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考察

 かつてテリアは私のすべてを奪った。


 いや、正確に言えば、そもそも私のものと呼べるようなものを残さなかったというべきかしら。


 あの女の甘言に踊らされていた当時の私は、あの女のためにすべてを捧げた。そしてあの女はそんな私を徹底的に操った。私自身の行動だけでなく、私の周囲の人間関係まで徹底的に統制し、自分の思い通りに管理した。


 そんなあの女だからこそ、ふと不安が胸をよぎった。もしかしたらアルカまでも奪われるかもしれないって。


 アルカならあの女が何を言おうと操られるはずがない。私を見捨てるはずもない。けれど……そんな考えが頭から離れないほど、私の魂に刻まれたあの女の悪性があまりにも強烈だった。


 その恐怖を怒りに変えて剣を振るった。〈爆炎石〉が剣先に沿って炸裂し、『鍛冶』が瞬時に兵器を回転させてその力を流し去った。


 舞い散る火花の向こうに『鍛冶』が私を見つめる眼差しが見えた。




 * * *




 奴は狂暴だった。


 しかしその狂暴さの中にも、揺るがぬ軸があった。


 アルカ。自分を救い、最も大切な友となってくれたその名のために。


 テリアを憎みながらも、彼女を救おうとするアルカのために戦うという矛盾。その衝突する感情の中でも燃え上がる愛情。


 人間だった頃、わたくしにもあのような瞬間があった。


 理想と現実の間で葛藤したこともあれば、救いたかった者を敵として目の前に置いたこともあった。矛盾と葛藤の中で、何を守り何を切り捨てるべきかを考えなければならなかったそんな瞬間が。


 そんな時、わたくしは当然守るべきもののために剣を取った。


 守りたいものと守るべき現実が違っていたことは……あった。しかし不幸中の幸いにも、わたくしにはその現実さえも屈服させる力と仲間がいた。守りたいものが現実の壁にぶつかったのなら、その壁を打ち砕けばよかったのだから。


 いつからか……そんな覚悟と意気込みが失われてしまったのではないか。そんな思いが不意に湧いた。


 神が見つめる世界はあまりにも広い。それだけ見る現実の規模も格が違った。その中で壁に阻まれた……というよりも、壁と戦うような矛盾が生じる前にわたくし自身がまずその巨大さに適応してしまった。


 そうしてわたくしも知らずに捨ててきたものの一つがあの子を作ったと考えると、わたくしにも責任がないわけではないだろう。


 そんな思いを巡らせながらも、わたくしは続けて兵器を創造し、ぶつかっていった。そして砕け散る兵器の破片をかき分けて進み、剣と槍を振るった。一振りするたびに宇宙を裂くような力が噴き出し、同等の剣撃の反発にぶつかって相殺された。


 流し、吸収し、捻じる。単に直線的に振るうだけではなく、時には優雅に、時には蛇のような軌跡で攻撃を受け流すこともあった。かと思えば、ある瞬間には最短最速の一撃で防御ごと相手を打ち砕こうとする威力を放つこともあった。


 しかし、わたくしの末裔の力は崩れなかった。


 剣と兵器がぶつかるたびに戦場が振動した。空気などない宇宙空間であるにもかかわらず、世界の時空間そのものが砕け散りそうに揺れた。


 まるであの子の激しい感情がそのまま表れたかのように。


【……】


 ふと思い出した。


 わたくしがこれまで歩んできた道が間違っていたとは思わない。わたくしがしてきたことは、大のために小を犠牲にするようなものではなかったのだから。より大きな、世界そのものを守ることで大と小を漏れなく手に握るものだった。


 ……しかしわたくしが何をしようと、人間一人一人を目に留めたことはなかったということだけは否定できない。


 神だからといって全ての人間に対して全て対応することは不可能だが、拾えずにこぼれ落ちたものが実際に目の前に現れてしまえば何も思わないはずがない。


 人間だった頃はどうだっただろうか。あの頃は目の前の悲劇一つ一つに怒りを覚えて立ち上がり、救えないものなどないと思っていた時期もあった。それが錯覚だということに気づく痛みもあったが……今では全能感もその後の気づきもとても遠くに感じられた。


 もちろんその遠かった時代のわたくしでさえ、今目の前でわたくしに突っ込んでくるあの子とは違っていた。しかし目の前の人と感情のために剣を取ったということだけは変わらなかった。


 いつから変わったか、などということに意味はない。重要なのは何がどう変わり、その結果がどうなったかということだけ。


 ……そして、その結果わたくしが立つこの道が正しい道であるのか。わたくしが自らに問うのはそれだけだった。




 * * *




 いったい何度目かわからない剣と剣の衝突。魔力場に共鳴して極大化した魔弾の威力は『鍛冶』の槍に無力化され、その槍が回転しながら突進してくる逆襲を剣撃と爆発でかわした。それをそのまま隙につなげて突こうとしたけれど、『鍛冶』は素早く体を回して剣で私の剣撃に対応した。


 純粋な技量は相手が上。しかし太刀打ちできないほどの差ではなかった。また同じアルケンノヴァの技術だからこそ、どの瞬間にどんな攻撃をしてくるかも予測できた。それを基に相手の攻撃に対応し、〈爆炎石〉の爆発を混ぜて威力を補うことで互角の戦いを成立させた。


 互角、そう。まだこの戦いの形勢は互角に過ぎなかった。


 早くこのイライラする敵をぶち壊して次の敵を叩き潰しに行きたいのに、奴の眼差しが非常に気に障った。


 哀れむような同情と、後悔するような悔恨。半分ほどは私に向けられたもののようで、半分ほどは自分の中の何かを見つめる眼差しだった。


【引き下がる気もないのに、そんな目やめたらどう?】


【何のことか理解しかねますわ】


【あんたが何考えてるかなんて聞かなくてもわかりきってるよ。結局何も変わらないのに、無駄に一人で悩んでるフリするって、見てるリディアをイラつかせるだけで何の意味もないでしょ】

現在溜まっている埋め合わせ事項について簡単にお知らせいたします。

明日から火曜日まで、つまり三日間にわたって二回の更新を行うことにいたします。

ただしこれだけでは未だ溜まっているものが全て処理されるわけではありませんので、今後の週末中にも基本的な二回更新一回だけでなく追加更新をさらに行うことになります。


読んでくださってありがとうございます!

面白かった! とか、これからも楽しみ! とお考えでしたら!

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