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伝えたい心

 ――神法〈世界を掴む掌〉


 この世のすべての魔を掴む。


 文字通りこの宇宙のすべての魔力を掌握する神法。もちろん実際には神々の魔力にまで干渉することはできない。それでも『幻惑』の領域にも僅かながら弱化を誘導する程度は可能だ。そしてこの世界の魔力を支配するということは、五大神が受ける世界のバックアップにも若干は抵抗が可能だという意味だ。


 それを刃先に込めて振るった。


 ――天空流奥義〈万象世界五行陣・木〉


 紫光技を超えて極光技の領域に至った魔力の線が『幻惑』の領域を斬り裂いた。


『幻惑』の分身は短剣で斬撃を防いだ。小さな短剣から莫大な力が噴き出し〈五行陣・木〉を相殺した。その余波で周囲の幻影が山のように砕け散った。


 そうして一瞬開いた空間に突進した。正直すぎるほどの一直線攻撃だったけれど、それを誰も避けられない速度でやってのけるなら意味がある。


 至近距離から振るった一撃を『幻惑』は短剣で防いだ。その直後かげろうのように彼の姿が揺らいだ瞬間、まったく別の方向から『幻惑』の一撃が飛んできた。


【分身の分身だって? 悪ふざけしかできないのかな?】


【挑発にしては幼稚すぎるのである】


『幻惑』は平然と答えると分身をさらに増やした。


 もちろん今回の分身たちは本体にはとても及ばないものばかり。本体の力を投影して攻撃の手を増やすだけだけれど……その数が尋常ではなかった。


 瞬く間に数が雪だるまのように膨れ上がった。一つ一つの本質は大したことのない分身体に過ぎないとしても、そのすべてが本体の力を宿す端末。存在自体が本体と同等の格を持つ神法の分身に比べるべくもないけれど、放つ一撃や威力に本体の力を宿すことは可能だった。


【繁殖力はゴキブリみたいね!】


 ――アルカ式天空流奥義〈五行火象万敵殲滅〉


 周囲をたった一つの砂粒すら存在し得ない斬撃の牢獄にして、すべての分身を閃滅させた。


 しかし幻影の分身は弱いものの生成に制約はなかった。いや、むしろ私の魔力の残像が沈むや否や、さらに多くの数が現れた。


 上下左右前後すべての方向から一斉に殺到してくる攻撃。前方に対応すれば後方を狙い、後方に対処すれば上か下から隙を突いた。時には次々と、時には同時に数多くの攻撃が絶え間なく飛んできた。


 分身たちの短剣を払い、影の刃を一掃し、実体化した幻影が作り出すありとあらゆる術法を無力化した。その最中にも強力な反撃を放ちながら時には神法の分身にも届いた。


 普通ならこのような形で消耗戦になり、先に力が尽きる方が負けるだろう。しかし世界のバックアップを受ける五大神を相手に消耗戦は自殺行為だ。


 正直に言えば、今の勢いは劣勢。バックアップがなければ拮抗以上をやってのける自信があったけれど、世界のバックアップを受ける今はジェリアお姉さんと私を同時に相手にする状況なのにむしろあっちの勢いが上だった。このまま状況に変化がなければ不利を覆すことはできない。


 ジェリアお姉さんと『光』もそれぞれの敵を相手にするのに精一杯でこっちに気を回す余裕はないだろうし、『太陽』は……詳しい状況がわからないほど莫大な魔力を振りまきながら激しく戦っているけど、『鍛冶』がうまく対処しているようだ。この世界の適合な神でもなく、人間である自分と融合したわけでもない彼女としては限界が明らかだ。


 ならば。


 私は目を閉じた。肉体は魔力の感覚だけで『幻惑』の攻撃を把握し隙なく防ぎながらも、精神は魔力を長く伸ばした。『太陽』へ。


『お聞きくださいませ』


 短い瞬間に必要なことをすべて伝えた。ここでの勝利条件が何なのか。私が彼女に何を望んでいるのか。言葉というよりも記憶と感情そのものを魔力の線に乗せて、『太陽』には申し訳ないが精製する余裕がなくて少し乱暴に叩き込んだ。


 乱暴な方法だけどそれだけ効果的に伝わっただろう。


 命令ではない。説得でも懇願でもなかった。そもそも私たちみんなは上下関係で結ばれたわけじゃないんだから。


 ただ『太陽』がいまだに私を大切に思う心があるのなら、どうか一度は私が望む〝試み〟をしてほしいという気持ちを伝えたかった。


 そして――その繋がりは切れた。


 返事はなかった。躊躇いも感情も何一つ私に伝わらなかった。『太陽』が私の繋がりを断固として切り捨てたのだ。


 彼女が私をどう思おうと、私の頼みが意味するところを勘違いすることはない。だからこそ受け入れないことにした。その事実だけが冷たい現実となって残った。


 ……まぁ、そうだろうとは分かっていた。


 この程度の説得に簡単に乗ってくるのなら、最初からあれほど強硬に拒否もしなかっただろう。そもそも私が彼女と共にした歳月がそんなことなんてわからないはずがないほどだから、こんな説得も何万回は軽く超えた。


 それでも私のそばを離れない『太陽』も、そんな彼女を振り払えないまま一緒にいる私もなかなかだけどね。


 ……いや、今はこんなことを考えながら苦笑いなんかしている場合じゃない。


 幻影は相変わらず増え続けていた。絶え間なく反撃で消去し続けていたけれど、増える速度が私の破壊速度より速かった。もちろんいくら多くても同時攻撃に限度があるので、最終的にはジェリアお姉さんの方のように膠着状態になる可能性が高いだろう。


 そうなる前に、もう一度『太陽』に声を残した。


 言葉ではなかった。要請でも、訴えでもなかった。ただ――たった一度だけ、話しかけてほしいと。


 息遣いのように静かな一つの頼み。私でもなくお姉様でもない。ただ『太陽』が人間リディアに話しかけてくれたらという願いを。


 そうしたところで何が変わるのかは分からない。今までそうだったように『太陽』が拒否して終わる可能性の方がずっと高いだろう。


 それでも一度は対話をしてほしいと、それだけを切実さを込めて伝えた。


 ……返事はなかった。

本来なら本日二回の更新をするべきでしたが、用事があるため二回目の更新は難しそうです。申し訳ございません。

来週の週末両日とも二回更新するようにいたします。


読んでくださってありがとうございます!

面白かった! とか、これからも楽しみ! とお考えでしたら!

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