終わった戦いと終わらない感情
瞬間、全てが止まった。
権能によって時間が止まった――のではない。神の感覚、神の時間さえも超えて、一瞬だけ全てを超越したのだ。
五行陣は世界の法則と融合して人間の限界を超越する絶技。本来ならただ神の力をマイナーコピーするに過ぎないけど……最終到達点である〈五行陣・人〉だけは違う。
世界を理解し共鳴した末に万象を超越して、全ての干渉の優先順位を支配する頂点に立つ。
まぁ、表現は大袈裟だけど結果は簡単だ。相手の攻撃は何も通じず、こちらの攻撃は全ての防御を貫通するだけだから。いや、貫通というより完全に無視するのに近いと言うべきかな。とにかく物理的に絶対的な存在になるという意味だ。
人間の枠を完全に外れる力であるため、人間のままでは真骨頂を全て引き出すことはできない。この力の片鱗を刹那の瞬間扱うだけでも肉体が満身創痍になるだろう。
それゆえに――全ての世界、全ての存在を通じて、この力を完全な形で駆使できる者は私だけだ。
【っ、あ――】
お姉様から初めて気迫の抜けた声が流れ出た。
たった三度の斬撃。本来なら神体に大きな影響を与えないはずだけど……今は違った。まるで溜まっている水を巨大なバケツで汲んだように、お姉様の存在自体が半分以上削り取られた。
永久的な損傷ではない。しかし今この場で私を相手に戦闘をこれ以上続行できないことは明らかだった。
【こ、れは……】
【私がまだ権能のない神だった頃、この権能の主人だった本来の『隠された島の主人』を葬った奥義ですよ。これだけはお姉様もよく知らないでしょう?】
この最終奥義はお姉様も知らない。せいぜいお姉様が名前と存在だけでも知っているのも母上が現生で教えてくれたからに過ぎないから。
そもそも無数のループ過程でお姉様自身がこれを直接見たことが一度もない。人間の中でこれを使える人は母上だけだけど、お姉様が死ぬ前に母上がこれを使ったことがなかったから。お姉様が死んだ後も母上が直接使用した世界線は指で数えるほどだったし、お姉様に見せた『バルセイ』でもその部分は一つも描写しなかった。
それゆえにお姉様も私がこれを使用できるという想定をできなかったのだろう。
【もう勝負は決まりました。それでも続けるつもりですか?】
いくら力を扱う技量が優れていても、今お姉様は存在そのものが半分以上削り取られた。私だけ権能を使えずお姉様は使える状態ならともかく、そんな特殊な状況でなければお姉様が私を倒す方法はない。
理性的にはそうだけど、相手がお姉様であるため油断はしなかった。最も強力な拘束の鎖でお姉様を縛り、魔力を抑制し術式を妨害する結界を数十重に重ねた。それでも心が落ち着かず封印のための神器をありったけ取り出して配置した。
お姉様はそんな私を見てにやりと笑った。
【まぁ、戦いで負けたのは認めるわ。でもそれがどうしたってこと? 戦いに負けたからといって心まで折れてやる気はないんだもの】
お姉様の眼差しはまだ生きていた。単に意地を曲げないだけでなく、少しでも隙が見えればすぐに拘束を引き裂いて脱出するつもりだろう。
もちろんお姉様がそう出てくることくらいは最初から分かっていた。
それゆえにどんな言葉を言うかも最初から決めていた。
* * *
アルカの魔力が私を優しく包んだ。
毛布のように温かく柔らかい感覚。攻撃の意図は少しもなかった。優しくも堅い芯が何を意図するかは明白だった。
しかしアルカの表情だけは断固として強かった。
【いつまでそうするつもりですか? お姉様がバリジタを一人で倒せるかも確かじゃありませんけれど、それはさておいてのことですよ。それで? バリジタを倒してから何をするつもりだったんですか?】
すでに予想していた問いだった。
……それなのに、答えがすぐには出なかった。
私が何をどうするかはすでに決めていた。この生をどう終えるかまでも。皆がそれを歓迎しないことを知っているため、皆と離れて独断で全てを背負おうとした。
アルカがここに訪ねてきた時も、声を高めて剣を私に向けた時も何ともなかった。すでに私の決心は確固たるもので、アルカがどんな言葉で私を引き止めるかすでに予想できた。
それゆえに神の力まで使用してアルカと戦う時も、思いもよらない奥義に敗北した瞬間も何ともなかった。この戦いはただ私の意地をアルカが力ずくでも遮ろうとすることに過ぎず、勝敗を離れて私の意志を挫く必要もなかったから。
確かにそうだったはずなのに。
【さぁね。わざわざ教えてあげる理由もないもの】
そうごまかしたけれど、正直無理を言うのに近かった。言葉自体に嘘や矛盾があるわけではなかったけど……感情的にそんな気分がした。
ふと浮かんだのは少し前の記憶。実はすでにこの中でバリジタと無限の死闘を繰り広げていた私にとっては遠い昔の記憶でもあるけど……それはまだ私が人間の観点に浸っているからに過ぎない。人間ではない神の観点では刹那の過去に過ぎなかった。
全てを自ら抱え、ここでバリジタを始末するために永遠の死闘を決心したあの日。
私の罪を償うとは思わなかった。たかがこの程度で償うにはあまりに深く重く、たとえバリジタを殺したところで償えるものでもなかったから。そもそもバリジタが数多くの悲劇を生んだのは事実だったけど、私の罪はバリジタとは大した関係がなかったから。
因果をたどれば私の堕落もまた根本的な原因はバリジタにあったけれど……私がバリジタを始末することを第一の目標に定めたのはそのためではなかった。
申し訳ございません。
今週は活発に更新をするという決意をお伝えしましたが、結果的にきちんとできませんでした。
個人的にも外部的にも色々な問題がありますが……完結まであまり残っていない分、最後まで仕上げた後に後記の形でお伝えいたします。