以外の加勢
……正直に言えば、私としてもこれは予想外のことだった。
五大神はこの世界の正当な管理者。まともな神格でもあるが、その特徴のおかげで奴らはこの世界の中でより大きな力を発揮する。まさにバリジタほどでなければ、この世界で一対一で五大神と拮抗する神格はそうそういない。
私自身もそうであるはずだった。……本来ならば。
【何をそんなに驚いているの? 存在の優位がなければ自信がないのかしら?】
軽く挑発してみたけど、『境界』は険悪な顔で私を睨むだけで下手には動かなかった。
そう睨んでも私の力が別に減ったりはしないけどね。
本来ならば私もこの世界の中で五大神と同格の力を発揮することはできない。しかし私が昇天して得た権能は時間を強奪して力に変えること。それが私に本来以上の力を与えもしたけれど……奪った時間は奪われた世界の中でより大きな力を発揮した。
端的に言えば、この世界の時間を奪った分だけこの世界の中ではより強力だ。五大神が世界から提供される増幅と比肩するほどに。
【ふん。所詮、奪ったものは一時的なもの。その力を使い果たせばいいだけのことだ】
『境界』は探索と判断を終えたようで再び歯を剥いた。それだけでなく他の者たちが防いでいる『幻惑』の方もこちらへ意識を向けるのが感じられた。
今の私でも五大神が二人以上になれば相手にするのが難しいのは同じだけど……私も一人ではない。ここでは――。
――まで考えた瞬間、地獄すら灰にしてしまえそうな炎が戦場を横切った。
【――?!】
驚いたのは私と『境界』、両方だった。
神々が暴れている戦場で正確に私と『境界』の間を遮る炎。それだけでなくその力の強大さは神すら警戒せざるを得ないほどだった。
この魔力の気配はリディアではなかった。
この世界でリディア以外にこれほどの炎を扱える者といえば……。
【もうやめにしよう】
どこか乱暴な印象を感じさせる女の声。
振り返ると獅子の鬣のような髪と、顔は綺麗だけど体は少しごつい女の姿が見えた。
初めて見る顔……というより、歴史書で見たことがある顔。
【何をしておる、リベスティア】
リベスティア・フュリアス・フィリスノヴァ。五大神の一角である『爆炎』だった。
そういえば戦場に彼女がいないことが少し気になっていたけれど……。
【これ以上は無意味だろうが。そのくらいにしろ。我らが戦うこと自体も世界に負担がかかるのは分かっているだろう?】
【何が無意味だと申すか。断ち切るべき罪悪が――】
【我らが後始末なんかする人間の法度に従う存在だったか?】
『爆炎』の発言を聞き、『境界』は眉をひそめて沈黙に沈んだ。
その沈黙の上に『爆炎』の気だるい声だけが淡々と乗せられた。
【そこ、シエラの子孫の奴が姉を救うと言ってあれこれ無理を犯したのは確かに問題があった。だがよ、その旅路はもう終わった。今更あいつらを殺したところで何の意味もない後の祭りでしかない】
【罪の代価も払わず、もう終わったゆえ見逃せと申すか? 戯言を。そもそもまた同じことを繰り返さぬという保証がどこにある?】
【そもそもテメェが融通の利かない奴でなきゃあいつらもそこまで無理しなかったんだよ、タワケが】
『爆炎』のしかめた眉間と燃える眼差しが怒気を露わにした。
熱気を直接放つような眼差しに『境界』は【む】と唸ると半歩退いた。
【我らの力と権能ならあいつらを助けることもできた。なのにそれを意味もなく意義もない古い規則と名分にばかり囚われて反対した主軸がテメェだっただろう? 『光』を見ろ。テメェのくだらない意地に呆れて完全に離反しただろうが】
『爆炎』は大きな剣で『光』を指した。
今彼女は両手を下ろしたまま楽な姿勢と表情でこちらを見ていた。
それを見て気づいた。さっきから『光』がしていたのはこの場に『爆炎』を召喚することだったんだ、と。
【正直は気に入らなかったぞ。家族を想う心ってのはいつも殊勝なものだからな。それでもあいつのように完全に我らに背を向けるのはやりすぎだと思ってとりあえずこちらに残っていたが……シエラの奴を見ろ。ただあいつらに賛同しただけでなく、世界の負担が最小化されるよう懸命に調整しただろうが】
【意味のないことよ。過ちを減らそうとしたからとて、過ちそのものを帳消しにはできぬ】
【些細なこそ泥程度で済むべきことが連続殺人のような大罪に飛躍してしまったのがテメェのその硬い頭のせいだって言ってんのだ、タワケめ!】
『爆炎』は文字通り口から火を吹き出すと、剣を背中に差した。しかし腕を組んだまま睨みつける眼差しはさらに激しく燃え上がっていた。……というか、本当に火を吹き出しているんだけど、あれ。
【続けるというなら、いいぞ。そもそも口喧嘩は趣味じゃない。代わりにあちらの味方になることにする。それでも自信があるなら続けてみろ】
『境界』は眉をひそめて小さく唸った。この状況で五大神一人がさらにこちらに加勢してしまえば形勢が大きく傾くと分かっているからだろう。
しかもそれだけじゃなかった。
【わたくしも今回はその言葉に同意するわ】
少し離れた所で剣を下ろす神がいた。
『鍛冶』だった。
【其方まで……!】
【無駄だ、とは思わない。あなたの言葉や価値観が完全に間違っているとも思わない。あの子たちが他の暴挙を犯すかもしれないという懸念はわたくしも持っているよ。ただ……今この戦いが、わたくしが昔から望んでいたわたくしの道に合致するとは思わないもの】
『鍛冶』の加勢には皆がそれぞれ驚いたような反応を見せた。もちろん私も同様だった。
ただ一人だけ、リディアだけはふんと小さく鼻で笑いながら顔を背けるのが見えた。『鍛冶』が彼女の方をちらりと見ると苦笑するのも。
二人の間に何かあったのかしら。
お久しぶりです。
おそらくエピローグを含めてあと二編ほどで完結になると思います。
ただエピローグの文字数はまだよくわかりません。普段より大幅に少なくなるかもしれませんし、普段より多くなるかもしれませんね。文章で描き出したい場面は決まっていますが、それを表現するのがどのくらいの規模になるかはわかりませんね。
前回の更新から二ヶ月が経ちましたが……次の更新は今月中にはなると思います。エピローグまで可能かどうかは確信がありませんが。
では最後までよろしくお願いいたします。




