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お姉様に向かって

 その力はお姉様の神としての権能であった。


 世界からすべての悲劇を奪った力。正確には時間そのものを奪ったのだ。奪われた時間とその時間の間に起きたことは世界から完全に消し去られる。世界から悲劇と絶望が消えたのはその権能によるものだった。


 そして奪われた時間は強力な力となってお姉様に蓄積される。


【……本当に呆れちゃうね】


 思わず声が漏れた。


 流れ込む力は呆れるほど強力だった。絶対的単位である時間をエネルギーに変換したものだからだろう。そして世界からすべての悲劇を奪ったということは、それだけ途方もなく多くの時間を強奪したということであり、そのすべてがお姉様の力になったとすれば……今の力は一人の神のレベルを遥かに超えているだろう。


 そんな存在になってしまったお姉様も、そのお姉様の力でも戦いを終わらせることができずにただずっと縛られていなければならないほど強大なバリジタも呆れるばかりだ。


 けれどそんなことがあっても立ち止まっているわけにはいかなかった。


 時間の魔力が集結する場所へ向かった。この牢獄世界は時空が歪んでいるため、単純に方向で中心を見極めることはできなかったけれど……世界の魔力の流れを見れば、そこが中心地であることは明白だった。


 まぁ、そうでなくても当たり前のことだ。この牢獄世界自体がバリジタを閉じ込め、戦場を作るために形成されたのだから。


 牢獄世界は見た目以上に歪んだ時空だった。一歩踏み出すたびに方位が変わり、さっきまで正解だった道が次の瞬間には間違いに変わった。時空も魔力も死んでいるのに、毎瞬間ごとに新しい世界に移動したかのような錯覚を覚えた。


 おそらく実際に動いているわけではない。時空も魔力もはっきりと停滞している。ただ同じように見えてもそれぞれ異なる平行世界のような無数の時空を一つに重ね、毎瞬間ごとにその無数の世界のうちの一つに移動させているのだ。言わば平行世界の迷路とでも言おうか。


 人間なら決して脱出できない領域。神にとっても決して易しくない迷路だったけれど、重なったすべての世界を神の目で一度に見通せば、その中で道を見つけ出すことができた。


 長い時間をかけて牢獄世界の中心部に到着してみると、かすかに空間が歪んでいる部分があった。


 見た目には何もない空き地だった。しかしごくわずかに光が屈折して風景がほんの少し歪んでいる領域があった。


 その正体はごく芸術的に加工され、隠された神の結界。


 この中に、お姉様とバリジタがいる。


 歪んだ空間に手を伸ばした。表面に触れても特に弾かれたりはしなかった。いや、文字通り何もないかのように、ただ空中をかき回すだけだった。


 きちんと結界を捉えて突き破らなければ、触れることすら不可能だ。


 結界の領域に手を入れたまま目を閉じた。内側で激しく暴れる魔力の振動が感じられた。強く暴力的だけど、強い心を秘めた衝撃が。


 隠れているわけでは決してなかった。贖罪と後悔はあったけど、それを償おうとする強い決意があった。自分の意志でこの戦場を作り、世界の敵を討つまで決してこの閉ざされた世界を開かないという凄絶な決意が。


 一方、はるか遠方からもさらに荒々しく魔力が暴れているのが感じられた。


 この牢獄世界の中ではない。この世界ごと私たちを消そうとする五大神と、彼らを阻もうとする私の仲間たちの激突だった。


『境界』、『幻惑』、『鍛冶』。一神でも手に負えない五大神が三神。数は私の仲間たちが二倍だけど、戦いはほぼ互角だった。半分の数でも互角な五大神の力が凄いのか、世界のバックアップを受ける五大神たちを相手にバックアップなしでたった二倍の人数で拮抗する私の仲間たちが凄いのか、よく判断がつかない。


 でも重要なのは、五大神の進入を私の仲間たちが強硬に阻んでいるという点だった。みんなそれぞれの位置で五大神の意図を崩していた。


 私は後ろを振り返らなかった。すべてを仲間たちに任せ、最後までやり遂げてくれると信じているから。


 だからこそ純粋に目の前の結界にだけ神経を集中することにした。


 ついに結界の存在を捉えた瞬間、指先に感じた感覚は――冷たかった。


 体を包む気流や物理的な温度感ではなかった。感情の殻が内面深くに凝結した感じだった。極めて冷徹で厳格な心が冷たさという形で具現化したようだった。


 牢獄世界の時空が死んでいるのも、その冷たい意志がこの中を完全に覆っているからだった。


 誰も侵入させない。誰もこの戦いに介入させない。バリジタが逃げる可能性を完全に遮断し、すべてを一人で背負ったまま世界の敵を討つという重大な任務を全うする。そのような決意。


 この時間の墓場のような場所で、ついに自分自身さえも埋めてしまおうとする覚悟。自分の罪とその重さ、そしてその責任を負うべきは自分だけだって。


 それが本当に、ひどく、イライラが爆発するほど、腹が立った。


 自分が得てきたすべてを投げ捨て、自分を大切に思ってくれるすべての人々の心を踏みにじり、ただ一人だけ罪の重さに押しつぶされて死んでいくという惨めな選択。


 罪人であるお姉様にはそれが似合うと、正しいと言う人がいるかもしれない。それが事実かもしれない。


 でもそんなのは私の知ったことではない。『私』はとても利己的で、私も同じ気持ちだ。


 罪を清算するのは当然のこと。しかしお姉様が受けてきた数多くの苦しみを誰も責任を取らないのに、お姉様の過ちだけを最後まで責任を取れと指差す者がいるなら……その指を力で粉々に折ってやる。


 私は静かに魔力を整えた。すでに結界の実体を捉えた以上、無駄に時間を引き延ばす必要はない。


 これはお姉様が立てた心の壁。この壁のせいで説得の言葉を伝えることすらできないなら――とりあえず壊す。話はその後でたっぷりすればいい。

読んでくださってありがとうございます!

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