神と神
バルメリア騎士の団服の中でも、各騎士団の団長であることを証明する団長服。そしてその服装にふさわしい……いや、団長など何ものでもないと言わんばかりの威厳と魔力。服自体はかなり古びていたけど、それがかえって長年月の間に積み重ねられた力と貫禄を感じさせた。
今はこちらに背を向けているため、その団長服の上にある顔は見えなかった。しかし濃い藍色の髪はジェリアお姉さんよりも少し長いだけで、スタイルは驚くほど同じだった。身長や体格も。
ゆっくりともう一つの『冬天覇剣』を大地から抜き上げるその存在に向かって、ジェリアお姉さんが鋭い口調を投げかけた。
「以前ボクがその可能性に言及した時は否定したはずだか?」
【さぁな。明らかに否定した記憶はないぞ】
邪毒神の魔力と響きが宿っていたけれど、その声はジェリアお姉さんのものだった。
振り返った顔にかけている眼鏡は違っていて、額の角はより大きかった。しかし目鼻立ちはジェリアお姉さんの数年後くらいに見える容貌だった。
【そもそも察していたのではないか。それに『隠された島の主人』がアルカなら、残りの五人が誰かは明らかだろう】
猛暴な冬天の主、『凍りついた深淵の暴君』。
『隠された島の主人』、即ち『私』の同胞の一人である邪毒神がこの場に降臨した。
【ほう。いつからこの世界が邪毒神が好き勝手に足を踏み入れてもいい場所になったんだ?】
【それを防ぐのが貴様の仕事だったはずだが? 自分の職務怠慢を他人に押し付けるな。見苦しいぞ】
『暴君』が冷たく吐き出すと、『火』は荒々しく歯を剥き出しながら唸った。
恐らくあれは挑発に乗って怒ったのではない。ただ元々性格が好戦的な戦闘狂なので、この場で戦い甲斐のある相手に出会ったことに興奮しただけ。
伝説で伝え継がれてきた性格そのままね、本当に。
【お願い。止めて】
【そのつもりで来たのだ。そこでぼんやりしているタワケも回収して引き下がるように。邪魔だ】
『暴君』が手を振るとジェリアお姉さんの体が瞬時に飛んだ。『暴君』が魔力の念動力で投げ飛ばしたのを『私』が受け止めたのだ。
「おい、人をボールのように投げたり受け取ったりするな」
【ボールも人間も今の私たちには同じ虫けらよ。これほど丁寧に扱ってあげたことに感謝なさい】
『私』は素っ気なく言いながら魔力を展開した。『転移』の魔力が領域を形成しながら術式構築が始まった。
『私』の力なら、この程度の術式なら構築する過程すら感じる前に終わらせられるだろう。しかし今は『火』の力が周囲を支配しているせいで転移がうまくいかない様子が感じられた。
その間、『火』と『暴君』は剣を握りしめたまま、お互いを睨み合い続けていた。
【後裔って奴が邪毒神になっちまうとは、これぁ面目丸つぶれだな】
【全くそんなことを気にしている表情には見えぬぞ。そもそも面目を気にしたいのなら、窮地に陥った子供の叫びさえ無視する貴様らの無能をまず嘆くがいい】
【痛いとこ突いてくんじゃねぇよ】
『火』は全く気後れする様子もなく、そう言いながら剣で『暴君』を指し示した。
【一度だけ警告すんぞ。この世界から消えろ。世界に関与しねぇなら命までは奪わねぇ】
【戯言は貴様のバカな仲間にでも言え。貴様の力でこのボクを殺せるわけもなければ、そもそもさっきの言葉自体に真心など微塵も感じられぬ】
【ほう。舌先は達者だな。まぁ、最後の言葉は間違っちゃいねぇがな】
『火』がニヤリと笑うと、まるで感情に呼応するかのように魔力が激しく燃え上がった。
純粋な魔力で火を模倣するだけの『火』の宗派の白光技とは違う。それは正真正銘の火、魂さえも焼き尽くす獄炎の真髄だった。
【期待してたんだぞ。神座にまで上り詰めたテメェなら、なかなか戦い甲斐があんだろうと思ってたからよ】
【バトルジャンキーの無駄な戯れに付き合うほど暇ではないが、面白そうだというのには同感だ】
『暴君』の方も引く気など毛頭なかった。地獄の炎さえも鎮めそうな極寒が獄炎を押し返しながら、まるで一帯を二つに分けるような魔力の力比べが繰り広げられたのだ。
「あれってそのままにしておいていいの?」
【気にしないで。『火』があんな風になると予想してたし、あれを止めるために『暴君』を呼んだ】
『私』はそっちを見もせずにそう言った。
『火』と『暴君』の魔力が一帯を荒らした。
一触即発。既に二神の魔力が暴力的に暴れ回っていたけれど、これさえも二人の存在の巨大さに比べれば嵐の前の静けさも同然だった。
転移の術式がほぼ完成して光が視界を覆い始めた中、何の予告もなく『火』が飛びかかった。
正直に言えば動きなど少しも見えなかった。ただ突然『火』が『暴君』の目の前にいて、二人の剣が既に衝突している姿を見てようやく『火』が飛びかかり『暴君』が防いだということを認識しただけだった。
【オレの挨拶を受け止めるとは、合格だ。やっぱ面白くなりそうだぜ】
【無駄な駆け引きはやめろ】
『暴君』が『火』を押し返した。『火』はあえて抵抗せず、その力に任せて数メートル下がってから再び構えを取った。
【このまま殺し合いを始めてもいいが、せっかくだから名前を聞きてぇな。テメェはオレのことを知ってんだろうが、オレはテメェのことをよく知らねぇんだよ】
そして『火』は剣を握っていない左手の親指で自分の胸をピシャリと指し示した。
【世界の法則、その中で『火』を司る身。と言ってもピンとこねぇだろう。だからこう名乗るぜ。――フィリスノヴァの始祖、リベスティア・フュリアス・フィリスノヴァだ】
始祖フィリスノヴァ。
五人の勇者の一員。猛烈な竜剣。立ち塞がるものすべてを暴炎で粉砕した猛威の化身。
バルメリアの民なら誰もが知る名前と肖像画の現身が、伝説の中よりもさらに強大な力を備えて宣言した。
それに応答する『暴君』は対照的に冷たかった。
【『凍りついた深淵の暴君』。こう言ってもわからぬだろうから平凡に名乗ろう。――貴様の後裔であるジェリア・フュリアス・フィリスノヴァだ。頭の中に筋肉しかないタワケの始祖の我儘を責任持って叩きのめしてやろう】
完成した転移の光が視界を完全に覆い尽くす直前、フィリスノヴァの二神が激突するのが見えた。
獄炎と極氷。相反する力だったけれど、目の前の戦いに興奮した戦闘狂の笑みという点では完全に同じだった。
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