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一方的な攻防

「面白い意見ですわね」


「おや、オステノヴァ公女じゃないですか」


「どうせならテリア公女と呼んでくれますの? この会場には私の妹も参加中ですので」


 私が割り込むことを予想したのか、それともただ本音を隠しているのか、ディオスは動揺せずに素直に返した。それでも生臭い笑みを浮かべた口とは異なり、その目には微妙な警戒心がやどったことを逃さなかった。


「よく聞きましたわ。なかなか興味深い話でしたわね。こういう場所に合うスパイスですわよ」


「ハハ、これが単なるスパイスかどうかは人が判断してくれるはずです」


「アカデミーにいてもいない人たちがきちんと判断できるでしょうか? まぁ、敗者がどんな小説を書きながらクスクスとしても私の知ったことではありませんが、それが外に広がって私の大切な友人の名誉まで汚されるのは不愉快ですわね。そういう意味で、私が直接正しい情報を差し上げようと思いますの」


「ほう、小説ということですか。こういう時はファクトという言葉がもっとよく似合うんじゃないですか?」


「フフッ、冗談も。個人の頭から出た妄想をファクトとは呼びませんよ」


 私たち二人とも顔は笑っていたけれど、内心は全く笑っていなかった。視線が絡み合って火花のようなものが飛ぶ感じさえする。


「妄想とは、とんでもありません。明らかな事実に基づいた合理的な……」


「前提となる〝事実〟が歪曲されているのに結論が正しいはずがありませんでしょう」


 ディオスの言葉を切った私は、自慢するように手を上げて指折りを始めた。さっきドロイがそうしたように。


「まず一つ。私が高位貴族たちを抱き込んで派閥を作っていると言いましたわね? まぁ、どういうわけか高位貴族家出身たちと親交ができたことを否定しません。しかし、何人かの例外を除けば、私が親しい人々はむしろ平民や男爵のような下位階層にもっと多いですわよ。単純に数で言うと、恐らく伯爵以上の十倍ぐらいでしょう」


「論点ずらしです。下位階層が多いからといって派閥でないのは……」


「そもそも派閥遊びなんかもしません。私と親しくても、そうでなくても、私はみんな同じように接していますから。むしろ自分の人ではない人たちを排斥して排他的な勢力を作ったのは貴方でしょう。伯爵以上の貴族の子たちを多数帯同し、下位階層の子たちに暴力を振るい、時には重要なことを妨害したりもしましたわね。証拠まで並べてみましょうか?」


「くっ……だが修練騎士団では……」


「何か勘違いされたようですが、私はそもそも指揮自体をしたことがありません。もちろんこっそり命令を出したりしたこともありませんよ。私はただ修練騎士団の一員としていくつかの提案をしただけで、ただ上層部でその提案を検討した後に受け入れただけですわよ。その時も私は指示に従うだけでしたの。もし私の提案通り修練騎士団が動いたことを問題にしたいのなら、議事録全体を提供することもできますの」


 今の私の論理も特に完璧ではない。むしろ反論しようとするなら、いくらでも可能な穴だらけの論理に過ぎない。もちろん、これより完璧な反論を準備することはできる。でもその必要性を感じなかった。そもそもディオスからが詳しい論理で武装したわけじゃないから。


 しかもディオスには意見をきちんと補充する参謀もいない。彼個人にはこの程度だけでも十分だ。たとえ反論を出したとしても、ディオスの頭から出る反論などは私の敵ではない。


 実際、ディオスは私の言葉にまともに反論できず、唇だけを噛んでいた。いくらディオスが自分の分際を知らなくても、オステノヴァを相手に言葉の力で勝てるとは思わないだろう。


 もし本当に分際を知らずに飛びかかるなら、その時は本当にまともな理論戦で圧倒すればいいだけだし。


「そしてリディアについてですが、根本的なことを一つ勘違いされたようですわね。そもそも私が三年前にリディアを助けたのは、貴方がひどい人間だからでしたわよ。私はオステノヴァとしてアルケンノヴァに介入するためではなく、テリアという人間としてリディアという人間を救いたかっただけなんですわよ。良心があれば、そこに傀儡とか何とかしゃべってはいけませんでしょう」


「とんでもないですね。僕はただ家族として愚かな妹に責任を持って教えただけです。僕たちの家事に勝手に割り込んだのは貴方です。そもそも欲があったから割り込んだのではないですか」


 私は言葉で答える代わりに、円盤のような魔道具を一つ取り出した。


『転移』の魔力が宿って物体を瞬間移動させることができる魔道具だ。移動させることができる物の大きさと質量は制限が激しいけれど、今は小さい物を運ぶので構わない。設定は召喚で。


