表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

889/891

説得と脅迫

【懐かしいわね。こんな風にかなり頻繁に喧嘩したような気がするけれど】


【お姉様が頑固だからですよ】


【正直あなたも人のことを言える立場ではないでしょ。あなたも私とあまり変わらないわ】


 アルカは否定するかのように鼻で笑ったけれど、直後に彼女の唇が描いたのは小さな微笑みだった。少しの嬉しさと苦笑いが混ざった。アルカにも自覚があるのだろう。


 いつものように、今回もこんな風に笑いながら和解できたらどんなに良かっただろう。


【少し意味を失った感じがするけれど……そろそろ解いてほしいわ。バリジタを追わなければならないのだから】


 アルカとの戦いは決して容易ではなかった。結局、私が敗北することになったし。


 当然だけど、激しく拮抗する戦いの最中にバリジタに気を配る余裕などあるはずがなかった。


 正確にいつなのかは私も捉えられなかった。しかし私がアルカと戦っているうちに時空間の隔離と監視が緩んだ隙にバリジタが逃げてしまったことを、戦いの最中に気づいた。


 その瞬間アルカを置いてバリジタを追跡しようか迷ったけれど……すでにアルカとの戦いがクライマックスに差し掛かっていたため、そんな余裕はなかった。


 アルカも私の意図を悟ったのか眉をひそめた。


【今からでも私や他のみんなと協力してバリジタを追跡すると言うのなら解放しますよ】


【今更その言葉を聞き入れるとでも思っているの?】


【もちろんそうは思いません】


 瞬間、アルカの顔に様々な感情が走った。


 一瞬の苦悩と暗い気配。しかしすぐに歯を食いしばり、鋭く引き締めた目元でほんの少し光るある決意。


【仕方ありませんね。この方法だけは使いたくなかったんですけど】


 次の瞬間、アルカの両手が私の頭を掴んだ。


 攻撃ではなかった。しかし彼女の魔力が荒々しく暴れ回ると、高く巨大な滝よりも激しい勢いで私の頭の中に流れ込んできた。


 それが何なのかは、雄大な魔力の最初の一滴を味わった瞬間にすぐに悟った。


 最初に見えたのは幸せに輝く幼少期。しかし輝いてばかりいた時間は一瞬にして二つに割れ、片方だけが地獄の底へ転げ落ちたかのように暗闇に染まった。


 限りなく深く濃密に凝縮されていく闇と、その闇の後を必死に追いかける光。しかし闇を照らすには光が余りに微弱で、その間にも闇はさらに深まるばかりだった。


 十年が経ち、百年を過ぎ、千年を超え――万も億も超えた末に結局数えることが無意味なほどの時間が流れる間も、二つの距離は一向に縮まる気配を見せなかった。


 いくら光とはいえ、永遠の絶望の前では堅固ではいられなかった。


 少しずつ歪み捻じれていった末に、ついに本来の意義さえ失ってしまった光。それでも闇の中へ手を伸ばそうという執念だけは失わなかった。いや、むしろその執念こそが光を輝かせ続けることができた唯一の燃料だった。


 それは記憶だった。最初の世界線、彼女がまだ平凡な人間だった一番目の人生から、無数に繰り返される失敗の時間たち。狂ってしまうほどの苦痛と絶望ばかりの道を無理やり無理やり歩んできた忍耐の時間と、その果てに到達した今この瞬間まで。


 事実と経験だけではなかった。アルカ自身の視点で見て感じたすべての現実が、すべての感情がそのまま私に伝わってきた。


【お姉様なら、今までお姉様に苦しめられてきた人々の痛みと絶望を無視できないでしょう。どんな言葉を言っても、何を見せても過去を忘れないということは私も知っています。……そんなお姉様だからこそ、私のこの記憶を無視できないということもです】


【……まったく、会わない間に卑怯になったのね】


【会わない間というのはどれくらいのことを言ってるんです? 融合した人間側の私は数日だけですけど、神としての私が変わってきた歳月はもはや数えきれませんよ。純真でバカなだけのアルカ・マイティ・オステノヴァなんて、もう遠い昔に塵一つ残さず風化しちゃったんですよ】


 アルカはいささか堂々とした様子で断言した。


 彼女の目には相変わらず悲しみが宿っていたけれど、それ以上に固く鋭い決意が光っていた。


【私が苦しんだのは私の選択です。その責任までお姉様に押し付けるつもりはありません。でも、お姉様の後を追うために数え切れないほどの人生を捧げたのも事実です。そんな私に、また先の見えない待ちを与えるってことですか?】


 アルカは私を救うというただ一つの目標のためにすべてを顧みなかった。


 幸せを捨て、安息を捨て、ついには自分自身さえも捨てた。そうしてほしいとは私が頼んだことはないけど……当然享受すべきすべてのものをただ私のために諦めた妹の人生と心をまるごと否定するようなことなんて、私にできるはずがなかった。


 アルカがしているのはまさにその点を利用した脅迫だった。今私がアルカの手を振り払って去ってしまえば、アルカ自身があの絶望の淵に戻ってしまうと。私がこれまで犯した罪を償うことに没頭して、妹にまた新たな絶望と苦痛を与える新しい罪を犯すのかと。


【……どんな言葉を聞こうと、どんなことをされようと私の意志は変わらないわ。変えるつもりは……なかったのよ】


【手放せとか、諦めろとか言ってるんじゃありませんよ。お姉様の贖罪に私たちを巻き込むことにも罪悪感を抱いているのももちろん知ってます。でも、自ら進んでお姉様を助けると言う私たちに負担を共有することと、お姉様一人で独善的な判断で私たち全員に傷を与えることと、どっちがより痛いのですか?】


 以前の私なら間違いなく前者を拒否して後者を選んだだろう。


 しかしアルカの記憶と感情をすべてそのまま知ってしまった今は、すんなりとその選択肢を選ぶことができなかった。


 かといってすんなりとアルカの手を取る気もないけれど――その結果、私はどうすることもできずに悩みに陥ってしまった。


 もちろんそこまでもアルカはすでに予想していた。

誠に申し訳ございません。

先々週の木曜日前後に更新すると申し上げましたが、約二週間も遅れてしまいました。

様々な事情がございましたが、どのような理由があれ、お約束した日を結局守れなかったのは全て私の責任です。


このような形でお詫びを申し上げるのも、もう何度目かわかりません。

これ以上いつ更新するとは申し上げられそうにありません。

ただ完結まであと少ししか残っていないというのは事実です。


更新は早くなることも遅くなることもありますが、諦める気などさらさらございません。

できる限り早く完結まで書き上げるよう努めます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