アルカとジェリア
『鍛冶』がどんな奴かは知っている。
直接会うのは今回が初めてだけど、家柄の始祖についての記録は具体的に伝わっている。そして五大神としての彼らを実際に対峙し敵対したアルカから聞いた話と、今目の前で見せている姿。それらを見れば十分に理解できる。
神となり大きな視界を持つようになり、人間だった頃の小さな感覚とは遠ざかってしまった者。私も昇天者だからこそ、それがどんな感覚なのかは理解している。
しかしそうだとしても、それを私が酌量する理由なんてない。
私はただアルカのために戦うだけ。たとえ彼女の選択を理解できなくても、テリアへの私の感情が変わらなくても。
その大前提だけは決して曲げない。
剣を握り直し魔力を溜めた。赤い魔力が剣先に再び集まった。
【……アルカに言いたいことはたくさんあるけど、まずはアルカの敵を先にぶっつぶすことが先決だよね】
遠くから『光』の気配が感じられた。彼女を突破しようと努めている『境界』と『幻惑』の力も。
アルカが諦めるか消えるまで、奴らは諦めないだろう。もちろん彼らを阻もうとする『光』も。
『鍛冶』は離れて私との戦いに集中しているから、さっきより『光』にかかる負担は少ないだろう。このまま各自の戦いに集中しながら、アルカが次のステップに移るまで持ちこたえればいい。
もちろんその前に私の手で敵を叩き潰すのが私の目標だけどね。
***
魔力が少しずつ落ち着いていった。
召喚術式の魔力は相変わらず充満しており、緊張の密度も変わらなかった。しかし術式が安定するにつれ、不安定に揺れていた魔力が冬の湖のようにじっと集まっていった。それを扱う精神の集中だけが続けて鋭く研ぎ澄まされていた。
素早く呼び出すことも重要だけれど、順序もまた重要だ。一人を呼び出すたびに戦況に変化をもたらすのだから。
すぐ次を誰にするかはすでに決めていたけど、まだ唇は閉じていた。まるで最後の息を整えるダイバーのように、時を見計らいながら集中の糸を手放さないだけ。
判断の瞬間に思い浮かべたのは、私がこれまで経てきた数多の失敗。数億回の選択と結果。その中から参考になるものを引き出し、経験が与えた判断力でさらに先を予測する。
人間としての私はその重みを耐え難かったけれど、神としての『私』の力と精神がそれをしっかりと受け止めた。
「……よっし」
指先から糸のように細く伸びていく魔力の結に集中したまま、外の座標を整備する。邪毒神として存在する仲間たち――この世界を離れ神として覚醒した親友たちの存在と位置をここへとつなぐ。
作業を進めている最中だった。
「あれ?」
意識の外でとても小さく静かな震えを感じた。
深淵のように澄んでいて、説明し難いほど奇妙な感覚。まるで一滴の水が静かな湖に落ちたかのようなイメージ。微妙だけど確かに存在する振動を起こした。
空気が冷えていった。大気自体の熱気が徐々に消えていった。それだけでなく魔力の動きさえも止まったかのように感じられるほど鈍くなった。
それでも私の周りの魔力の流れだけは何の問題もなかった。まるで私を邪魔はしないという様子で。
頼んでも、呼んでもいなかったけれど、それが何をしに来た前兆なのかはすぐにわかった。
私にはとても馴染みのある波長。少し見慣れない気配も混ざっていたけれど、それは『私』の方がよく知る類いのものだった。
それを感じた瞬間確信した。彼女はすでに融合を完遂したんだって。
視線を上げて空を見上げた。薄く細い亀裂が目に留まった。神の視線を持つ今の私でさえ集中しなければ気づかないほど、大気の表面に微細な亀裂が入っていた。その隙間に沿って凍りついた気流が舞い、透明な氷の結晶が散るように砕けて降りてきていた。
霜の花のように繊細に広がっていく亀裂の模様。外からこの世界に入ってくるのではなく、ただこの世界の中で空間転移をするだけなのに、この世界の表面を固い氷のように精巧に削り取る繊細さが感じられた。
暴力も歪みも全くない。ただ正確に必要な分だけ隙間を作り出すだけ。それは極めて効率的であると同時に、世界の負担を極めて軽くする配慮でもあった。
すぐに亀裂が開き人の影が徐々に姿を現した。
ジェリアお姉さんだった。
登場に華やかな何かや誇張はなかった。魔力の流れさえ静かで整然としていた。ただ落ち着いて、まるで普通に部屋のドアを開けて入るかのように彼女は現れた。
ジェリアお姉さんが現れた場所は大気圏の外、雲と同じ高さだった。しかし人間には遠い距離であっても神にはすぐ隣と変わらない距離でもあった。
その距離で目が合った。
彼女の眼差しを見て再び確信した。ああ、ちゃんと問題なく互いに一つになったんだね、って。神である『凍てついた深淵の暴君』とこの世界の人間ジェリアが調和して共存するその目は、深い海のように静かでありながら計り知れない深さを感じさせた。
私が記憶しているジェリアお姉さんはいつも冷静沈着でありながら、友人たちには決して冷たくなく配慮のある人だった。それは『私』が記憶している『凍てついた深淵の暴君』も同じだった。……たとえお姉様が起こした悲劇によって歪み絶望したとしても、しっかりと自分の本質を守り抜いた強靭な人。
逆に『私』が苦しむたびに静かに私のそばを守ってくれた人。必要な言葉は言うが、無駄な言葉は言わない。彼女が『私』を大切に思ってくれたように、『私』にとっても彼女は大切な理解者だった。
ジェリアお姉さんは何も言わずに私を見つめていた。その眼差しが何を言おうとしているのかなどは言葉がなくても正確に伝わってきた。
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