神座の殺し合い
五人の人がいた。
共通点など微塵もない個性的な集団。だが互いの絆は強固だった。目の前に無数の難関があったが、その全てを各々の力と絆で乗り越えていく姿はまるで子供向けの童話のようだった。
最初はその集団が誰なのか分からなかったが……よく見ると一人は服装とスタイルが少し違うだけの始祖フィリスノヴァだ。そしてかの者らの旅を見ると……これは五人の勇者が人間だった時のことか。
その中でも始祖フィリスノヴァの視点が多かった。五人の勇者として共にいる時はもちろんのこと、一人で経験したことも多かった。嬉しいこと、悲しいこと、その他諸々のことなど。
どうやらこれは始祖の記憶のようだな。
激しく魔力を混ぜ合わせたせいで記憶まで混ざってしまったようだ。非常に珍しいことではあるが、別に不可能なことではない。ボクも人間だった頃に一度だけ経験したことがある。
【ふん】
荒々しく手を振り回して魔力ごと記憶を振り払った。
始祖がどんな者だったかを少し垣間見ることができたが、正直無駄だ。今の目的や戦いとは何の関係もない。
ただ先ほど始祖が言ったことが嘘ではないということは分かったな。
【意外と家庭的だったのだな】
【オレの腹を痛めて産んだガキどもだ。愛さずにはいられねぇよ】
【ああ。そういえば産むときはよくもそんなに弱音を吐いたものだな。始祖の弱点が産みの苦しみとは、面白い見世物だったぞ】
挑発というよりは正直な感想を言っただけなのに、思いのほか始祖には自尊心を傷つける部分だったようだ。
【なんだとコラァ!? おい、お前はオレの子孫なんだろうが。つまりオレが腹を痛めて子を産まなきゃお前は生まれもしなかったんだぞ、この老嬢め!】
【……レベルが低く幼稚すぎて何と反論すべきか分からぬが】
結婚はおろか男性経験一度もなく神になってしまったのだから老嬢というのも間違いではない。元々恋愛や男性に興味がなかったボクだからそのことに特に傷つくわけでもないが。
しかし……そうか。考えてみれば始祖フィリスノヴァは女性で、直系の子孫がいるということは当然直接子供を産んだということになる。我が家の性向もそうだし、伝説や記録として伝わる面もほとんど脳筋戦闘狂のそれだけだったので考えたことがなかったが……あの始祖も誰かの母親だったということか。
ちらりと垣間見た記憶の中の始祖は不器用ながらも家族には真摯だった。それだけでなく五人の勇者にも態度が荒っぽいだけで常に親しげだったのを見ると、元々近しい人には優しく接する性格なのだろう。
そんな始祖だからこそ、長女を病気で早くに失ってしまった後はより一層家族を大切にするようになった。
その過去を垣間見たからこそ――怒りが込み上げてきた。
【始祖よ。貴様にとって大切なのは自分の家族だけか? 他人がどんな苦しみを味わい、どんな悲劇の中でもがき苦しんでいるかなど知ったことではないというのか?】
始祖は口を閉ざした。
魔力を通じた記憶の交換は相互作用。ボクが始祖の記憶を垣間見たように、始祖もまたボクの記憶を見たはずだ。
始祖が本当にバカだっただけならボクの言葉の意味を理解できなかっただろうが、やはりそこまでではなかった。
【……それっては謝るしかねぇな。まぁ、どうせあれこれ言葉だけ並べたところで空っぽな響きにしかならねぇだろ? オレらの間にそんなもんは要らねぇ】
始祖は巨大な炎と竜の剣を構えてボクを狙った。
【まずはこい。勝とうが負けようが先に力の証明ってもんだ】
【そうだな、それがフィリスノヴァらしい】
否定はせぬ。むしろボクとしても拒むどころか歓迎すべきことだ。
始祖についてあれこれ言ったが、ボクもまたフィリスノヴァの血を継ぐ者なのだから。
――ジェリア式狂竜剣流神座奥義〈深淵の一剣〉
殺意を超え、存在の根源まで消滅させる覚悟で一撃を放つ。
今まで神の領域に達した破壊力を撒き散らし続けてきたが、真に神の権能を込めた一撃はこれが最初だ。
始祖は獰猛に歯を剥き出しにして剣を握り直した。
――リベスティア式狂竜剣流神座奥義〈太初の一光〉
始祖の『暴竜剣』を包んだ炎が凝縮された。
思想と過程は違ったが、到達点だけは同じだった。全ての力を剣一振りに集中し、神の権能まで加えた至高の一撃。対策なく解放すれば文字通り世界を滅ぼしても不思議ではない力を、ただ一つの相手を粉砕するためだけに放つ。
剣と剣が激突するや否や強烈な衝撃が手に伝わった。
【くっ……!】
【うおおっ!】
魔力と衝撃波はあまり広がらなかった。徹底的に相手に注ぎ込むために魔力が制御されていたことに加え、ボクの権能が拡散を阻止していた。
ぶつかってみて分かったが、始祖の権能は拡散に関連した何か。恐らく制限のない無限の拡散や絶対的な前進、あるいはそれに類するものだろう。
一方でボクの権能である『深淵化』は全てを停止させる。時間も空間も、物質界を超越した上位次元の思想や概念さえも、全てを現在という一瞬に剥製にして未来を奪うのだ。
そんなボクの権能さえ打ち破り、少しずつではあるが侵入を試みている始祖の力は驚異的だったが……敗北を考えるほどではなかった。
【ぬあああっ!】
さらに力で押し切って始祖の剣を押し返した。
始祖の顔から初めて余裕が消え焦りが露わになった。演技ではない。力の勝負で押し負けているのを覆せないということを、誰よりも始祖自身が一番よく分かっているのだ。
そうして力で押し切った末に――ボクの剣が始祖の胴体を斬り裂いた。
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