フィリスノヴァの始まりと終わり
【ふん。単純で戦いしか知らぬ始祖にそのような感傷的な面があるとは思わなかったぞ】
どうでもいい部分だが、驚いたのは事実だ。意外とロマンチストだったな。
もちろん、そんな感情論の面でも負けるつもりはない。
【だが勘違いするな。ボクがあやつに名前をつけなかったのは、そのような取るに足らない理由ではない】
ボクがそう宣言した瞬間だった。
ボクの豪気な宣言を証明するかのように響き渡る咆哮と魔力。引き裂かれた鱗がここまで飛び散り、真っ黒な竜が地上へ向かって墜落した。
ボクの神獣にもかなり大きな傷が残っていたが、一時的にせよ始祖の神獣を撃退したのだ。
しかしこれは一時的に無力化しただけだ。神獣を完全に仕留めたわけではない。だからこそ今この瞬間を隙として活用しないと。
「バオオオオオオ――!!」
氷の竜が傷だらけの体を引きずって始祖に突っ込んでいった。その体を修復する魔力まですべて大きく開いた口に集まった。
口から発射されたのは単純だが強力な破壊力が集約された魔力砲。
始祖の剣が魔力砲を斬り裂く瞬間に突進した。魔力砲を防御する隙を狙うだけでなく、一度切られて散らばった魔力を『冬天覇剣』に集約してより大きな一撃を準備するためだった。
体を真っ二つにする一剣。始祖がそれを受け止めた。込められた力の差が始祖を押し戻したがそれで終わり。ダメージを与えるどころか、防御した『爆竜剣』に一抹の損傷も生じなかった。
もちろんたかがこの程度で通用するという甘い期待なんて初めからしていなかった。
――ジェリア式神獣制御術〈竜我一体〉
続けて剣を振るって攻勢を維持しながら、神獣の力と存在をボクの体に収め入れた。額に生えた角から氷が成長してさらに角が長くなり、全身の皮膚から氷の鱗が生えた。それだけでなく背中に並んだ氷の破片の群れが翼と尻尾の形状を模倣した。
神獣の力をボク自身の力と融合させて纏うことの発展形。神獣そのものと一つになり、その力を完全にボクのものにする。
始祖の神獣と戦って満身創痍になっても構わぬ。体がどれだけ壊れても神獣そのものの存在と格は損なわれないのだから。
一気に高まった力で始祖をさらに追い詰めた。始祖はすべての攻撃を剣術で防ぎ、流し、打ち返したが、神体が少しずつ削られていた。
【神獣はボクのもう一つの姿に過ぎぬ。神獣がすなわちボクであり、一つの魂を表現する別の形にすぎぬ。信頼や愛情など必要ない。ボク自身の力を疑う必要などない。ボク自身の勝利など当然のことだ】
【ほう。面白ぇ観点だな】
神獣に対する自身の信念をぶつけていくボクの前で、始祖がふと歯を見せて笑った。
その口の周りに焼け残った鱗が生えていた。
――リベスティア式神獣制御術〈娘霊守護〉
始祖の体からさらに熱い炎が噴き出した。
その炎のあちこちに混ざっているのは焼け残った鱗。炎と鱗は『爆竜剣』も同じように包んでおり、特に『爆竜剣』の方は巨大な鱗と炎が調和してまるで巨人の剣のような巨大な形状を作り出していた。
ボクと似たように神獣の力と一体化を成した形態だったが、ボクとは少し違っていた。
ボクは神獣の力と完全に融合してボク自身の力を増幅した形態。しかし始祖は神獣と完全な一体化を成したというより、受け入れた一部を媒介に神獣の保護とサポートを受けているような感じだった。
もちろん違うのは形態だけ。非常に強力になったという単純明快な事実だけは同じだった。
お互い同時に剣を連続して振るう。しばらくボクの優勢だったのが再び変わって対等な剣戟が続いた。
そんな中、始祖の声がゆっくりと響いた。
【オレとアインズバリーはお前らとは違うんだよ。自らの魂から神獣を分岐させたお前らは再び一つに戻れるだろうが、アインズバリーは後天的にオレの一部として受け入れたもんだからな】
神獣の力まで加えた神の力同士の衝突。力の大きさだけ考えれば今までと同じく互角だった。
しかしその力の流れ、力の動きが微妙に違っていた。
ボクは文字通りボク自身の力が増幅されたもの。すべてはボクが直接扱う。
一方で始祖は力が増幅されたのみならず、神獣の力の一部が始祖とは別個の動きを取っていた。まるで神獣の意志が始祖を守るかのように。
神獣の意志はこちらにも存在するが、始祖のものはより明確で独立的だった。
【記録を残さなかったから子孫たちも知らねぇだろうが、アインズバリーはオレの長女なんだよ。珍しい病にかかった娘を助けようとしたりゃ、気がつけばこうなっちまったんだ】
始祖を取り巻く炎と鱗の一部が動き、大きな手の形状を取った。
その手は始祖の剣とはまったく異なる軌道で動きながらボクを狙った。
【娘の死を防ぐために魂を自身に帰属させたのか。美しい母性愛だな。ボクもそういうのは好きだが――】
剣で始祖の剣を受け止めながら、左手で火竜の手を掴んだ。そして存在に干渉して炎そのものを掴み裂いた。
【敵の事情に感動の涙を流すにはボクの感性が乾き過ぎておってな】
引き裂かれた炎の手を握力で押しつぶした。
炎を押しつぶした拳をそのまま突き出した。氷の鱗が生えた拳を焼け残った鱗と炎の手が重なった始祖の手が受け止めた。
力と力がさらに強く混ざり合い――瞬間、目の前に見慣れない光景が広がった。
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