『私』の帰還
大切な人が、いた。
私にはいつも優しく親切だったお姉様。時には厳しいこともあったけれど、それさえも全て私を思ってのことだった。お姉様は私を愛し、私もお姉様を愛していた。素晴らしく立派なお姉様がいつも側にいることが私の誇りだった。
私は一人っ子じゃなかった。その事実が嬉しく誇らしくても、物足りないと思ったことは一度もなかった。それほどお姉様は私にとって誇りそのものだった。お姉様に関して物足りないとか残念な点があるとすれば、それは私がお姉様の後ろ盾になるには不十分な人間だということだけだった。
どうして忘れていたんだろう。どうしてお姉様が築き上げてきたものが私のものだと思っていたんだろう。これら全ては本来お姉様が享受すべきものだったのに。
答えは既に分かっていた。
【やっと届いたね】
純白の手はもはや白色じゃなかった。
既に全身が具現化されたその姿は見覚えがある。私と同じ容貌、元は素晴らしかったであろうが今はボロボロの服と鎧。『隠された島の主人』だった。
ああ、そうだ。はっきりと思い出す。イライラして不可解だったけど、私に機会を与えてくれた存在でもあった『私』。
奴はまだ異界の力の塊状態のテシリタを世界の穴にポイっと投げ込んだ。テシリタは魔力と怒号を吐き出しながら抵抗したけど、『私』はまるでゴミをゴミ箱に投げ入れるかのような軽さでテシリタを一方的に追放してしまった。
「貴様、よくも姉上を……!」
【よくも? 貴様こそ無礼ね。世界の汚水風情が勝手に声を上げないで】
『私』は指一本動かさなかった。
ただサリオンを睨みつけながら吐き捨てるように言っただけ。なのにその言葉に従うかのようにサリオンが地面深くへ激しい勢いで突き刺さった。
『私』がこっちへ来いとばかりに指をちょいと動かすと、埋まっていたサリオンが『私』の前まで見えない手で引きずられてきた。四肢が完全に潰れており再生すらできない様子だった。
「ぐ……あっ……!」
【そんなに姉と一緒にいたい? なら永遠に仲良く過ごせばいいんじゃない?】
すると『私』は問答無用でサリオンを世界の穴に投げ込んだ。
……一連の展開があまりにも一方的で心が少しついていけないんだけど。
そんな私をよそに、『私』は私の前に降り立った。
【こんな状況になってもまだぼうってしているだけね。情けないよ】
以前のように私を嘲笑う言葉。
しかしそこには普段の堂々とした態度と傲慢さはなかった。むしろ、なんというか……かなり力なく疲れたような様子が感じられるだけだった。
そんな奴に言うべき言葉は一つだけだった。
「お姉様はどうしたの?」
全てが蘇った今なら確かに分かる。
こいつはお姉様を拉致した。その直後に邪毒と邪毒神がこの世界から追放され、過去さえも改変された。そして邪毒神を排除する力を突破して再び現れた『私』には以前の堂々とした態度が少しも見られなかった。
見ただけで分かるほど敗北に塗れた失敗者の表情。今までの姿なんてただそれを覆い隠すための仮面に過ぎなかった。
いろいろ総合してみれば答えは明らかだった。
【それは……】
『私』が何か言おうとした瞬間だった。
突然横から魔力が爆発した。神聖な魔力が炎のように揺らめいて、巨大な剣となって『私』に襲いかかった。
【ふん】
『私』はただ視線だけで魔力を放って防いだ。
「何をしてるんですか!?」
既に予想していたかのように平然とした『私』とは違い、私は慌てて襲撃者を見た。『火』の代行者さんだった。
彼は私の慌てぶりなど無視して、初撃があっさり防がれたことにだけ舌打ちして再び剣を振るった。
『私』は私を魔力で押しのけ、代行者さんに手を伸ばした。手から噴き出した魔力が巨大な障壁となって代行者さんを阻んだ。
【単に安息領を阻止するためだけに来たわけじゃないでしょう。安息領はむしろおまけにすぎないね。最初から目的は私が戻るのを阻止することだった。違う?】
「……よく分かっているな、邪毒神」
【五大神の馬鹿たちは常に私を邪魔しようと血眼になっているからね。『光』以外は。今回も安息領が門を開いてしまえば私まで戻ってくることになるから阻止しに来ただけでしょう】
少し混乱した。
五大神教が『私』の帰還を阻もうとすること自体は理解できた。人間に友好的な行動を見せたとはいえ、『私』もまた邪毒神なんだから。
しかし『私』の言葉には棘があった。五大神と邪毒神だからという単純な理由を超えた何かがありそうだって予感がした。
「今五大神教と戦わなければならない?」
【あっちから仕掛けてくるから仕方ないね。まぁ、大丈夫よ。あれは相手をしてくれるメンバーがいるからね】
すると『私』は魔力で私を持ち上げた。どうやら私を連れて場所を移動しようとしているようだ。
「逃さん!」
代行者さんはすぐさま突撃してきた。代行者の神聖な光彩がいつにも増して強烈だった。
阻むものすべてを問答無用で吹き飛ばしそうな勢いだったけれど、意外にも彼の斬撃は私を細心の注意を払って避け、『私』だけを狙った。
『私』は魔力の壁で簡単に代行者さんの突撃を防ぎきった。
【相手をする者は別にいると言ったでしょ】
「それを決めるのは貴様ではない、邪毒神。狡猾にもこの世界の貴族の姿を騙るとは」
【最近よく聞くね、それ。元々私の顔なんだけど】
代行者さんは『私』の言葉を無視してさらに魔力を高めた。大地さえ地震が起きたかのように震え、『私』の魔力の向こう側でも感じられるほど神聖な重圧が強くなった。
……何か変だ。
神の代行者は確かに強いけど、これは私の知る常識レベルを超えていた。私やジェリアお姉さんはもちろん、ひょっとすると最強の人間――フィリスノヴァ公爵とも匹敵する、あるいはそれ以上かもしれない。
神の力を過度に受け入れれば不可能じゃないけれど、代行者自身の肉体が耐えられる限度がある。なのに代行者さんの肉体は私が見るにはあの力に耐えられるレベルではなかった。それなのに彼は平然とその力を扱いこなしていた。
『私』はイライラして舌打ちした。
【今更降臨するってこと? 五大神ってバカたちは一様に愚かで面倒なのね】
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