決意と進展
言葉の内容は理解した。
結局『私』と一つになることで、私が『私』の存在を引き継ぐということだろう。
だとすれば、こいつが躊躇っていたのは……。
「あんたが消えることを心配したの?」
【その逆よ。私があんたに吸収されたとしても、私の自我と存在が消滅するわけじゃないよ。あんたと私、二人の自我と記憶が一つに混ざり合う。でもあんたと私は積み重ねてきた歳月があまりにも違う。そうなれば十中八九、あんたが私に染まってしまう形になるんだよ】
意外な言葉だった。これだけ聞くと、まるで……私を心配してくれているように聞こえたから。
でも別に驚くことじゃなかった。
考えてみれば、こいつは表面上は私を嫌っているように振る舞っていたけれど、実際はいつも私を助けてくれていただけだった。もちろん根本的な目的はお姉様を救うためだったけど、ただそれだけのためなら他の方法もいくらでもあっただろう。例えば私を完全に操ることだって可能だったはずだ。
もちろん本意を正確に知ることはできない。『私』の行動のどこまでが善意なのかはわからない。でも……こいつも元々は私だった存在。だからか、少しわかるような気がした。
何度繰り返しても望むものを手に入れられなかったアルカ・マイティ・オステノヴァ。そんな生でようやく、第三者の目で自分自身を見ることができるようになった。たとえ自分とはすでに分かれてしまったとしても『アルカ』として自分の願いを叶えるのを見たかった。……そう思っていたんじゃないかなって思えた。
そんな気持ちと、分かれてしまったがゆえに自分と同一視できなくなったもう一人の自分。その人生と意志を奪い、自分の道具としてだけ使うことを、何よりも『私』自身が許せなかった。
「結局君もアルカということだな」
ジェリアお姉さんが言った。
おそらく私ほど『私』の本心を詳しく推し量ったわけじゃないだろう。でも『私』の言動で優先されていたのが悪意じゃないってことくらいは気づいていたはずだ。
『私』は鼻で笑ったけれども。
【言ったでしょ。私はもうアルカじゃないの。私の欲望のために世界を歪めてきた邪毒神に過ぎないよ】
「いや、そう言う時点で君はアルカだ。ただあまりにも長く傷つけられ過ぎて、自分を素直に表現できなくなっただけだ」
……ずるい。
『私』の苦しみをよく知らない私でさえ言葉を失う言葉だった。
私でさえそうだったんだから、『私』の顔が今にも泣きそうに歪むのも無理はなかった。
【……私はひどい失敗者に過ぎない。失敗に失敗を重ねた末に、私と同じだろうと見下していた人に助けを求めるだけの】
そう言って俯いてしまった『私』を、私とジェリアお姉さんはただ黙って待った。
正直焦りはした。でも急かしても意味はないだろう。それに他の誰よりも、私自身だからこそあの気持ちを壊すことはできなかった。
ついに『私』が再び顔を上げるまで十分もかかった。
【私の手を取って。そうすれば私たちは一つに戻るんだから】
『私』は私に手を差し出した。
とても断定的な口調。意見を聞く言葉じゃなかった。私なら当然するだろうという前提が含まれていた。
私が『私』の本心を推し量ったように、『私』もまた私がどんな決断を下すか既に知っているのだ。私たちは結局アルカだから。
「だがアルカだけでよいのか?」
【そんなはずないでしょう。多ければ多いほどいいよ。ちょうど人数はいるからね。もうあんたたちにもはっきりわかるでしょう?】
『凍りついた深淵の暴君』はジェリアお姉さんだった。おそらく『バルセイ』の。
『私』の他の仲間たちも『暴君』のように『バルセイ』の攻略対象者たちの特性に関連した言葉を修飾語に含んでいた。彼らが皆『バルセイ』の攻略対象者たちだってことはもはや明らかな事実だろう。
【実は今こうしているのも安定的じゃないんだ。融合が必要なもう一つの理由はお姉様のせいだよ。今も世界に穴を開けて隙間を作ったからこうして存在できているだけで、穴が塞がれちゃえば私はまた世界の外へ追い出されてしまう】
「可能なのか? 少なくとも一人はあちらで戦っているぞ」
【とにかく私が融合してこの世界に残留さえすれば、また穴を開けて残りを呼び寄せる程度は可能よ。それに五大神の方にも協力者はいるからね】
「それは『光』のこと?」
私がそう尋ねると『私』は頷いた。
【五大神の中で『光』だけ行動が違うのを見て気づいたでしょ、『光』は私の協力者だよ。それゆえにお姉様が『光』の神託だけ封じてしまったのでもあるもの】
最近の『光』の宗派の問題もお姉様の仕業だってこと? 迷惑も甚だしいね。
そう考えながら、私は『私』の手を握った。
とりあえず残りの事は後だ。私が『私』を受け入れなければ始まりもしないんだから。
【……ありがとう。そしてお願い。お姉様を救って】
『私』の姿が魔力の粒子となって散り、そのすべてが私の体に吸収された。
沸き立つ。力が、そして記憶が。『私』のすべての歳月が私に宿り、違和感なく染み込んでいくのを感じた。
『私』の精神と自我はまだ別個に存在しているけど、これからじわじわと私と混ざっていくだろう。最後には私も『私』も区別なく混ざり合い、私たちでありながらまた別のアルカになる。そんな予感がした。
でも今はそんなことどうでもいい。それほどまでに激しく怒りが燃え上がった。
『私』の記憶を受け入れたからこそ鮮明にわかった。『私』が経てきた苦痛の歳月。お姉様を救うためにもがいた痕跡。そしてそのすべてを知りながら蹴り飛ばし、自分だけのための贖罪の道へと一人旅立ってしまったお姉様の背中まで。
――この物語は
「これ以上」
目を閉じれば、瞼の裏に映るのはあまりにも誇らしいお姉様の姿。
優しくて、温和で、正義感に溢れ、皆を愛し、皆に愛されるお姉様。
バカなほど真っ直ぐで、本来覚えていなかったはずの過去の罪さえも向き合おうとする正しいお姉様。
だからこそ……自分自身だけは愛せないお姉様。
――二人の『主人公』が
「お姉様一人だけ犠牲になるなんて許さない」
口が動いた。
すでに一つになった肉体から、まだ完全に混ざり合っていない二つの魂が、一つの意志を抱いて動いた。
――『傷ついた者』を救う物語。
「お姉様を私が……私たちが救う!!」
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