 一瞬の魔力光と共に品物が送られてきた。何かが壊れた破片だった。時間がかなり経って少し色あせたけれど、かなり管理がよくできたおかげで原型を見知るには問題ない。


 それを見たディオスの表情は少し固まった。


「何かわかりますの? 貴方が三年前の決闘のために準備した魔道具の残骸ですの。一つはリディアが破壊したし、一つは発動する前に私が破壊しましたわよ。覚えていないと言い逃れするつもりはないでしょうね」


 私はわざと破片を高く持ち上げた。人に見られるように。


 参加者たちはほとんどその破片がどこから出てきたのか分からず戸惑ったけれど、騎士団長など戦闘と関連した者や魔道具開発と関連した者は鋭い眼差しになった。どちらもタイプは違っても外部の力で自分を強化するということは同じだし、決闘で使われる道具ではないから。


「貴方は長い間リディアを苦しめ抑圧していましたわね。そんなくせに決闘では自分の力だけでは勝てなさそうなので、外部の力を借りる道具を使って勝とうとしました。卑怯じゃないですの?」


「リディアは貴方の助けを受けたでしょう? 外部の力に頼ったのは同じです」


「全然違いますわよ。私はただ修練を手伝っただけで、決闘で勝ったのは純粋にリディア自身の実力に過ぎません。それに貴方が使っていた魔道具強化器を決闘場の中から狙撃して破壊したのもリディア自身でしたの。決闘で私が関与したのは、人の魔力を借りる魔道具を遮断してあげたことだけですわよ。友達として修練を手伝ってくれたことと外部の力を使う魔道具、どちらがもっと卑怯なのかは言うまでもありません」


「ッ俺は……!」


 ディオスは歯を食いしばるだけで反論できなかった。


 とにかくあっけない男だわね。もし反論すれば、逆に打ち出そうと後続を考えたのがもったいない。まぁ、そんな奴って三年前から知ってはいたけどね。


 そろそろ仕上げの番だね。


「そしてしきりに私をアルケンノヴァと結ばないでくれませんか? 私はアルケンノヴァの権力などには関心がありません」


「は、口では何でも……」


「そもそも」


 やっと口を開いたディオスの言葉を容赦なく切り、ディオスの顔に手を伸ばした。そして突然の行動に少し戸惑ったようなディオスを無視して、私と同じ銀色の髪の毛を手で撫でた。他の手では私の髪の毛の先を掴んで持ち上げながら。


 白髪に近い銀髪、この色が意味するのはこの場にいるみんなが知っている。


「アルケンノヴァを掌握したいなら、そんな煩わしい方法よりもはるかに良い手段がありますよ。そう思いませんか、いとこのお兄様(・・・・・・・)?」


「……!」


 有力者はみんな知っている。私の母上が現アルケンノヴァ公爵の一人だけの妹だということを。


 もちろん、母上はオステノヴァに嫁いだ立場であり、私もオステノヴァの名前を受け継いだ。アルケンノヴァの後継者が全員死んでなくならない限り、私がアルケンノヴァに権利を行使することはできない。


 そう、()()()()()()()()()()()()()ね。


 もちろん、アルケンノヴァ公爵が健在だから、そのようなことはできない。たとえできるとしてもやるつもりもないし。


 しかし、オステノヴァ公爵家は情報戦と陰謀に最も特化した公爵家。実際には不可能だとしても、人はそれが可能だと考えるほどの名声はある。そして、そのようなイメージを緩和するどころか、むしろ利用するのが我が家のスタイルだ。


 むしろそのような可能性があるため、根拠のない憶測を遮断するためにも母上や私たち姉妹がアルケンノヴァ公爵との関係に一線を引いているほどだ。


 まぁ、そもそもやるつもりがあっても難しいけどね。実際にそんな残酷なことをしたら、他の貴族や王家もじっとしているはずがない。証拠を残さず強行する方法はあるけれど、だからといって人の認識まで操ることはできないから。


 今すぐはごまかすことができるとしても、今後の行動に制約が生じれば本末転倒だ。しかも、あえてアルケンノヴァ公爵家をそのような方法で手に入れなきゃならないほどの理由もないし。


 ただ、そのような暗躍も可能だという認識を利用するならば、ディオスが言う中途半端な陰謀などはあえて具体的に反論する必要さえない。そんなにあっけない(・・・・・)方法なんて使うわけがないから。


 ディオスがどこまで理解しているかは分からない。少なくともこの中の一部は十分に知っているだろう。だんだん死色になっていく表情だけ見ても分かる。


「行こう、リディア」


 もう相手にする価値もないと判断し、私はリディアの手を握ってその場を離れた。


 雰囲気のせいか誰も私たちに話しかけない中、私に手をつないで歩いていたリディアが小さな声で言った。


「……ごめんね、テリア」

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