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ジェリアと『幻惑』

 それを確認する一方、あたし自身は『境界』の圧迫を一歩押し返した。


 あちらもこちらも、一対一になったという理由だけで戦闘を勝利で終わらせられるほどではなかった。世界のバックアップを受ける五大神というのはそれほど甘い相手ではないのだから。


 しかしあたし一人で複数を相手にしていた時に比べれば、はるかに戦いやすい状況になったのは事実だ。


 時折互いの攻撃が交差することもある二対二の形勢だったが、もう少し目の前の敵に集中する形で再び一度戦況が再定立された。


 一歩さらに、勝利に近づいた。




 * * *




「……ほう」


『幻惑』との絶え間ない物量殲滅戦と本体同士の激突を繰り返しながらも、ボクは『光』側の戦いも見逃さなかった。


 そしてそちらを見ながら、なぜ『光』が五人の勇者の最強であり五大神の最強なのかを如実に感じた。


 この世のあらゆる光を自身の力とする権能。そして『万魔掌握』と『浄潔世界』の能力者。浄化能力である『浄潔世界』は五大神を相手にしては大した意味がないとはいえ、『万魔掌握』を扱う能力はアルカ以上だ。そもそも『光』の権能の原本とも言えるものなのだから当然だろう。


 その力で『境界』の力を中和し、環境を支配する彼の手段よりもさらに多様で数多くの攻撃で『境界』の攻撃を受け止めていた。まだ迎撃と反撃に過ぎなかったが、あの勢いならばすぐに本格的な攻撃も可能だろう。


 それゆえにボクに求められるのは『幻惑』を倒すというよりは時間を稼ぎながらバランスを取ることに近い。どうせ目の前の戦い自体の勝敗などは目標ではないのだから。まったく倒せるのならば最善だろうが、必要でもないおまけのために固執するつもりはない。


 周囲を常に満たす『幻惑』の幻影を落ち着いて壊していった。本物ではない虚像、しかし独特な秩序で実体が与えられたそれらは一方の意思のみを一方的に実現する偏った力だった。


 その秩序ごと幻影の魔力を凍らせ、一度の斬撃で大量の幻影を破壊する。


 ――プリネス式暗殺術〈影切り〉


 砕け散る魔力の残像の間から、突如薄暗い影が現れた。


「むっ!?」


 首筋に襲いかかる刃を剣で弾いた。


 秩序と権能を活用した攻撃とは異なり、極めて人間的な暗殺術。ハセインノヴァの始祖、プリネス・コバート・ハセインノヴァの技だった。


【フィリスノヴァの子よ。汝は何のために汝らの先祖たる我らが守護する世を壊そうとするのである】


 感情が徹底的に隠されているため、より冷たく聞こえる声。まるで世界が異物を非難するような気分すら感じた。


 しかしそれすらも『幻惑』の力がもたらす錯覚に過ぎぬ。


「笑わせるなよ。ボクは壊したこともないし壊そうとしたこともない。貴様らが無能で対応できないことをボクらに転嫁するなよ、クズどもめ」


 口を動かしている間にも『冬天世界』の魔力は周囲のすべてを制圧し、『冬天覇剣』の勇猛な気勢が『幻惑』の襲撃を受け止めた。


『幻惑』の攻撃はまるで影だけが動いて刃を突き出すかのようだった。彼の姿は薄暗く、攻撃の瞬間ですら正確に認識できなかった。そんな中でただ短剣の刃だけがどこからともなく突如現れた。


 感覚自体はシドの先祖らしくシドの技と似ていたが、短剣であるにもかかわらず直撃する瞬間山脈さえも一撃で粉々にするほどの破壊力があった。


【知らぬか? あの小娘が犯した行為がこの世にどのような問題を引き起こしているかを】


「貴様らが協力していれば最初から起こらなかった問題だ。そもそもアルカがなぜまだあのようになっているか考えてみろ。たかが人間一人を救うという目標すら貴様らが必死になって邪魔をしたからではないか。アルカの繰り返しが世界を壊すと主張したいのなら、そもそもその繰り返しの原因が貴様らだという点から考察するがいい」


 アルカが人間だった頃『隠された島の主人』の力を借りたせいでループと平行世界が増えたのは純粋に彼女の過ちだろう。


 しかしそもそもアルカがあの神の助けを求めたのは他のすべての方法と助けが阻まれたからだ。特に五大神の力を借りることができたなら、わざわざ邪毒神に頼る必要もなかっただろう。


 ボクも後で知った事実だが、あの時『光』は五大神として問題ないという判断のもとアルカを助けようとしたそうだ。実際に彼女の力であれば、わざわざ邪毒神に力を借りて世界を脅かす方法を取る必要もなかった。


 しかしそんな『光』を阻んだのが残りの四人の五大神だった。


 しかもアルカが権能を完全に簒奪し独立した神となった後でも、テリア一人を救うくらいは本来なら難しくなかった。たった一度の試みで目標を達成することも可能だっただろう。


 しかし世界の外へ飛び出し邪毒神になったという事実、それだけで『光』以外の五大神は彼女を世界の敵と規定し、彼女の願いを妨害することに全力を尽くした。彼女が過去に犯した過ちのために警戒するのならまだ理解できたが、奴らの考慮事項にそんなものは含まれていなかった。


 奴らが皆同じ考えなのか、それぞれに違いがあるのかは分からないが、正直知ったことではない。


「アルカにも言いたいことがないわけではないが、貴様らに比べるほどではない。起こらなくてもよかった危機を招いたのは貴様らだ」


『幻惑』がどんな考えを持っていようと、無用な邪魔者だという事実は変わらない。


 ならば――力で排除するだけだ。……と簡単に言いたいところだが、やはり五大神として全力を尽くす相手をボク一人の力で倒すことはできぬ。ボクが一人でも奴の力を受け止めているのは、戦場全体を支配することで数で押し切る戦略を無意味にできるボクの能力の特徴のおかげだ。それでも『幻惑』の本体を倒すのは話が違う。


 この状況を打開するには……。


 戦いの合間に横をちらりと見た。遠くで戦う炎と閃光が見えた。


 リディア。

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