『幻惑』の力
刃が『幻惑』の首に吸い込まれる瞬間、強い金属音が鳴り響き、剣が弾き飛ばされた。
私の剣を弾き返した短剣から感じた魔力と重さ。そして神の感覚で捉えた現実。それらすべてから推し量るにこの『幻惑』が本体に間違いないと確信し、すぐさま魔力をさらに引き上げた。
【我に正面から挑むか】
【陰湿に後ろでコソコソするしかできないくせに偉そうなこと言わないで】
周囲の魔力の流れが変わった。
『幻惑』が完全に支配していた領域。それを『万魔掌握』に神の権能を乗せて完全に奪った。一瞬にして魔力の嵐が吹き荒れ『幻惑』の軍勢を引き裂いた。
しかし『幻惑』はお構いなしに突進してきた。その姿が陽炎のように揺らいだかと思うと、私の前にぼんやりと現れた影から漆黒の刃が飛び出した。
【ふん!】
小さく鋭い刃を左手の剣で払い、右手で空間を切り裂く一閃を放った。太陽さえも切り裂くほどに巨大に。
『幻惑』の姿が一刀両断されたけれど、次の瞬間私は後ろに身を翻し剣を横に振るった。影の短剣が私の斬撃を受け流した。
覆面の上から覗く瞳が冷たい光を放った。
――フリネス式暗影術〈三爪〉
三度の斬撃があった。
刃も何もない空中に突如現れたとしか見えない斬撃。そのため軌道さえ読み取りづらかった。
でもどこを狙うかくらいは『私』の目にはっきりと映った。対処にはそれだけあれば十分だ。
――アルカ式天空流奥義〈月光蔓延・一点逆行敵象穿孔〉
双剣の乱舞が周辺一帯を覆い、影の斬撃を退けた。その直後に『万魔掌握』の力で斬撃の魔力を再び掴み取って一点に凝縮させた。その魔力を集中して『幻惑』の形象を貫いた。
もちろんそれは幻影。私を欺いたのではない。貫通の瞬間に本体を幻影に変えてしまったのだ。
単に幻影に物理的実体を与えたり実体を一時的に幻影化するのを超えて、本体さえも幻影に変え他のものを本体に転換する力。『幻惑』が人間だった頃にも制限的ながら使えていた能力だけど、神となって彼を無敵にしたのだ。
もちろん限界や弱点がないという意味ではない。
――『万魔掌握』専用奥義〈星空を映す鏡〉
手を挙げて世界の魔力を掌握する。
巨大で複雑な流れ。その全てを掴み取り、再び細かく分けて一つ一つ新たな単位として成立させた。
そして現れたのは無数の武器と無数の私自身の姿。
『幻惑』を相手にする時は単に強大な力を無闇に振るうだけでは意味がない。虚像と実体が混ざったこの戦場ではそのすべてに対応できる万能と物量が必要だ。そこに隙を突くのが得意な『幻惑』だからこそ、対応する側もその全てに精密に立ち向かうことが必要となる。
そして私にはそれが可能なのだ。
精製された魔力の軍勢を『幻惑』の軍勢とぶつけ合わせた。『幻惑』が作り出す無数の幻影と私の魔力の軍勢が拮抗した戦いを繰り広げた。
その間を縫って入ってくる影の一閃が一つ。
【見え見えだよ】
体を仰け反らせて危うく刃を避けた。主体は『幻惑』の短剣だったけれど、その短剣を握って突進してきたのは影の虚像だった。
しかし次の瞬間、虚像が体を回して回し蹴りを放った。防御のために立てた腕に重々しい重みが突き刺さった。
【ぐっ!?】
【見え見えではない手段など必要ないのである】
虚像だけど虚像ではなかった。
形象自体はただ見ても虚像だとわかるほど半透明だった。しかし放たれる存在感と重みは本物と変わらなかった。
これが何なのかは聞いて知っているけど、直接見るのは初めてだ。
――神法〈完全なる影〉
絶対的な幻影の権能を最大出力で発揮し、『幻惑』自身をそのまま複製する絶技。つまりあれは虚像だけど本体と完全に同等の力を持っているということだ。
もちろん作り出せるのは一つだけ。それでも今あれを出したということは――。
【そろそろ焦っているようね】
幻影の隙間を縦横無尽に駆け巡り影の刃を突き出す『幻惑』の分身を全力で相手する。
五大神として世界のバックアップにて限界以上の力を使う『幻惑』を相手にするのは容易ではなかった。幻影の軍勢自体は魔力の軍勢で互角に渡り合えたけれど、その幻影の軍勢の隙間を移動しながら本体と同等の力で急襲してくるのはやっぱり侮れなかった。
反応し、回避し、受け止める。防御は完璧で、剣を振るったり魔力を操作して反撃もした。素早く逃げ去ってしまって命中はしなかったけれど。
しかしぶつかり合う刃を通じて伝わってきたのはごく微かな焦りだった。刃を揺らがせるほどではなかったけれど、そして人間なら気づきもしないほど小さな魔力の動揺に過ぎなかったけれど、今の私にははっきりと感じ取れた。
【不安なのかな? ジェリアお姉さんがこっちに合流でもしたら厄介だものね】
『幻惑』は元々ジェリアお姉さんと戦っていた。
ジェリアお姉さんを抑え込んではいたけれど、たったそれだけの状態。むしろジェリアお姉さんの領域ではほぼ互角に戦っていた。
そんな状況で私が割り込んだため、まだジェリアお姉さん相手に出していなかった神法まで動員して私を相手にしているのだ。それはつまり本体だけの力では私とジェリアお姉さんの両方を相手にするのは難しいということを『幻惑』自身が認めたということだ。
もしこれがお互いを殺し合うのが目的の戦いだったら本体だけでも方法はあっただろう。しかし私たちの勝利目的が五大神の討伐ではないため、五大神の勝利目的もまた私の前進を阻むことだけ。私がこの場を離れる可能性を完全に遮断しなければ五大神の戦いにも意味がない。
それを知っているからこそ、私はさらに強く足を踏み出しながら剣に魔力を込めた。
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