらと真礼さんから手を振られ、もう完全に俺の頭の中はバスタオル姿の真礼さんでいっぱいだった。

 ――そんな状態だから、この日の俺は装獣戯画(ビーストアート)で何度もうっかりミスをし、雄馬に随分迷惑をかけた。

 だというのに、雄馬は「まあ、今日はしょうがねーよ」と笑って許してくれた。

 俺は本当に、いい友達を持ったな。




 ――それからも真礼さんは、時にメイド服のコスプレでオムライスを作ってくれたり、はたまたナース服のコスプレでお医者さんごっこをしようとからかってきたり、誘惑されてるんじゃないかと勘違いしたくなるようなことばかりを毎回俺にしてきた。

 そんな生活を続けていたのだから、俺が真礼さんのことを好きになってしまったのは、致し方ないことだったと思う……。

 でも、友達のお姉さんを好きになってしまったという罪悪感もあり、どうしても俺は真礼さんに自分の気持ちを伝える勇気を出せずにいた。

 どうせ真礼さんは俺のことなんて、ただのガキだとしか思ってないだろうしな……。




 ――そんなある日。


「……なあ雄馬、今日真礼さん遅くない?」

「ん? そういえばそうだな。珍しく残業でもしてんのかな?」


 時計を見れば、時刻は夜の8時を回ったところだった。

 確かにちょっと遅い。

 いつもは仕事の日も8時までには帰って来て、俺たちに美味しいご飯をご馳走してくれるのに。


「……じゃあ、俺はそろそろ帰るわ」

「おう、またな」


 はぁ、真礼さんの手料理、食べたかったなぁ。




「――!」


 雄馬の家を出た途端、俺は固まった。

 目の前に、いかにも高級車の香り漂うスポーツカーが停まったのである。

 そのスポーツカーの運転席には、これまたエリートサラリーマンの香り漂うイケメンが乗っていた。

 そしてその助手席に座っていたのは――真礼さん!!?


「お、送っていただいて、ありがとうございました……」

「いや、当然のことをしたまでだよ。ではまたね」

「……はい」


 スポーツカーから降りた真礼さんは、気まずそうにイケメンに頭を下げる。

 真礼さんにキザな笑みを向けたイケメンは、颯爽と夜の闇に消えていった。

 そ、そんな……。


「あっ、じゅ、淳弥くん……! 今日も雄馬と遊んでくれてたんだ」

「……こんばんは」


 今日の真礼さんはいつもの家にいる時の無防備な格好ではなく、上下をスーツでパリッと決めた、紛うことなく大人の女性そのものだった。

 そのいつもとのギャップに萌え死にそうになる一方、今見たイケメンとの逢瀬に、俺の脳は破壊寸前だった。


「……今の人はね、会社の先輩なんだ」

「……そうですか」


 あまりの俺の憮然とした態度に察したのか、訊いてもいないのにイケメンの説明を始める真礼さん。

 ただの会社の先輩が、車で真礼さんを家まで送るわけないじゃないですか――!

 という思いが顔に出ていたのか、真礼さんは苦笑いを浮かべながら、衝撃的な一言を発した――。


「実はね、ついさっき告白されちゃった。――結婚を前提に付き合ってほしい、って」

「――!!」


 そんな――!!

 そんなそんなそんなそんなぁぁああああ――!!!!

 嫌だ嫌だ嫌だ絶対に嫌だ――!!!!

 何があろうと、絶対に真礼さんは他の誰にも渡すもんか――!


「真礼さんッ!!」

「えっ!? じゅ、淳弥くん!??」


 気が付けば俺は、真礼さんを強く抱きしめていた。

 途端にとんでもないことをしてしまったという後悔に押し潰されそうになるも、もう後には引けない――。


「俺は――真礼さんが好きですッ!!」

「――!! ……淳弥くん」

「初めて会った時から、ずっとあなたに惹かれてました――。もう俺の頭の中は、四六時中あなたのことでいっぱいです! もうあなた無しの人生は考えられないんです! だからどうか、あいつとは別れて――俺と付き合ってくださいッ!」

「……」


 言った!!

 ついに言っちまったあああああ!!!


「ふふ、苦しいよ、淳弥くん」

「あっ!? す、すいません、俺、自分のことでいっぱいいっぱいで……」


 慌てて真礼さんから離れる。

 うわあぁ、マジダセェじゃん俺……。

 こんなん、フラれて当然だよな……。


「淳弥くんは勘違いしてるよ」

「へ?」


 勘違い??

 というと???


「私は告白されたって言っただけで、その告白を受けたとは言ってないでしょ?」

「――!」


 た、確かに……。

 あれ?

