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同じことと違うこと

 この子がどのような人生を歩んだかは知っている。この世界の管理者として、この世界のすべての平行世界についても知っているのだから。


 もちろん、いくら神であってもその中で生きるすべての人間のすべてを知っているわけではない。神にとって人間一人二人など、人間が見る砂浜の砂粒一つよりもはるかに小さな存在なのだから。人間も砂粒一つ一つの歴史を詳しく知っているわけではないように。


 しかし、そういったことは普段はあえて知る必要がないからだけのこと。心を決めて見つめようとすれば知れないことはない。そして要注意人物だったアルカの周りの人々についても当然注視していた。


 その中でも、わたくしの子孫であるこの子については特に。


【未熟で愚かですわね】


 手に握った剣と槍はそのままに、『無限の棺』にて再び兵器の軍勢を生み出した。


 兵器の種類は剣と槍だけのシンプルな構成だった。しかし一本一本に宿る能力がすべて異なっていた。火や氷を生み出す典型的な魔道具もあれば、空間を歪めたり法則を調整したり幻想を撒き散らしたりする特殊兵装もあった。


 それらすべてを配置し操りながら戦場を支配するわたくしに向かって、子孫である子はただひたすらに突進してきた。


 無数の武器を生み出し扱うアルケンノヴァとしての能力はわたくしと似ている。しかしあの子は武器に様々な力を与えるというよりも、たった一つの能力を形だけ変えて繰り出すだけだった。


 直進。閃光。爆発。ただそれだけの攻撃。様々な術式を活用することもあったが、それも結局は爆発の威力を調整したり方向を多様に制御したりするためのものに過ぎなかった。


 しかしその直線的で単純な攻撃も、威力と火力を極限まで磨き上げれば話が違う。


 武器を振るい放つたびに爆炎が起こった。特別な効果も何もない単純な破壊の力。しかし破壊力が極に達した果てに、法則に干渉する力さえ粉砕する絶対的な何かを秘めていた。


 そして爆炎の光に照らされた顔には怒りが露わになっていた。


【未熟? 偉そうな口ぶりね。昔からそうだったって聞いてたけど】


 剣を振るう剣法も、力の流れもわたくしとは異なる部分があった。しかし大きな筋は同じだと感じられた。おそらく若干の違いは歳月が流れる中で変化したものだろう。わたくし自身は歳月が流れる中で変化した子孫たちの技術もすべて吸収したが、蓄積された違いもすべて持っているのだから。


 しかし技術の類似性に比べて、それを振るう心構えがあまりにも違っていた。


【さぁね。偉そうかどうかはあえてわたくしが説明する必要もございませんわ】


 宝石が虚空を裂きながら連鎖的に爆発した。


 爆炎が閃くたびにわたくしの兵器が束になって壊れたが、その隙間を裂いて進んだ兵器が逆にあの子の武器たちを壊した。


 絶対的な破壊力を発揮するのは爆発の瞬間だけ。神の魔力で宇宙空間でも燃え上がる神秘的な火ではあるが、それだけではわたくしの兵器に対抗するには不十分だ。


 兵器の配置を次々と変え、魔力と火を抑制する能力に特化した武器を中心に軍勢を構成した。それでもあの子の爆炎を抑制するのは難しかったが、爆発後に残った火はほぼ無力化された。


 そのようにしてお互いの軍勢を壊し合いながら、本体同士は接近して必殺の一撃を振るいつつ、わたくしの子孫であるあの子について考え続けた。


 剣術も射撃術も似ている。しかし戦いに臨む心構えが、相手に向ける感情が決定的に違っていた。


 わたくしは冷たく、あの子は熱かった。


 世界のために、守るべきもののために剣と弓を取るのがわたくしの理想だった。だからこそ常に理性を持って冷静に目の前を見つめ、脅威を排除することがわたくしの追求する戦いだ。


 一方であの子は正反対。ただ自分の感情と怒りだけがすべてだった。


 自分の役割も相手の役割も関係ない。何を背負っているかなどは知ったことではない。自分が大切にする者を敵対する者がいれば全部自分の敵であり、その敵に向けた怒りを吐き出すことがあの子の戦いだった。


 あまりにも人間的だ。いや、人間の中でも特に感情的な部類だろう。


 そういう人々を多く見てきたが、だからこそあまりにも残念だった。わたくしが人間だった頃にわたくしの技術の真髄を残し、血統に始祖武装という秘伝を刻み込んだのは、わたくしの理想を子孫たちが継いでくれることを願ってのことだった。


 しかしあの子の怒りはあまりにも人間的で一次元的だ。その事実が残念だった。




 * * *




 またろくでもない考えをしているようね。


 私に向けられた『鍛冶』の表情を見ていると腹が立った。


 人間だった頃は情熱的な理想主義者だったそう。それはいいけど、ただの子孫というだけの理由で勝手に私に期待し失望するのは死ぬほど目障りだ。


 それが私の怒りにさらに油を注いだけれど、それがなくても既に十分頭が煮えくり返っていた。


 それを魔力にて激しく噴き出し振り回しながら、一方で感情を魔力に込めて直接ぶつけた。


『鍛冶』ではなく正反対の方向へ。


【アルカ。ここであなたのために戦うのはいいよ。でも、あの女のためにみんなの力を借りるのは絶対正しくない。まだあなたの考え、変える気ないの?】


 アルカの返事は返ってこなかった。しかし彼女の魔力の流れだけでも意思は十分に伝わった。相変わらず変わらないということが。


 それがさらに腹立たしかった。


 アルカは私の最も大切な友達。彼女の敵を排除しないという選択肢はない。しかしこの戦いの結果アルカがあの女を救いに行くことになれば、それ以上に腹立たしいものはない。その矛盾が私を刺激し続けていた。


 もちろん怒りの最も大きな軸はアルカに敵対する者に向けられているのだけれど。


 ……いや、実は不吉な想像をしていた。

読んでくださってありがとうございます!

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