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再会と解放

【不思議なものだな】


 私が一人でそんなことを考えていた時、ジェリアが突然そう口を開いた。


 彼女の顔に浮かんだのは怒りも喜びでもなく……あえて言えば苦笑に近かった。


【正直顔を見ればボク自身も抑えきれないだろうと思っていた。『主人』の……アルカの願いのために尽力する立場ではあるが、君に向けた憎しみが消えたわけではないのだからな。だが不思議なほど……何も感情も浮かばぬ】


【別に許してもらいたいとは思わないわ】


【ふん、自分の分際は分かっているようで幸いだな。心配するなよ。ボクも君を許したわけではない。ただボクが憎んでいたあの女と今の君はあまりにも差が大きくて、顔を見てもイメージが繋がらぬ程だ】


 そう言うジェリアの顔はむしろすっきりして見えた。


 邪毒神の方も性格が大きく変わっていないなら、つまり私の知るジェリアのままなら、あの言葉は間違いなく本心だろう。


 もちろん自ら言った通り私を許したわけではない。ただ実感が湧かないから保留するという感じなだけだ。


 そしてそんなさっぱりした態度はあくまでジェリアだけのものだというのも当然の事実だった。


 ……特にあそこで後ろで露骨に顔を背けたリディアは尚更。


 私の顔を見た途端、比喩ではなく文字通り目から一瞬火を噴いた。すぐに私に飛びかかってくるのではないかと一瞬思うほどに。しかし彼女は直後に見るのも嫌だという様子で体を背けただけだった。


 恐らくそれも最大限我慢したのだろう。邪毒神の方は私を激しく憎んでいるだろうけど、この世界側のリディアは私をとても大切に思ってくれているから。その隔たりに結論を出せず保留したはずだ。


 他の人々も感情の種類、強度、傾きは違うけれど、それぞれ私から少し距離を置いて見守るという感じは似ていた。


 しかし今この場にいるのは私、あるいはアルカに友好的な者たちだけではない。


 巨大な気配が頭上を移動した――それを感じた瞬間、隠蔽より速度を優先した巨大な力が私の頭に向かって降り注いだ。


【お姉様!】


 まだアルカの力に拘束されている私は防御できない。


 それを考慮したのか、アルカがすぐに出て剣を構えた。簡単な動作だけでは想像もできない莫大な力が上からの奇襲を防いだ。


 華やかに爆散する魔力の向こうに見えたのは――。


【わざわざ連れて参ってくれたのは有難いな】


 厳格で頭が固そうな顔と空間そのものを圧する力。『境界』だった。


 彼は最初が防がれたことなど予想通りだったという様子で、躊躇なく左手を挙げて次の攻撃に繋げた。アルカもまた防御を超えて敵を破壊するという勢いで反撃を続けた。


 しかし当然ながら、五大神は『境界』だけではない。


【ちっ】


 ジェリアの長い黒髪が目の前を覆ったと思った瞬間だった。


 短い舌打ちと共に、魔力の衝突が正面で爆発のように広がった。


 音も気配もなく近づいて奇襲した『幻惑』の一撃をジェリアが防いだのだ。


 本来『幻惑』は暗殺者に近い。けれど……力に押されて剣がきしむのはジェリアの方だった。


 彼女はまだ動きのない邪毒神たちに一喝した。


【ぼぅっとするな動け! いくらこのボクでもこの世界の中では一対一でこいつらを防げぬぞ!】


 躊躇っている時ではないと判断したのだろうか。今まで生ぬるかったのが嘘のように、皆がその一喝に素早く反応した。


 リディアは私をちらりと見て鼻で笑うとアルカの方に加勢しに向かった。彼女なりの妥協だろう。その他に最初に動いたのは『幻惑』の脇腹を奇襲したロベルだった。そして残りは……何故か動きが少し鈍い『鍛冶』の方に向かった。


 そんな中『光』は一人何か考えに沈んだような様子で黙っていた。単に思考に耽っているのではなく何か力を集中している様子が感じられたけれど、何をしようとしているのかは定かではない。


 三人の五大神の進撃はそうして遮られた。でも衝突の余波だけでもかなり脅威的な力の破片が飛んできた。


【お姉様!】


【心配なら、これ解いてくれないかしら?】


 少しずつ無理矢理動いて回避行動をすることくらいは可能だけれど、まともに力を発揮することはアルカの封印のため不可能だった。


 アルカもそれは分かっているだろうけど、まだ躊躇う気配が歴然としていた。単に『境界』との戦闘のため余裕がないわけではなかった。解放すれば私がまた逃げるのではないかと懸念しているのだ。


 自然に苦笑が漏れた。


【逃げないから解いてちょうだい。正直このまま戦うのきついでしょ】


【それは……】


 アルカは躊躇ったけれど、その時間は長くなかった。


『境界』と互いに猛攻を繰り広げる間にも一瞬私と視線を交わした。その短い刹那に私の意図を理解したのか、あるいは単に状況が切迫していたからか分からないけれど――私の力を封印していた鎖がするすると消えた。


 次の瞬間私は『境界』の頭上にいた。


【面倒だから大人しくしていなさい】


 力を放った。『境界』を直接拘束するための術式を編むと同時に、私の力そのものを誇示するために。


【――む?】


『境界』は拘束術式をすぐに振り払った。しかし私が放つ力が予想外だったのか、私を睨みつけて険悪な顔をした。


 それもそうだろう――今の私の力は奴と比べても同格だったのだから。

最近ずっとそうですが、遅くなって申し訳ございません。

完結まであと一編、または二編ほど残っております。

最後までよろしくお願い申し上げます。

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