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もう一人の援軍

 戦場の状況は決して容易ではなかったが、まだ耐えられる水準であった。


『鍛冶』をアルカの友人が引き受けてくれたおかげで、今あたしが相手にしているのは『境界』と『幻惑』の二人。『鍛冶』が抜けた空席はかなり大きかった。しかし依然として勝利よりは耐えることに近い状況ではある。


『境界』の結界は世界の法則を利己的に上塗りした。あたしの力を抑制し、あたしにのみ数十倍の重圧と抵抗を与え、あたしが何かをしようとする度にその前兆を相手に知らせた。ただでさえ鈍化し弱体化した上に次の行動を知らせる前兆まで露骨に知らされるのだから、攻撃はほとんど意味がなかった。


 そしてその隙を『幻惑』が絶え間なく突いてきた。


 彼はもはや幻影と分身だけを使用しなくなった。実体を持つ幻影を利用して万能に近い現象を起こすのも良い武器だが、彼の最大の武器は彼自身が幻影に隠れて何度も奇襲をかける暗殺術だから。


【ふぅっ!】


 防御のために立てた剣に加えられた衝撃を気合いと共に耐えた。


 幻影が偽りの気配を撒き散らす中、本体は何の気配も兆しもなく不意に現れて必殺の短剣を突き出す。遮られて弾き飛ばされても再び幻影の中へ消えるだけ。一対一であればこちらが実体を捕まえて逆襲することができるが、『境界』の結界が邪魔をしているのでそれも難しかった。


 しかし弱体化したとはいえ、本来あたしは五大神の最強であり、最も汎用性の高い権能を持つ者。『境界』と『幻惑』を倒すのは難しくても、逆に奴らもあたしを倒して前に進むことはほぼ不可能だった。


 そしてそのような膠着状態が続くだけでも、戦闘ではなく戦略的にはあたしの勝利だった。


【相変わらずしつこいではないか!】


 漆黒の結界の糸が周囲に集束し、巨大な狼の形をした神獣が十匹現れた。


 強力無比な速度と力を兼ね備え、敵対者の魔力を吸収して無力化する神獣。神の力をすべて吸収するほどではないが、過度な吸収で崩壊して消滅しても『境界』の結界が残っている限り無限に再生される。


 それでも断じてこの線を越えさせてはならないという決意一つで耐え続けた。


 この線を、この防御を守る限り敗北はない。あたしの役割はあくまでもアルカを邪魔させないことだけ。むしろ時間が経てば経つほど、奴らの方から少しずつ焦りが感じられていた。


 そうして戦いを続けていた最中のある瞬間、あたしの感覚の最も外側の境界で微細な流れが感じられた。


 惑星から続く魔力の波動。宇宙の虚空よりも冷たく、神体さえ凍りつきそうな異常な冷気だった。まるで水が隙間を探して流れるように、結氷の魔力が戦場全体に精巧に染み込んでいった。


 それが誰のものであるかはすぐに気づいた。


 振り返りはしなかった。しかし彼女が正確にどこに向かって動いているのか、何を制圧しようとしているのかは一目で分かった。音も、不要な信号も必要ない。ただ魔力の流れだけで彼女の意図は完璧に伝わった。


『幻惑』自身を複製した幻影が襲いかかってきた。しかしあたしはそちらに対応せず『境界』の結界にのみ集中した。


 幻影の刃があたしの胸元に突き刺さる瞬間――全く別の方向から打ち込まれた剣閃がそれを弾き飛ばした。その剣閃が描いたかのように突如現れた氷の波が周囲の幻影を一気に払いのけた。


「かなり苦戦していたようだな」


【まぁ、あたしが全力を出せない以上はしょうがないわね】


『暴炎』リベスティアの末裔、ジェリア・フュリアス・フィリスノヴァ。すでに邪毒神『暴君』と完璧に融合した彼女の力は安定していた。


 邪毒神は本体がこの世界に成功的に召喚されても、自身の力を完全に発揮することはできない。召喚された直後しばらくの間は全力を出せるが、結局世界の反発に押し潰されるから。それゆえアルカも仲間たちを人間である彼らと融合させる道を選んだのだ。


『暴君』の完全な力の総量だけで言えば……恐らく世界のバックアップを受けていない『暴炎』よりほんの少し劣勢程度だろう。しかし魔力を制御する技量がかなりのレベルだった。この程度ならバックアップを受けていない『暴炎』に勝ったのも不思議ではないな。


 彼女は幻影の中から不意に飛び出してきた『幻惑』の短剣を乱暴に弾き飛ばしながら、堂々とした気迫溢れる態度で前を睨みつけた。


「あの騒々しい見かけ倒しの馬鹿はボクが相手をしよう」


 ジェリアはそう宣言するやいなや幻影の密度が最も高い所に飛び込んでいった。


『幻惑』はすぐさま数多くの幻影で対応した。ありとあらゆる猛獣と猛禽の姿が実体を持つ爪と牙で彼女に襲いかかった。そして『幻惑』自身はもちろん、あたしさえも、果てはジェリアまで複製した幻影が彼女を八方から襲撃した。


 しかしジェリアは躊躇なく対応した。虚像さえも凍りつかせる冷気と霜が幻影を停止させ、鋭い一閃がそのすべてを粉砕した。それは単に周囲の幻影だけを破壊するのではなく、その向こうに隠れていた『幻惑』にまで届く一撃だった。


 もちろん『幻惑』もそれほど簡単に勝てる相手ではなかった。砕け散る破片の隙間からさえ新たな幻影が無数に生まれ、そのすべてを掻き分けて突進した『幻惑』の一閃がジェリアを脅かした。ジェリアは一撃自体は剣で防いだが、衝撃を完全に殺しきれず後ろに押し戻された。


「数合わせは貴様だけの専売特許ではないぞ」


 ジェリアの氷が様々な形状を作り出した。まるで『幻惑』を嘲笑うかのように、彼が作り出した幻影たちと全く同じ姿をした氷の彫像の軍勢が現れたのだ。それらは幻影に様々な能力と実体を与える『幻惑』の軍勢ほど多彩な力を持つものではなかったが、徹底した堅固さと鈍化の力で『幻惑』の幻影軍勢と互角に渡り合った。

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