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推察と決意

「神としての自分ってのは……どんな感じなの?」


 私は慎重に尋ねた。それは私にも無関係な話じゃないんだから。


 私と同じだった、けれど完全に異なる記憶と感情を抱いたもう一人の私。ジェリアも元の彼女と邪毒神の間に大きな差があるだろうけど、私にはさらに大きな隔たりがある。


 テリアのために、テリアを探しに行くアルカを助けるためには神としての私の力が必要だ。それはわかっているけれど……果たして私はジェリアのように問題なく受け入れられるだろうか。


 神である私と今の私が一つになれば……私は依然として『私』でいられる?


 ジェリアは私を見てから目を細めた。


「わかっているようだな。そういえば、ボクは君に話をしようと思っていたところだ」


「……何を」


「君の選択だ」


 一見すると突き放したように聞こえるかもしれない口調だったけれど、ジェリアの言葉から感じられるのは彼女なりの配慮だった。


「ボクと『光』だけでは足りぬ。邪毒神の奴らを単に召喚するだけでもある程度は戦えるし、一時的なら全力を発揮することも可能だろう。実際に融合前のボク……『暴君』も、バックアップを受けていない『火』を倒した。だがそれだけでは不完全だ」


 ジェリアの視線が鋭くなった。


 私に攻撃的なわけではなかった。しかし、まるで私の中のすべてを隅々まで暴くような眼差しだった。


 少なくとも必要なものを探索するという意味では間違っていないだろう。


「他の奴らもそれなりに心配な部分はあるが、君が特に問題でな」


「リディアが? どうして?」


「それは……少し二人だけで話してもよいか?」


 ジェリアが他の人々に尋ねた。


 えっと、いったい何の話をしようってわざわざ私たちだけ別に?


 少し不安だった。ジェリアが変なことをするはずはないけど、今の彼女は普段とは違うのだから。私がよく知らない『ジェリア』が混ざっているんだから……。


 ……あ。


 私がジェリアの言うだろうことに思いを巡らせている間に、ジェリアは他の人々との話を終えた。私は彼女が導くままに少し離れた場所へ行った。


 ジェリアは真剣な顔をしたまま口を開いた。


「回りくどく言うのは面倒だから単刀直入に言おう。ここの人間であるボクらと、あちらの邪毒神であるボクらには多くの違いがある。その中で最も重要で大きな違いは――テリアに向ける感情だ」


「知ってる。あっちはテリアを憎んでるってことでしょ?」


 あちらは『バルセイ』の攻略対象者たち。正確に言えば、彼らの話を整理して再生産したコンテンツが『バルセイ』だ。


『バルセイ』のストーリー通りなら、攻略対象者たちは皆テリアのせいで悲劇を経験し、彼女を憎んでいる。その憎しみの大きさに個人差はあれど、皆が同じ種類の感情を抱いているのだ。


 ……その中でも最も隔たりが大きいのが私だってことも、わかっている。


「君も知っているようだが、感情の隔たりが最も大きいのが君だ。正直に言えば、ボクにとってテリアは最も大切な『親友』に過ぎぬ。これに関することで恩を受けたのは事実だが、彼女を想う感情が君と同じではないな」


 ジェリアは額に生えた角を触りながらそう言った。


「それでも今のボクが大きな問題なく共存しているのは、ボクの……邪毒神であるボクが憎しみよりも理性として今を判断したおかげに過ぎぬ。だが君は違う。君がテリアに感じる恩義が尋常でないのも、それだけの事があったのもわかっている。そしてあちらの君が完全に正反対の強い憎しみを抱いているということも」


 私は頷くことも首を横に振ることもできず、目を閉じた。


 そして、思い出した。


 今ではまるで遠い昔のように感じられる記憶。以前、燃える海に行ったとき。


 あのとき、その海にあった邪毒神の宝石に触れたとき、テリアは強烈な憎しみに直面したと言った。当の私自身がその宝石に触れたときにはそのような感情を全く感じなかったのに。


 テリア本人と直接接触したからそのような反応を示したのもあるだろう。しかしその後に様々な話を聞いて確信した。攻略対象者の中でもテリアを最も憎んでいる者は私だろうと。


 目を閉じると自然と思い浮かんだ。経験したことも、見たこともない姿だったけれど、まるで今私の目の前にあるかのように鮮明な眼差しが。


 見るだけで息が詰まるほどの憎しみで燃える眼差し。しかし太陽よりも熱いその憎しみでも焼き尽くせないほど、テリアの冷酷さは冷たかった。


 私が記憶しているテリアは違った。彼女の微笑み、彼女の温かさ、彼女が私たちに見せてくれた保護と愛情。時に冷たいときもあったけれど、それは人々に刃を向ける悪に向けられたものだった。


 互いに記憶しているものが違い、感情が違うからこそ、その間に埋められない隔たりができるのも当然だろう。


 即ち、ジェリアは私に問うているのだ。私が誰よりも大切に思う人を、誰よりも憎む心と記憶を受け入れられるかと。


「……正直、リディアも自信ないよ」


 長く息を吐き出すと、胸の中のもやもやが少し収まった。


 今言ったとおり自信はない。むしろ私が圧倒される可能性が大きいだろう。かつて私だった存在とはいえ、相手は神だ。長い歳月憎しみの炎を消さなかった神の重みを、ただの人間である私が耐えられるなどと言うのは傲慢だ。


 でも怖じ気づいて縮こまるつもりはない。


「それでも逃げるつもりはないよ。テリアのためなら何でもするもん。たとえリディア自身を賭けて神の憎しみを受け止めなきゃいけないとしても」


 私はゆっくりと息を吐いた。視線の先では、ジェリアが依然として内面を暴くような眼差しで私を見つめていた。


 しかし決断はすでに遠い昔から下されていた。私はテリアのために動き、テリアのために駆け出すという唯一の真理が。


「準備はできてる。あっちのリディアがテリアに対してどう感じようと、リディアの意志を曲げることはできないよ」


 ジェリアは静かに頷いた。


 準備はできている。残るは時を待つだけだ。


 必ずテリアに至る道を開いてみせる。

申し訳ございません。

本来は今週末の両日とも二回更新する予定でしたが、突然の健康上の問題により、両日とも二回の更新ができませんでした。

来週は個人的に休暇が多いので、来週できる限り埋め合わせをしたいと思います。


読んでくださってありがとうございます!

面白かった! とか、これからも楽しみ! とお考えでしたら!

一個だけでもいいから、☆とブックマークをくだされば嬉しいです! 力になります!

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