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臨む心の違い

 わたくしも以前は目の前の一つ一つの出来事に一喜一憂し、目に映る全ての悲劇を消し去ろうともがいていた時期があった。


 あの時のわたくしは個人的な憎しみや恨みを燃やしていたのではなく、理想のために走っていたのだが……自分の望むもの、信じ貫こうとする唯一のもののために、わたくしの全てを捧げたという点では変わらなかった。


 熱く、荒々しく、正義に飢えていた時代。世界の秩序といった大仰なものよりも、ただ目の前の不正を罰することだけが重要だった頃。一振りの剣だけでは世界を変えられないのなら、変えられるようになるまで無数の武具を鍛え上げればいいと信じて精進した。


 そんなわたくしだったからこそ、ひたすら自分の怒り一つだけで剣を振るうあの子の姿が目に焼き付いた。情熱的で、激しく、たった一つの理由だけで剣を持ったその姿は……結局のところ心に抱いた感情と目標が違うだけで、方向性は先祖であるわたくしと同じだったのだから。


【あなたは……まことに一筋でいらっしゃいますわね】


【ふん。そんなことあんたからは聞きたくないんだよ】


 冷たく受け答えする言葉は、果たしてわたくしの本心を察してのことだろうか。


 おそらくそうではないと思うけれど、もしかしたらあの子も先祖であるわたくしから何かを感じ取ったのかもしれない。


 思考に支配されたせいで、わたくしの攻撃が鋭さを少し失った。今のわたくしは以前よりもはるかに精巧で強力な兵器を作れるし、敵を貫く正確さと鋭さも格が違う。けれど……その兵器を振るう心が熱くなかった。


 ――アルケンノヴァ式斬術奥義〈武神貫徹〉


 奇妙なことに、わたくしとあの子が同時に同じ技を繰り出した。


 武器の力と機能を最大出力で引き出して斬撃に集束させる奥義。わたくしの剣は純粋な究極の斬撃だったけれど、あの子の剣は細い一つに圧縮された爆炎の衝撃波を巨大な刃となして噴き出した。


 激突の魔力が爆散し、わたくしとあの子の剣が同時にそれを裂いて再び相手に襲いかかった。刃と刃がぶつかった衝撃を逆利用して回転しながら槍を突き出したが、あの子は衝撃に乗って後ろに飛びながら銃を構えた。


 降り注ぐ魔弾を槍の回転で受け止めた。魔弾の爆発さえも回転の勢いで流し、魔力の拡散を抑える魔剣で次の魔弾を無力化しながら進みた。


 その途中、舞い散る火花を見ながらさらに思いに浸りた。


 神となった後、長らくわたくしはどんな感情も介入させず、徹底して理性と論理で世界に向き合おうとした。人間時代の情熱はいつの間にか捨て去られていた。


 もう何度目かわからない自問と考察。もちろんそうしている間も、攻勢の勢いが少し弱まっただけで戦いを止めはしなかった。


【ちっ。もたもたバカみたいに振る舞うのがアルケンノヴァの血筋なの?】


 自嘲と苛立ちが半々混じった嘆きを吐き出した直後。あの子の気配が一変した。


 翼の形状を成していた固有武装が円形に展開すると同時に非常に広く広がった。その配列の中心に、神の視点で見ても只事ではないほどの魔力が凝縮された。それが小さいが超高密度に集束された魔力の宝石に変わり、すぐに絢爛な光を放ちた。まるで新たな太陽がこの場に生まれたかのように。


 ――神法〈結火の太陽〉


『息づく滅亡の太陽』――あの子の神としての名。その真の姿を証明する権能の発現だった。


 邪毒神のままであの力を使うのは大きな負担だろうが、それすらも意に介さないということだろう。


【いいです。今はお相手を務めさせていただきましょう】


 心の中に迷いがあろうとも、今の役割と義務を投げ出すつもりはない。


 異界の太陽に対してわたくしも真の力を現した。




 * * *




 目の前の戦いに集中しながらも、他方での戦いと会話を全て把握していった。


 この世のすべての光を扱う権能にて、光があたしに聞かせる音を隙間なく把握した。それぞれの胸の内まで知ることはできないが、状況と会話だけ見ても推し量ることは十分可能であった。


【朕と戦いながら他のことに気を配る余裕があるのか?】


『境界』があたしを見て眉をひそめたが、あたしはにやりと笑いながら指で挑発のジェスチャーを取った。


【ほんの数時間前に世界のバックアップを受けてもあたし相手に敗走したあなたが口だけは達者だわね。腹が立つならあなたの力であたしを倒してみなさいよ】


【ふん。あの時は汝の能力を見誤っただけだ。最初から正しく把握していれば、対応する方法などいくらでもあるぞ】


『境界』の言葉は虚勢ではなかった。あたしの魔力の流れと放出に少しではあるが抵抗を感じていたのだから。戦闘を続行することは可能であったが、今の全力を発揮することすら今の状態では不可能であった。


『境界』が放つ空間の刃を同質の力で相殺した。そして逆に『境界』に駆け寄って剣を振るった。『境界』は『大地の盾』にて剣を防ぎ、右手で空間の刃を操ってあたしを八つ裂きしようとした。しかしあたしが同じように作り出した空間の刃が攻撃を防いで隙を作り、光の力を凝縮した斬撃を放つと『境界』は後ろに下がって避けた。


 戦いの余波がここまで及んではきたが、それでも『幻惑』はこちらにほとんど神経を使えなかった。ジェリアが彼の力を効果的に相手していたのだ。


 一方リディアは怒りと嫌悪で揺らぎ、『鍛冶』は疑問で揺らいでいた。あちらはやや停滞気味に見える面があるが、時間稼ぎという側面では悪くはない。


 この状況で『境界』の奴を倒せれば最善。だがすでに一度敗走した経験があるためか、『境界』は先程とは違って慎重であった。


 でもいずれにせよ突破して次に進まねばならないのはあいつらの方。どんな形であれこちらは奴らの足を引っ張ることができれば最も重要な目標はクリアだ。


 もちろんあいつもそれを知っているので、このように停滞したまま時間を無駄にし続けはしないだろう。それを知っているがゆえにあたしも油断せず状況を見守り続けていた。


 変化はすぐに訪れた。

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