神と神の衝突
こんな〝人間らしい〟怒りを感じるのはどれほど久しぶりだろうか。
神座に上り五大神がどんな存在なのか、何ができて何が不可能なのかをより明確に知るようになった。だからこそ奴らの情けなさと無能さに歯ぎしりするのだ。
【貴様らはバリジタを止められなかったのではない。止めなかったのだ。奴がこの世界で何をしようと、貴様らの大乗的な事には何の影響もないという理由でな】
感情を言葉とともに剣撃に込めて思い切り振り払った。
莫大な魔力を得ること。バリジタの目的を端的に言えばそれだけだ。
正確には集めた魔力を利用して何かをしようとしているようだが、そこまでは分からない。重要なのは奴がこの世界だけでなく他の多くの世界にもその目的のためだけに害を及ぼしているということだ。
まぁ、それはどうでもいい。どうせ奴が何をしているかは十分承知していたのだから。問題は五大神にそれを止める意志がないということだ。
五大神が管轄するのはこの小さな惑星一つなどではない。数多の世界というのは一つ一つが全て一つの巨大な宇宙を包括する概念。この広大な宇宙でたかが一つの惑星を破滅に追いやろうが、世界全体から見れば羽毛ほどの影響力もない。
実際にはこの世界の中でも数多くの惑星で暴れ回っている実情だが、それでも世界の立場からすれば塵よりも小さな単位の出来事に過ぎない。
【誤解があるみてぇだな。オレらだって故郷の惑星がこんなザマになっていくのを見るのが楽しいわけじゃねぇぞ】
【分かっていながら放置している癖に言い訳ばかりだな】
斬撃も言葉も、互いを決して受け入れず、ただ激しく振り払うだけ。
五大神の役割は世界の調和と安定を維持すること。そういう点でバリジタの蛮行は人間には絶望と悲劇だらけだとしても、五大神が乗り出すには世界に及ぼす影響力が足りなかった。
とはいえ、それは乗り出さない理由にはならない。
バリジタは紛れもなく外から来た外神であり、その神が世界に悪影響を及ぼしている。世界を守護すべき五大神がそれを放置してもいい理由などない。しかも他に介入できない理由もなかった。
一言で言えば、五大神は義務ではないという理由でただ見物しただけなのだ。
【そんな癖に貴様らは今更ボクらを止めようとしているではないか!】
咆哮しながら剣を強く振り上げた。
神である我々が本気で力を出せばこの惑星どころか惑星系さえ持ちこたえられない。だからこそひたすら目の前の始祖にだけ力を集中させた。
もちろん奴は剣で簡単に防いだ。
【――飛べ!】
剣と剣が激突する瞬間、込めていた全ての魔力を一度に放出した。
この程度の攻撃など何のダメージにもならない。しかし奴を遠くへ吹き飛ばすには十分な一撃だった。まさに宇宙の彼方まで送り届けるほどには。
一瞬でこの惑星から消えた奴を追って、ボクも全力で飛翔した。
始祖が飛んでいった先は空を超え、惑星系さえ超えた宇宙空間のどこかだった。
【戦場を移してくれて感謝するぜ。故郷で力を使うってどうにも気が引けたからな】
始祖はわざわざボクが目の前に現れるまで大人しく待っていたかと思えば、ボクが到着するやいなやそう言った。
ボクへの迎撃のための準備などするとは思わなかった。ありとあらゆる童話や歴史書で語られる始祖の性格も、子孫であるフィリスノヴァ公爵家の家風も。そんなケチな戦略戦術とは縁がないものだったから。
全力で挑んでくる相手に全力で立ち向かって戦い、力を全て出し尽くした末に勝利を収める。そんな好戦的な面こそ始祖以来一度も色あせないフィリスノヴァの根本だから。
ボクはボクの基準ではフィリスノヴァの最後の後継者であり、相手は始祖。奇妙にも血統の両端に立つ我々が、戦いに関してだけは同じ心構えで互いに対峙した。
始祖は間違いなくボクが全力でぶつかってくると思っただろうし、ボクは始祖がそうすると思いながら最初から全力を出す。相談など一切せずとも合意したかのように、我々は同時に力を展開した。
――『冬天世界』侵食技〈冬天世界〉
――『獄炎世界』侵食技〈獄炎世界〉
宇宙空間が一変した。
半分は雪と氷だけが天地万物を成す極寒の世界。半分は空気の粒子一つまで燃え上がる獄炎の世界。二つの侵食技が一寸の譲歩もなくぶつかり合いながら互いを押し返した。
【神座に登る程になりゃ、侵食技を展開するだけでも世界に大きな負担がかかるんだよ。地上でこれを繰り広げたら、それだけで大陸が砕けちまうぜ】
【別に貴様のためではない。全力で貴様を叩き潰すために必要だっただけだ】
全力を出せるかどうかの条件は五十歩百歩。
ならば窮屈に戦うくらいなら、互いに全力を出せる環境で堂々と叩きのめす。フィリスノヴァとして当然の姿勢だ。
戦いの理由などどうでもいい。始祖はアルカを阻むのが目的で、ボクはそんな始祖を阻むのが目的。もはや説得など通じる立場でもないうえに――そんなのは互いに趣味ではない。
【行くぞ!!】
少しでも遅れれば負けそうだと同時に咆哮しながら、ボクと始祖が同時に剣を振るった。
激突。
神として真の力を現した一撃同士がぶつかり、それだけで侵食技が割れ、宇宙空間が露わになった。
神の座に上った者の侵食技ともなれば、個人だけの小さな世界などではない。それはもはやもう一つの宇宙を展開したのと変わらないが、神と神の衝突はその世界さえ一撃で引き裂くほどだった。
この力を元の世界でぶつければそれだけで世界が壊れてしまうだろうが、ここは侵食技の中。世界が壊れても自らの力で修復しながら戦える。
それはつまり互いに一歩も引く気がないということ。
相手を否定し砕くためだけの全力の剣撃が互いに向かって突進した。
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