狙いと急変
「くっ……ああああああ!」
全身全霊にて『浄潔世界』の魔力を噴き出した。
何なのかはわからないけど、これまで記憶の違和感関連は浄化の力が役立った。ならばこの頭痛もそうじゃないかと思ったんだ。
頭が少し冴えた気がした……と思った瞬間だった。
【サリオン。あちらだぞ】
金色の手が私を指さした。
しまっ、まだ動きが戻らなかった……!
なるようになれという心境で魔力を放出した。どうせ半ば暴走させている有様なので、その勢いをさらに増したのだ。
技巧も何もない乱暴な術だったけど、サリオンが私に浴びせた魔力を一時的に防ぐことは可能だった。
「『浄潔世界』か。やはり厄介じゃのぉ」
【力を貸してやろう】
金色の手が指を鳴らした。すると私の周りに漆黒の魔法陣が現れた。
私が吐き出している『浄潔世界』の魔力が魔法陣を速やかに消していったけど、テシリタの力がそれ以上の速度で魔法陣を続けて修復していた。
結局魔法陣の起動を阻止できず、私がしゃがみ込んでいる場所付近が激しく揺れた。
「うっ……!」
けれど少しでも時間を稼いだおかげで、頭痛がかなり収まった。
まだ完全に消えたわけじゃなかった。でも浄化の力が頭の中を洗い流したように相当すっきりした感じがした。そしてずっと忘れていた……いや、思い出すことが阻まれていたものが思い出せそうな気がした。
でも今はゆっくり過去を振り返る状況じゃない。
――白光奥義〈天の彼方に輝く盾〉
――『浄潔世界』専用技〈浄純領域〉
私が使える最強の防御の術式に加え、浄化の力をジェリアお姉さんに集中させた。
見る限り、正体不明の頭痛に苦しんだのは私とジェリアお姉さんだけ。他の人たちは少なくともこんな頭痛に影響を受けている様子はなかった。
ならジェリアお姉さんに力を集中させて回復させるのが先決だ。
「感謝するぞ」
ジェリアお姉さんは残っている激痛に顔をしかめながらも、この程度なら我慢できると言わんばかりに剣を抜いて振り下ろした。
一撃。
単純だけど充満した力が宿った一撃がサリオンの溢れ出る魔力を斬り裂き、上空に浮かんでいたサリオンにまで届いた。極限まで強化された力に阻まれてダメージを与えることはできなかったけれど、斬り開いた道をジェリアお姉さんが駆け抜けた。
「うぐっ……!」
私も降り注ぐ魔力の怒濤を歯を食いしばって防いだ。防御術式がきしみ、あちこちにひびが入ったけど、必死に魔力で補修しながら耐え抜いた末に攻撃が先に終わった。
それを機に、ジェリアお姉さんに呼応するために地面を――。
【目障りだ】
――蹴る直前、テシリタの声が巨大な重圧となって周囲に降り注いだ。
「うぐっ!?」
「きゃっ……!」
ジェリアお姉さんと私だけじゃなかった。この場にいるすべての騎士たちと魔導兵団と聖騎士隊、さらにはサリオン以外の安息領までもすべてを押しつぶす重力の暴力だった。ほとんど全員があたかも縫い付けられたかのように地面に叩きつけられてしまい、なんとか完全に倒れなかったのは私とジェリアお姉さんと代行者さんだけだった。
もちろん私たち三人もどうにか倒れなかっただけで、膝をついたまま武器を杖代わりにしてかろうじて耐えているのが限界だった。
「お礼を、姉上」
サリオンが魔力を動かした。
あれほど巨大な魔力を持って戦場を支配していながら、その動きは慎重で精密だった。たった一発で確実に一人ずつ息の根を止めようとするかのように魔力が集約した。
【けりをつけろ】
テシリタの無情な宣言とともに、サリオンの手がまず私を指さした。
集束された魔力が一筋の破壊光となって私に向かって発射――。
【追いついた】
――されようとした瞬間、突然何の前触れもなく散ってしまった。
「何じゃ?」
【これは……!】
【よくも好き勝手に暴れてくれたよね】
テシリタとは異なる第三の声が聞こえてきた直後のことだった。
突然テシリタの金色の手に対比される、純白に輝く手が現れた。それがサリオンを包んでいた異界の力の一部を掴んだ。
霧のように見えるだけの力の塊だったけれど、金色の手の位置から推測すれば……頭があるはずの場所だった。
【貴様、オレの門を勝手に使うな!】
【権利を主張するなら、まずはまともなことをしなさいね】
純白の手が後ろにひゅっと引っ張られた。荒々しく引き千切られるように異界の力がサリオンから離れていった。
「姉上!? おのれ!」
サリオンは純白の手に向かって飛びかかった。
しかしテシリタと推測される力の塊を掴んだのは右手の形状。それと反対の純白の左手が現れてサリオンを阻んだ。
その掌が触れただけでサリオンが弾き飛ばされた。
「げほっ!?」
【不純物は消えてもらうかしら】
純白の左手が虚空を突くと空間が開いた。たった一人が入れそうな大きさだったけれど、それは間違いなく世界の穴だった。
穴が開いた瞬間、純白の手から光が剥がれた。そして部位をつなぐように徐々に人の形の身体が生まれていった。
手首から前腕、肘、上腕を経て……。
「うおおおおっ!」
テシリタがサリオンから引き千切られたことで、私たちを押しつぶしていた重圧も消えた。
しかし突然の事態についていけず行動が遅れた私や、慎重に力を蓄えながら状況を見守っていたジェリアお姉さんとは違う行動をする人がいた。
代行者さんだった。
彼は高らかな気合いとともに跳躍した。代行者の光芒がみなぎる剣を振り上げ、まるでテシリタと突然現れた第三の存在を一気に斬ろうとするかのように。
【私も一緒に排除しろってことが『火』の指示だったんでしょうね】
でも第三の存在が指を鳴らすと、その音の衝撃波に弾き飛ばされるように代行者さんは飛んでいってしまった。
その間にも第三の存在の姿は続々と補強されていき、声もだんだんはっきりしていった。魔力の波長が激しく歪んで聞くにも辛かった声から、普通の人に近いものへと。
それが誰の声なのか気づいた瞬間、眠りから覚めるように頭の中のすべてが明瞭になった。
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