 てことは――。


「――告白は丁重にお断りしたの。――私には、他に好きな人がいるから」

「――!!」


 ま、まさか――!


「……その好きな人っていうのは、もちろん君だよ、淳弥くん」

「――!?!?」


 真礼さんは照れ笑いを隠すかのように、右手ですっと耳元の髪をかき上げた。

 だが、それで露わになった耳が真っ赤に染まっているのを、俺は見逃さなかった(オレでなきゃ見逃しちゃうね)。


「ふふ、もしかして気付いてなかったの?」

「あ、いや、その……」


 あまりのことに頭が真っ白になる。


「実は私もね、淳弥くんが初めて家に来る前、雄馬から淳弥くんと一緒に撮った写真をスマホで見せられた時から、カッコイイなあって一目惚れだったんだ」

「えっ!!?」


 そんな前から!?!?


「だからあの手この手で毎回私が淳弥くんのこと誘惑してたのに、全然なびいてくれないから、私ってそんなに魅力ないのかと思って、自信なくしてたよ」

「あ、そ、それはどうも、すいません……」


 マジかよ……。

 てことは、やっぱ真礼さんの日々のあれは、ガチの誘惑だったってことか……。


「……でも、淳弥くんは本当に私みたいなオバサンでいいの?」

「そんな! 真礼さんはまだまだお若いじゃないですか! それに、俺と真礼さんは()()()()()()()()んですから、何も問題はありませんよ!」

「ふふ、ありがと。――大好きだよ、淳弥くん」

「っ!?」


 不意に真礼さんから、ギュッと抱きしめられた。

 ふおおおおおおおおお!?!?!?

 さっき俺から抱きしめた時はいっぱいいっぱいでそれどころじゃなかったけど、真礼さんの二つの人をダメにするクッションを押し当てられて、このままではダメ人間になってしまううううう!!!!


「やれやれ、お安くないなお二人さん」

「「――!!」」


 その時だった。

 聞き慣れた声がしたので慌てて振り返ると、案の定そこには雄馬が呆れ顔で立っていた。


「雄馬!? 何であんたがここに!?」

「そりゃあんだけ大声で告白合戦してたら、家の中にいても嫌でも聞こえるって」

「「……あ」」


 うわあああああ!!!

 そりゃそうかあああああ!!!

 てことは、ご近所さんにも俺たちのことがバレてしまったってこと!?!?

 うおおおおおお、メッチャ恥ずいいいいいい!!!!

 どうか後生ですから、ご近所のみなさん俺たちのことはそっとしておいてくださいいいいいい!!!!


「まあでも、俺からしたらやっとくっついたのかって感じだけどな。どう見ても二人は両想いだったし」

「「えっ!?」」


 そんなに俺たちバレバレだった!?


「まあいいけどさ。じゃ、俺は行くわ」


 雄馬は俺たちに背を向けると、家とは逆方向に歩き出した。

 ゆ、雄馬??


「ちょっと雄馬!? こんな時間にどこ行くのよ!?」

「みなまで言わせんなよ。俺が気を利かせてやってんだからよ。俺は今日は友達の家に泊めてもらうから、()()は俺ん家に泊まってけよ」

「「――!!?」」


 ゆ、雄馬ーーーー!!!!


「雄馬はクールに去るぜ」


 颯爽とそう言った雄馬の背中は、確かに最高にクールだった――。

 後に残された俺と真礼さんの間に、何とも気まずい空気が流れる。


「……じゃ、じゃあ、今日は泊まってく?」


 上目遣いで真礼さんが俺に尋ねる。


「……あ、はい、では、お言葉に甘えて」


 ここまで()からお膳立てしてもらったんだ。

 男を見せるぜ!


「ふふ、ご飯まだ食べてないでしょ?」

「はい!」

「じゃあ、今日は精がつくものいっぱい作るね」

「――!」


 真礼さんは妖艶な笑みを浮かべながら、そっと俺の指に自らの指を絡めてきた。

 な、何で真礼さんは、そんなに精がつくものを作ろうとしてるんやろなぁ?(すっとぼけ)



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― 新着の感想 ―
[良い点] 安定の両思いに気付かず……。 思いが伝わったら、まっしぐらエンド、いいですな~。 ( *´艸`)
[良い点]  なんだかイロイロとエッチな香りがする(爆)、楽しいお話で、とても良かったです!  弟くんは、グッジョブですね(笑)。 [一言]  エッチなお姉さんは最高なので(爆)、8歳差でも構わないは…
[一言] 叙述トリックの驚きが、雄馬のパワーワード連発ですべてかき消されました…! お前、16じゃないだろ!昭和の匂いがすごいぞ!!www
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