『光』の戦場
あたしは剣を抜かなかった。あえて抜く必要がなかった。まだは。
この戦場であたしが守るべきものは時間ではなく、条件。
現実的にあたし一人の力だけで勝利することは不可能だ。そしてアルカが儀式を完了するまでの時間稼ぎという点では時間のための戦いということも間違いではなかった。
しかし最も重要なのは、たった一人でもあたしの阻止線を越えさせないこと。
守るべきものはアルカではなく、アルカが行っている召喚儀式。一人くらい行かせてもアルカ自身がひどい目に合うことはないだろうけれど、彼女の儀式は破綻してしまう。
だからあたしがここに立っている。ただ耐えるための戦いではなく、残りの五大神のうち一人も行かせないために。
五大神の一角、『光』の名を背負う者――『全能なる光の神』というあたし、シエラ・マイティ・オステノヴァの神としての名が虚しくならないよう、あたしに可能なすべてを動員してこの線を守り抜かねばならない。
そう決意を固めながら、時空を超えて接近する神々の気配を監視していたしばし。ついに彼らの姿が見えた。
かつては並び立った仲間たち。しかし今は互いに正反対の目標を追求する敵だ。
『境界』、『鍛冶』、『幻惑』。
先に動いたのは『境界』だった。
彼はさっき戦った時のダメージなど少しも見せない無傷の姿だった。いや、むしろ世界のバックアップが凝縮されたかのようにさらに雄大な威圧感と濃い魔力を放っていた。
しかし気迫あふれる外見とは裏腹に、彼の動きはいつも慎重だった。
いつも結界で戦場を掌握することから始めるのが彼のスタイル。自分を中心に空間を固定し、その構造に好みの法則を操作して重ねる。
結界は幾重もの薄い板のように重なって広がり、敵対者を籠の中の鳥のように閉じ込めると同時に自分と味方に勝利への道を開く。
五人の勇者として常に我々の先鋒を開いた彼の〝道〟。さっきはあたしと一対一で戦ったけれど、本来は仲間と共に戦場を支配することこそが彼の本質だ。
その本質が、今や敵としてあたしに向けられていた。
【汝はいつも人の感情と幸せに敏感だった。それは一つの美徳である。されど、それゆえに己の役割と本質さえ背けるのが正しき選択なのか? 昔の汝は私情がより大きな害悪に変質することを誰よりも警戒しておったはずだが】
彼の声に裏切られた感情が滲み出ているのは、それだけ彼もあたしたちが仲間だった時代を大切に思っているということだろう。
でもそんな感情があるからといって、この戦場をおろそかにする奴ではない。
この場であたしはすでに元仲間たちの敵。あたしがどの方向にどう動こうと、まるで水の中で動くように鈍い抵抗があたしを抑制した。神さえも鈍い感じを受けるほどだから、実際にあたしに注がれている圧迫は途方もないレベルだろう。
もちろんそれくらいで引き下がるあたしではない。
【逆にあたしが聞きたいわ。あなたこそいつから形式的な規律に執着して人を踏みつけるバカになったの? 昔のあなたはむしろ人の幸せを害する無用な慣習を嫌悪していたはずよ?】
あたしたちがちょうど五大神に選ばれた時を覚えている。
力を合わせて数多くの人々を救い、我々の国を建てて未来永劫民を守護しようとした誓い。人間としての自分を捨て五大神の精髄を受け入れて昇天するその瞬間まで、あたしたちの情熱と理想は衰えなかった。むしろ五大神となることで、人間という限界を超えてより多くのことを成し遂げられるという期待さえあった。
でも今のあたしたちはあの時とは違う。互いに異なる方向とはいえ、あまりにも。しかし一つ確かなことは……あの時の『境界』は今のように硬くて融通の利かない枠の中に自分を閉じ込めていなかったということだ。
一方『幻惑』は静かだった。
茶色の髪と瞳を持つ青年の姿。しかしそれ以外のすべての色が漆黒だった。蒼白い肌さえ覆面の上に現れた目の周り以外はしっかりと隠されており、翻る衣の裾は深い夜そのもののように神秘的だった。そしてその外見に似合って口からは一言も発しなかった。
しかし彼は決して静かな者ではない。ただ言葉の代わりに行動で自分の意思を表すだけ。
彼の魔力が瞬時に広がり、実体を持つ幻影が一つ二つと現れた。一つ一つがあたしの姿を取ったまま。外見も、表情も、さらには感情の微妙な揺らぎまであたしをそのまま真似た幻影たちだった。
この程度であたしの判断力を乱せるとは思っていないだろうが、まるで鏡像を通してあたしを批判しようとするかのような術式。『幻惑』なりの非難と嘲笑が込められた行動だった。
その数多くの〝あたし〟を通して問う。あたしがそれほど長い間守ってきた信念は本物なのか、それともまた別の幻想に過ぎないのか。今世界の秩序を無視しようとする者を助けるあたしの決断は本当に正しいのか。一介の少女たちを救うために世界を裏切る価値があるのか。
彼の隣で『鍛冶』は剣を抜いた。
純白に近い銀髪と海のような青い目を持つ彼女は元々味方には美しい聖女のような存在だ。しかし敵には悪魔よりも容赦ない戦士でもある。
その戦士の姿が戦場を再構築し始めた。
『境界』が結界を通じて戦場の法則と環境自体を制御するなら、『鍛冶』は魔力で作り出した数多くの兵器を通じて戦場の状況と戦術を制御する。
長年の仲間だからこそ、作られている途中の姿だけでも意図が読めた。
【へえ。絶対にあたしを突破するってわけかしら】
まるでパズルのように戦場全体を覆う兵器の軍勢。数多くの銃と弓の射線があたしの周囲を包囲し、剣と槍がまるで錐のような陣形を取ったまま『鍛冶』の命令を待つかのように待機していた。あたしを押さえつける間に一点突破をするという意図が丸見えだった。
しかしそんな戦術的な意図よりも際立つのは彼女の信念。世界の秩序、それだけが唯一の真理だと信じる確信。真っ直ぐな形状と魔力がただ一つの意志だけを貫徹するための刃として鍛えられていた。
彼ら三人の態度と表現は違っていたけど、目には一つの共通した感情が宿っていた。厳正な役割に背を向けたあたしに向けた裏切り者としての非難が。
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