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到達する

 細い亀裂が空間を侵食した。結界そのものを攻撃する力だった。それは小さいけど強い浸透力で結界に食い込み、術式の根本さえ崩すために暴れていた。


 この結界を壊せる力そのものにも驚いたけど、私をもっと驚かせたのは……その力から感じられた気配だった。


 あまりにも慣れ親しんで懐かしい感覚。ただ私に向かって真っ直ぐに近づいてくる優しさ。だからこそ……ずっと避けたかった名前。


 アルカ。


 バリジタとの戦いを続けながらも、その亀裂に向かって私の権能を伸ばした。浸透した力の時間そのものを奪って侵入をなかったことにしようとした。


 けれどすでに私の権能について把握して対策を立てていたのか、アルカの力は一部だけ吸収されるだけで芯を堅く守り抜いた。


 そして私がそちらに注意が分散したことをバリジタは見逃さなかった。


【行きなさい。我が忠実なる僕たち】


 バリジタが命令を下すと、黄金色の剣と槍の先が私に向かった。それらが眩しい線を描きながら私に殺到した。


【チッ、よりによってこんな時に……!】


 権能の力を纏った剣でその攻撃を受け止めた。しかしやっぱり臨時の神器と違ってそれらには私の権能がまともに通じなかった。力が流れ込んでくるのを見ると少しは影響を受けているようだけど、私の剣を打つ重さは全く変わらなかった。


 それに実際に激突してみてから気づいた。


【こんなものを作るなんて、頭のおかしい奴ね……!】


【私じゃなきゃ不可能なことなだけだねぇ。たかがパハールには想像もできないことだろうね】


 バリジタは余裕を持って笑いながら続けて神器を操作した。


 この黄金の剣と槍は……簡単に言えば神だった。


 イシリンから聞いたことや奴の言葉に例えれば私と同格のパハール。しかし神だった存在を道具にしたのではなかった。文字通り、創造の権能で神を作り出したのだ。まさに規格外の力だった。


 しかしその本質はあくまで道具だった。そして強大な力を代価に自律意志がないのか、それとも他の理由があるのかは分からないが、バリジタが直接奴らを遠隔操作していた。そして神を直接動かすことである以上バリジタにも他の術式を使う余裕はないようだった。


 もちろんペナルティで言えば私の方が大きいけれども。


【チッ……!】


 黄金の剣と槍の攻勢を払いのける一方、結界を続けて補修しながら攻撃を耐え抜いた。しかしアルカの攻撃は鋭く強かった。全力を尽くしてあれ一つにだけ集中すれば防げるだろうけど、バリジタを相手にしながらは不可能だった。


【お帰りなさい。あなたはこの中に入ってはならないわ……!】


 そう呟いたけど、アルカにその声が届くはずはなかった。そもそも物理的にも魔力でも、ここから出ることも私が全部防いでしまったのだから。


 もちろん私の言葉が届いたとしても、アルカが受け入れてくれるはずがなかっただろうという予感はあった。


 アルカの魔力が続けて結界を叩いた。まるで彼女の意志が私の心を拳で殴っているような感覚だった。


 おそらくアルカは実際にそんな感じで殴っているのだろう。


 結局こちらが持ちこたえられなかった。私自身は余力があったけど、その力で結界を補修するよりアルカの食い込みの方が強かった。予想以上に。


 結局私の後ろで亀裂が手に負えないほど広がり、ガラスの破片のように砕けて舞い散る空間の破片が私の頬をかすめた。


 まるで世界全体が止まってしまったような錯覚の中で――彼女の姿が見えた。


 燦爛たる金色の髪と同じ色の瞳。必死な、しかし決然と力が入った眼差し。


 視線が合った。


 その短い瞬間、言葉一つなくても彼女が言おうとしていることが何なのかは鮮明に伝わった。


 そうだろうと予想していて、だからこそなおさら目を背けようとした真心をどうしようもないほど突きつけるその視線を、もう目を背けることができなかった。


 その瞬間再び世界が動いた。魔力の振動がずれて、感情の流れが互いを覆った。私は叫ぼうとした。いや、叫ぶ直前の抑えつけられた感情が爆発しそうに揺らめいたけど、ぐっと我慢して剣を持った。


 愛しい妹がここに到達したことについては複雑な心だけだった。その中には確かに肯定的なものもあったけれど……一番大きな感情は怒りだった。


 私が何のために今までバリジタと戦っていたのか分からないはずがないのに、それを一度に台無しにしてしまったのだから。


【アルカ……!】


 それでも私の剣はバリジタに向かおうとしたけど――まともに動く前に、アルカが真っ直ぐ私に突進してきた。




 * * *




 私は止まらなかった。


 お姉様の剣はまだ私に向いていなかった。まぁ、それは当然だろう。そもそもお姉様の目的は私を斬ることではないのだから。


 本来なら私もお姉様と一緒にバリジタを殺すために戦うべきだろうけど、今だけはバリジタなんて後回しにした。


 二人でバリジタを殺せると確信することもできないし、何よりもバリジタを倒すのに力を消耗している間にお姉様がまた逃げてしまうかもしれない。


 お姉様のバカな考えさえ直しておけば、バリジタなんていつか必ず捕まえられる。


【アルカ、今はそのような時ではないわ……!】


【いいえ、これより重要なことはありませんよ!】


 とりあえず私もバリジタを憎むのは同じだから、全力を尽くした封印術式をバリジタの方に叩きつけた。結局脱出するだろうが当面の足止めは可能だろう。


 もちろん奴が逃げることを覚悟してでも、まずお姉様をあのイライラする罪悪感の牢獄から引きずり出すのが先だ。


【今すぐ私たちの元に戻ると確実に誓うなら、お姉様の傍で共に戦うことを許してあげます。でもそうできないなら――】


 剣と視線でお姉様を狙いながら、愛情に由来する敵愾心でお姉様を力いっぱい睨みつけた。


【お姉様を殴り倒してでもとりあえず連れて帰りますから】

読んでくださってありがとうございます!

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