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神としての年月

【覚悟しなさいよ!】


 ――天空流奥義〈五行陣・木〉


 極限の斬撃を放つと同時に、神域の力で魔力を複製した。矢の弾幕が続けて蘇り、今放った斬撃まで何倍にも複写された。


 上下左右前後あらゆる方向から隙間なく襲い掛かる魔力の攻勢を前に、お姉様は小さく鼻で笑った。


 ――天空流奥義〈五行陣・金〉


 ――天空流〈黒点描き〉


 ――テリア式邪術〈強欲の掌〉


 お姉様の目が金色に光ると同時に、魔力が巨大な漆黒の防御膜を描き出した。それが一方向の攻撃を完全に消し去り、残りの方向は〈強欲の掌〉の力がことごとく吸収した。


 もちろん神域の再現は続いたけど、お姉様は吸収した力ですべてを斬り裂いた。そしてお姉様の権能が神域が再現した時間をことごとく奪った。私の神域であるにもかかわらず。


 やっぱり権能の相性では不利だね。


 私たち二人とも時間と関連した能力を持っているけれど、私の力は過去の時間を再現し反復することに集中したもの。反面お姉様の権能は時間そのものを編集でき、一部を丸ごと切り取って飲み込むことができる。


 権能同士の衝突ならお姉様の方が有利だ。能力自体の汎用性と範囲がより優れているから。


 しかしだからといって私が勝てないわけではない。


 ――神法〈時間の網〉


 神域内の魔力を編んで網のように広げた。


 時間を奪うといっても一時的なもの。そして神域そのものは消えなかった。


 私自身はお姉様に突撃しながら、一帯全体に網のように広がった魔力に力を込めた。網に沿って空間が揺らぎ歪んだ。


 ――天空流奥義〈五行陣・木〉


 斬撃を放った瞬間、魔力の網に乗って無数の斬撃が噴き出した。


 時間複製能力を応用して、時空間の網を通じて無数に同じものを複製する神法。単純に見えるけど、網の筋一つ一つが独立した時空間として動作する。


 お姉様が権能で網に干渉しようとしたけれど、無数の筋の中の一つの時間を麻痺させただけだった。それも周辺の他の筋の力が干渉してすぐに復旧された。


【これは……】


【権能の戦いがしたいなら、いいんですよ。私は自信があるから!】


 お姉様は眉をひそめた。網への干渉が通じないことに気づき、発射された魔力自体を防ぐか限定的に時間を奪って無力化する方に転換した。


 それだけでもほぼ完璧な防御を見せてはいたけれど、私が浴びせる攻撃を突破することはできずにいた。


 権能の純粋な能力自体はお姉様の方が有利だ。しかし権能を扱ってきた年月に段違いの差がある。


 神としてのお姉様は今まさに昇天したばかりの新米。ここでどれだけバリジタと戦っていたかは知らないけど、時間にして億なんてとっくに超えるほどの年月を生きてきた私に比べるべくもない。つまり自分の権能をどれだけよく把握しているか、それを扱う能力がどれだけ熟達しているか。その点において絶対に私を倒すことはできない。


 私自身が神であるがゆえに分かる。これは才能だの天才性だのという人間のちっぽけな基準なんかでカバーできる領域じゃない。


 お姉様もそれを感じたようで、防御に集中しながら口だけを動かした。


【アルカ。何のために私を邪魔するの? 何のために?】


 静かだけど明確な怒りが混じった声。おそらくその質問自体は私の意図が分からずに出したものではないだろう。すでに私の意志もお姉様の意志も互いに十分に分かっているから。


 それでもあんなことを口にするのは――。


【お姉様こそ何を考えてるんですか? お姉様がやってることがまともな贖罪だって本当に信じてるんですか?】


【さあ。今更そんなことが重要かしら?】


 お姉様は自嘲的に言いながら剣を大きく振った。刃先で輝いていた神の魔力が撒き散らされた。


 粉のように撒き散らされた魔力の粒子は一つ一つが神法の力が凝縮された塊だった。それが私の網に触れると、粒子ごとに筋を攻撃して神法の構成を崩した。網の筋が互いに干渉し補助しながら壊れた部分を再び修復したけれど、お姉様の粒子が続けて浴びせられて再び崩すことを繰り返した。


 力比べで言えばまだ私の方がわずかに優勢だった。しかし破壊と修復を繰り返す部分は事実上無力化されたも同然で、一瞬で網の半分以上が効力を失った。


 ――アルカ式射撃術〈ホシクモ〉


 もう一度無数の矢を浴びせた。それを時間の網が吸収し、すべての矢の時間が無作為に混ざった。ある矢は過去の再現で複製され、ある矢は逆に未来へ転送されてタイミングを混乱させた。


 お姉様は金色の眼光を放つ視線をさっと巡らせた。それだけで一瞬すべての矢も、神法の魔力さえもしばし停止した。


〈五行陣・金〉は可能性を通じて未来を見通し操作する神の力を人間が扱えるレベルに格下げした下位互換。だから普通なら意味がないだろうけど……お姉様は神眼の力をより深く引き出す用途で再活用していた。


 お姉様の力が矢の弾幕に対処する間にも私は無数の攻撃術式を追加した。しかしその全てがお姉様の金色の眼光の前で平等に、文字通り時間そのものが止まったように静止していた。


【ふん】


 一閃。


 魔力を消し去る〈黒点描き〉の力がそのまま込められた斬撃だった。それが私のすべての魔力を消去してしまった。時間の網はその程度では破壊されなかったけれど、網の筋を修復するのがわずかに遅くなった。


 お姉様はゆっくりと前に動くと、網の一部を体で引き裂いた。


【えっ……!】


 再びお姉様に飛びかかりながらも、愕然としてお姉様を見直した。


 時間の網は物理的なものではなく、時間が絡み合って乱立する時空間そのもの。物理的に突き破ることは不可能だ。むしろ絡み合った時空間に巻き込まれてずたずたに引き裂かれるだけのはずなのに。


 お姉様は大したことないとでも言うように鼻で笑った。

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