神獣と神獣
――狂竜剣流〈一縦〉
繰り出すのは偶然にも同じ技。狂竜剣流の最も基本的な縦斬り。
今のボクたちには牽制すらできない挨拶レベルの一撃。それでも神の力で繰り出す一撃同士の衝突が侵食技を引き裂いた。一瞬で再び修復できるほどの損傷に過ぎなかったが。
互いに変わったのはその一撃の次にて準備した行動だった。
――ジェリア式狂竜剣流『冬天世界』専用技〈暴君の命令〉
――リベスティア式狂竜剣流『獄炎世界』専用技〈獄門破り〉
衝突の余波で広がったボクの魔力が〈冬天世界〉に溶け込んだ。それを媒介にして世界全体の魔力を津波のように始祖へと注ぎ込んだ。
一方で始祖は自身の前方へ向けて剣を大きく振るった。その剣から噴き出ていた魔力が一瞬空間に刻まれたと思った瞬間、まるで堤防が決壊して水があふれ出すように獄炎の怒濤が噴き出した。
雪崩のように注ぎ込む魔力が獄炎の波を消し、新たに噴き出した獄炎の波が冬の魔力を消し去る。その攻防を繰り返した末に先に穴が開いたのはボクの魔力の方。しかし突破された部分以外のあらゆる方向から冬の魔力が始祖に襲いかかった。
【まだぬるいぞ!】
左手で獄炎を払い落とす。始祖は拳で砕くように冬の波を吹き飛ばした。
始祖の拳には小さいが確かな亀裂が入り、ボクの左手には払い落としたと思っていた獄炎が移り付いた。
【破壊の概念を無条件に実現する権能かよ。オレの末裔なんだがなかなか厄介な能力を発現しやがったな】
【そう言う貴様は決して消えぬ無限の火か。侵食技の法則発現にしては随分と地味だな】
言葉ではそう卑下したが、油断できる能力ではなかった。
魂さえも焼き尽くす獄炎が神の境地に至って極に達すれば神すら焼き尽くす究極の火となる。その火が決して消えずに燃え続けるということはボクにも大きな脅威だ。
【ふん】
ボクの法則発現〈暴君の座〉の力で獄炎が張り付いた左手を破壊し、魔力で神体を修復した。
【消えねぇ火が移り付いた部分自体を破壊して無効化したのかよ。悪くねぇが、そんな対処を続けてりゃお前の神体が削られ続けて結局は消滅しちまうぞ】
【余計な心配だ。ボクが自滅する前に貴様を先に斬り殺してくれよう】
そう言い放つと始祖は鬼気迫る形相で笑った。
【オレの末裔にふさわしいぜ。そもそも戦いに臨む気概ってんのはそれだ!】
地獄と冬の剣が幾度となく打ち合った。
激突するたびに神の魔力が飛び散り、侵食技の世界が破壊され再生されることを繰り返した。勢いが激しすぎるあまり侵食技の復旧速度が追いつかないほどで、裂け目から外の世界にまで力の余波が広がった。
こんな状況を予想してわざと広く空っぽの宇宙空間を舞台に選んだのだが、やはりこの勢いと威力なら近くの惑星系に影響を及ぼしてしまうだろう。
まぁそうだとしてもこの周辺には生命体が生息する惑星がないので構わぬ。
破壊の乱舞が互いを食らい付こうと数え切れないほど激突する最中、『冬天世界』の力で時間を凍らせた。ほんの僅かな間だとは言え〈暴君の座〉の権能を持つボクは神の時間さえも一時停止させることができる。
もちろん斬り付けられるほどではないが姿勢を整え一撃を放つ準備程度は可能だ。
力を一点に集中した突きで始祖の心臓を狙った。半霊体である神に物理的な心臓の位置など意味がないとは言えど、純粋に神体の中心部を貫くだけでも意味がある。
【おっと! 危ねぇぞ!】
始祖は手首だけで剣を振るって突きを受け流した。
物理的な姿勢の不利など神の魔力があれば意味がない。しかしほんの僅かな隙が生まれるのを防ぐことはできなかった。
――『冬天世界』専用技〈神獣召喚〉・『リベスティア・アインズバリー』
始祖の下から飛び出した氷の竜が始祖を飲み込んだ。
眼球一つでさえボクの身長の何倍もあるほど巨大な神獣の竜。その力は神々の戦いでも歯が立つほど強力だ。それをこの瞬間の奇襲のために温存していた。
しかしその瞬間、神獣の口の中から地獄よりも熱い魔力が膨れ上がるのが感じられた。
そして爆発。
氷でできた神獣の体の半分が跡形もなく吹き飛ぶほどの魔力が膨張し、獄炎を纏った始祖が再び姿を現した。
もちろんボクの魔力でできた神獣に死の概念はない。一瞬で復活して再び始祖に襲いかかった。ボク自身もまた神獣の突進に合わせて剣を振るった。
その瞬間始祖は満足げに笑った。
【なかなかやるじゃねぇか。こいつをここまで扱いこなすとはな】
――フィリスノヴァ真・神獣降臨『アインズバリー』
始祖の炎の中からもう一匹の竜が生まれた。
それはボクの神獣と同じ大きさの神獣だった。氷でできたボクのアインズバリーとは違い、その竜は真っ黒に焦げた鱗に残り火が所々残っている姿だった。
翼と牙から地獄の炎を吐き出す竜がボクの竜の首を噛んで遠くへ飛んでいった。
【ペットはペット同士で戦わせとけよ】
始祖はそう宣言して再び剣を振るった。ボクと始祖は再び剣を合わせて破壊を撒き散らした。
その最中に始祖が楽しげな声で言った。
【正直驚いたぜ。オレの末裔どもには始祖武装と同じくオレの神獣アインズバリーの欠片が宿ってんだが、その欠片を成長させてオレのアインズバリーと同等のレベルの神獣として再誕させたのはお前が唯一だろうよ】
【同等だと? 思い上がりが甚だしいな。ボクの竜が貴様の竜を噛み砕いてくれようぞ】
【主から固有の名すら与えられねぇ奴がオレのアインズバリーに勝てると思ってんのか?】
始祖は意外な箇所で咎めるような口調になった。
【オレが単純無知な馬鹿だって自覚はあるが、それでもオレのペットに愛情を注ぐことくらいは心得てるぜ。ところが末裔どもときたら、誠意もなく始祖たるオレの名を取って『リベスティア・アインズバリー』なんて適当な名前を付けただけで放置しやがるんだ。それじゃあ神獣が力を発揮できるはずがねぇだろうよ】
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