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切り札の瞬間

【あはっ】


 弾けた笑いに滲み出たのは楽しさと興奮。


 この時に至って、今までのすべての感情と過程を投げ捨てて現れたのは……お互いの力を直接ぶつけ合うことに対する純粋な歓喜だった。


 私たち二人が人間だった頃、鍛錬と実力確認のためにお姉様と行った手合わせの数なんて覚えてもいない。大変だったけど決して苦しくなかったそれはお姉様との交流の一つで、私自身の実力を確認すると同時にお姉様から多くのことを学ぶ時間でもあった。


 立場の違いで感じることが少しは違うだろうけど、お姉様の方も大きく違わない気持ちだろう。


『いつまでも、お姉様とこうして過ごしていたい』


 剣を交える時はいつも頭をもたげていた思い。その時はただ私がこれほどお姉様を愛する妹なんだな、という考えしかしなかった。


 でも今なら分かる。それは私の魂が絶望的なほど渇望してきて、決して実現されなかった凄絶な叫びだったと。


 形は重要じゃなかった。どんな形の交流でも、お姉様と私の間では決して成立しなかったから。お姉様はいつも悪で、私は悪を断罪する正義だった。


 正しくもなく望んだこともなかった役割をいつも強要されてきた私たち。そんな私たちにとって、今生は無限に続いた絶望の果てで初めて訪れた光だった。


 これがどれほど幸せなことか。これがどれほど望んでやまなかった光か。


 だからこそ、これを最初で()()にしようとするお姉様を決して許すことができなかった。


【ああああああああああああああ――!!】


 意味もなく叫びながら怒りを吐き出した。しばし感じていた幸福と楽しさを真っ黒な感情がすべて塗りつぶしてしまい、刃から噴き出した魔力が猛獣のように荒々しく暴れた。


 お姉様は一瞬眉を悲しげに垂らした。


 でもそれも一瞬だけ。すぐに冷静な刃の光が瞳を飾り、暴れる魔力の隙を突くように剣閃が駆けた。


 お姉様の剣が私の左手を裂き、私の左手が溶けて混ざるようにお姉様の剣を掴んだ。


【!?】


 瞬間的に慌てたお姉様の隙を逃さず、剣でお姉様の右腕を打った。肩口から完全に切り落とされた腕が魔力に変わって散った。


 神体は精神体。本質的に固定された実体を持たない。それでも私たちが人間だった頃の姿を維持するのはただ、いくら神といっても自分のアイデンティティをきちんと維持しなければ自我が崩れて狂気に陥る可能性があるからだ。


 でもそんなことを心配する段階なんてもう記憶もできないほど前に過ぎ去った。


 左手が変形して掴んだのは邪毒の剣――つまりイシリン。彼女を握った腕を切り落としたおかげで一時的にイシリンを奪うことになった。


 触れ合った部分を通じて瞬間的に交感を交わした。


 イシリンはお姉様を助けていたけど……彼女もまたお姉様の決定に完全に賛成しているわけではないようだった。でもお姉様の決定を覆そうとするほど反対しているわけでもなかった。


 お姉様への罪悪感と迷い。それはいつもイシリンが背負っていた心の負債だった。


 力と格を失ったとはいえ、イシリンもまた本質的には神。だから私の回帰とループにも巻き込まれず、すべての世界線を通じて唯一で独立した者として存在してきた。


 神としての力を失ったため、私の回帰に巻き込まれるたびに記憶を半分ほど失いはした。でも彼女が最後の世界線に残ってお姉様を助けたのは元々私と彼女が合意していたことだった。


 それがこんな形に変質するとはお互い考えなかったことだったけど……だからイシリンは私とお姉様の間で明確な決定を下せずにいた。ただお姉様の手で剣としてお姉様の力を込めているだけだった。


 今も変わらない彼女だから――左手でずっと彼女を掴んでおいた。少なくともお姉様の手に戻らないように。


 そして私自身の神体を操作して、左腕の代わりとなる新しい腕を形成した。


【イシリンを無力化した程度で私を圧倒できると思っているの?】


 お姉様は切り落とされた右腕を再生させ、イシリンの代わりとなる剣を作り出した。剣としてのイシリンと比べても劣らない神剣だった。


 ――天空流奥義〈五行陣・火〉


 同時に魔力の嵐を噴き出した。お互い一歩も引かない力と力がお互いを削り取り相殺し押し出した。


 二つの力は拮抗していたけど、私もお姉様もそれで力比べをするつもりなんて最初からなかった。


 狂い暴れる魔力の嵐の真ん中へ同時に飛び込んだ。人間の目には見えないだろうけど、今の私たちには嵐の向こうから近づくお互いの姿が鮮明に見えた。


 お姉様の剣に集まるのは必殺の力。さっきのように邪術の力をすべて結集し、そこに五行陣の他の力を混ぜたもう一つの究極だった。


 私の力では越えられない一撃――とお姉様は思っているだろう。


 でもお姉様は正しく知らない。天空流の道の果て、すべての研鑽の終着点にある真の力を。存在だけはお姉様もよく知っているけど、その力の本質と真面目を一度も見たことがなかったから。


 才能と意志と歳月がすべて必要な、究極の向こうの究極。いくらお姉様が化け物のような才能と技量を持っているとしても、そんなお姉様が神位に昇って人間を超越した存在になったとしても……今のお姉様は決して到達できない領域。


 お姉様に及ばないとしても、世界の『主人公』である私の才能があるから――すでにその領域に到達したことを。


 神ではなく剣士として、私が唯一お姉様より優越する一つ。神の権能が封印され、神位の格で増幅された術式を塞ぎ、ただ剣の腕と魔力の熟練度だけを競うこの瞬間になって――お姉様が発する究極ごと、それさえも上回る力で押し潰す。


 この戦いに飛び込んだ最初のその瞬間から、私が狙った唯一の隙と鍛え上げられた刃。それを差し出す。


 ――天空流最終奥義〈万象世界五行陣・人〉

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