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姉妹喧嘩

【私を殴り倒してでも帰るんだって。気概はとても良いけれど】


 お姉様はついに私の方へ完全に体を向けた。


 その直後、お姉様に突進して振るった私の剣とお姉様の剣が激しい音を立てて衝突した。


 お姉様の目に冷たい怒りが宿った。


【一度も私に勝ったことがない分際で、今更それが可能だと思うの?】


【それはこの生での話に過ぎませんよ】


 私は堂々と立ち向かった。


 口の端に浮かんだ嘲笑は『私』のもの。少しずつだけど互いに混ざり合いながら影響が来るのだろう。


 しかしそれに抵抗する気は少しも起きなかった。


【私が数多くのループを繰り返したということは即ち、堕落したお姉様を無数に殺してきたということですよ。この生以前には一度も私に勝てなかったお姉様が、今更そんなことを言う資格があると思いますか?】


【なかなか挑発ができるようになったのね】


 お姉様はそう言いながら、私の剣を防いでいない方の剣を手放した。邪毒の剣、つまりイシリンだった。


【イシリン。バリジタの方を頼むわ】


【私一人ではあいつを止められないわ。それでも大丈夫?】


【とりあえず粗雑ながら封印術式をぶち込んだから、しばらくの足止めくらいにはなるでしょう。術式を維持しながら最大限あいつを妨害してちょうだい】


 お姉様も分かっているだろう。イシリンを送ってもそう長くは持ちこたえられないということくらいは。


 それでも私を諦めさせることができないと悟り、私に完全に集中することに決めたのだ。


 お姉様は空いた手に別の剣を具現化すると同時に、力比べをしていた剣を一方的に押し出した。


【アルカ。あなたが私を家族として愛してくれているのは分かるわ。けれどこの事を邪魔させるわけにはいかないの】


 お姉様の目に一瞬悔恨が宿った。


 お姉様の剣が稲妻のように走った。一瞬で無限と錯覚するほどの連撃が繰り広げられた。


 しかし『私』もまた数え切れないほどの反復を経て熟練に熟練を重ねた戦士。その戦闘経験と神として生きてきた年月はお姉様を遥かに超える。この世界の私はお姉様より未熟な存在だけど、『私』はむしろあらゆる面でお姉様より優れることができる。


 そんな自信を基に、お姉様の連撃をことごとく弾き返した。


 そうして剣のやり取りを交わす間にも、口のやり取りもまた続いていた。


【私が何をしでかしたか、あなたも知ってるでしょう。あなたが平行世界を無数に量産しながら無数の犠牲者を出したのも結局私のせいよ。その責任を私が取るってことよ】


【責任を取る態度が悪いというわけじゃありませんよ。方法が間違っているってことです。そしてどうしてそれのせいでお姉様が勝手に一つの世界の悲劇を全部背負おうとするんですか? それはただ自分自身への八つ当たりじゃないですか!】


 一度の大きな衝突の後、しばし距離を取った。そしてお姉様の姿を再び目に収めた。


 全身が血まみれだった。大小の傷が至る所にあり、とても口にできない不潔な痕跡も見えた。まるでこの世のあらゆる暴力を一身に背負ったかのように。


 いや、比喩じゃない。実際にお姉様はその全てを独りで背負っていた。


 時間を奪うということは単に純粋な力に変えて吸収するだけのメリットではない。時間がもたらす強大な力の代価として、奪った時間に宿っていた歴史を自分自身が背負うことだった。


 それを悪用して幸福を奪うものだったなら、少なくともお姉様が苦しむことはなかっただろう。しかしお姉様は世界の過去から全ての悲劇を奪った。その全てがお姉様に集中してしまったのだ。


 神座に昇ればそれすらも能く耐えられる存在になる。しかし耐えることが可能だからといって苦しくないわけではない。


 そもそもお姉様の権能は平行世界にはまだ及んでいない。つまりお姉様が奪った悲劇というのは、そもそもお姉様の罪とは何の関係もないものを無駄に自分に課した八つ当たりに過ぎない。


 贖罪をするのは良い。けれどそんな無駄な八つ当たりまで贖罪の名目に入れるのはただ腹立たしい愚行に過ぎない。


【それだけじゃありませんよ。お姉様はお姉様を大切に思ってくれる人たちを裏切りました。過去の罪を償うと言いながら、結局他の人を傷つける方式が変わっただけじゃないですか】


【それは……!】


【また逃げようとする言い訳ばかりくどくど並べるつもりなら聞きませんよ】


 再び飛び込んだ。お姉様の固い心の壁を斬り払うという覚悟で剣を振るうと、お姉様は舌打ちして自分の剣で受け止めた。


 瞬間、視界の外郭が歪んだ。


【いいでしょう。どうせ言葉で説得できないようだから端的に言うわ。帰らない。あなたこそ私を邪魔せずここから出て行きなさい】


 空間が閉じていた。


 壊れかけてまだ残っている結界と、そもそもこの結界がある場所である監獄世界自体。どちらもお姉様の力で作られた場所だ。それゆえ空間の統制権はまだお姉様にあった。


 その空間から異物を排除するのもお姉様の権限なのだ。


【いいえ! 私も端的に言います。お姉様を連れて帰ります!】


 剣を激しく振るった。私を監獄世界から追放しようとした力が粉砕された。そして返す剣に魔力と心を力いっぱい込めた。


 その中に込められたのは怒りだったけれど、それは愛情から生まれたものだった。愚かなお姉様を叱り、お姉様を抱きしめるための感情の全力。


 言葉ではなく剣で叫ぶ訴え。それが魔力に乗って監獄世界全体を響き渡らせた。


 お姉様はそれを分かっていながらもより激しく拒絶の剣を振るった。


 剣が交差し魔力が重なる。感情が渦巻き、意地で意地を折るための戦いが始まった。


 世界で最も無駄に巨大な姉妹喧嘩が。

一つお知らせがあります。

元々今週まで継続して週末追加二回更新が保留されてきましたが、どうやら該当更新を諦めなければならないようです。

つまり本来は今日も二回更新をしなければなりませんが、夕方の更新は諦めて今回の更新だけにします。


今日も午後に急用ができて作業する時間が十分ではありませんが……これをまた来週に延ばすのも良くありませんが、少なくとも全くしないよりはましでしょう。

しかし現在本作がそろそろ完結に向かって走っていて、追加更新ができる日付自体があまり残っていません。

〚疾風・斬〛


その期間中に急いで分量を埋めるより、最後までプロット再確認や本文執筆において力を入れたいという思いが強いです。

それで今日予定された二回更新は取り消して、完結までクオリティに集中しようと思います。


突然の変更申し訳ありません。

では完結までの残り期間もよろしくお願いします。

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