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サリオンの意図

 その微笑を見て不審に思ったけど、対応する前に状況が先に変わった。


「ぬはぁっ!」


 サリオンが咆哮しながら力を放出した。そして彼を抑制していた力が少し押し戻された瞬間、素早い動きで氷の牢獄から抜け出した。


「ぐっ、これは少し痛いのぉ……!」


 サリオンにとってもそれはただその場所を逃れることだけを優先した無理だった。右腕は肩から完全に吹き飛んでしまい、左腕も肘まで消滅。その他にも全身に大小の傷が積み重なり血が流れていた。


 しかし力が集中した現場を離れたその一瞬の間に、彼から感じられた異界の力が急激に膨れ上がった。


 ――『浄潔世界』専用奥義〈恩の雨の体現〉


 巨大な魔力弓の部隊でサリオンを包囲し、浄化の矢を浴びせた。物理的なダメージよりも異界の力を押さえつけることが目的だった。


 サリオンは私の攻撃を見ながらも笑うだけ。急激に増大した力が腕一本をすでに再生させ、残りの一本も速やかに修復されつつあったけれど、防御態勢を取る気配すらなかった。


「もう遅いのじゃ」


 全弾命中。


 でも深い傷につながらなかった。サリオンから噴出した途方もない魔力が矢を押しやったのだ。異界の力が混じった魔力だったため『浄潔世界』の矢も異界の力を浄化して吸収しエネルギーを補充したけれど、それでも及ばないほど噴き出す力が大きかった。


 けれどそれより大きな問題は――。


「ジェリアお姉さん! サリオンを止めなきゃ!」


「ああ、こちらも感知した!」


 サリオンに異界の力を与えていた不可思議な時空の隙間。最初は針の穴ほどだったそれが今は大きな門のような感じになったのだ。視覚的に見えるわけじゃなく、気配の大きさを比喩したっての話だけど。


 しかしどうしてあれが可能なの?


「感謝するぞ、騎士共よ。おかげで門を開け放つことができたわい」


 黒色とも、他の何色とも表現しがたい奇妙な魔力がサリオンを包んだ。


 明らかに邪毒と思われるものも混ざっていた。でもその全てが邪毒ではなかった。異界の力を拒絶し邪毒に転落させる世界の力が完璧に作動していないのだ。


 それでも邪毒じゃない異界の力にも『浄潔世界』が効くのを確認したのは幸いだったけど、さっき発射した矢はすでに力の差に押されて破壊されていた。それほど圧倒的な力だったし、その力が増幅させたサリオン自身の魔力も膨大だった。


「いったい何が……!」


「もしや儂に尋ねる気かのぉ。やめておけ。答えてやる気などないのじゃ」


 サリオンはきっぱりと言い切ると両手を上げた。残っていたダメージなんてすでに一瞬で消え、万全以上の肉体が力を噴き出そうとしていた。


 彼は答えなかったけど、感じられる気配だけでもどんなことなのか少しは分かった。


 どのように異界の力を引き寄せられるようになったのかは分からない。しかし開けた穴は極めて小さな、まさに針の穴以下程度だっただろう。それをさらに拡張する方法もなかっただろうし、他人にその恩恵を与えることも不可能だっただろう。


 しかし戦いの最中にサリオンは絶えず異界の力を汲み上げており、力を持ってくるにつれてだんだんその穴は広がっていった。


 他の目的があるのかは分からないけど、結果的に戦いを通じて穴が大きくなった。それが目的だったのかもしれない。


「アルカ、浄化に集中するのだ!」


 ――ジェリア式狂竜剣流『冬天世界』専用終結奥義〈冬天の証明〉


 ジェリアお姉さんが飛び出した。鋭く集約された奥義がサリオンを狙った。私もそれに合わせて全力で浄化の魔力を発して異界の力を抑制した。


 ジェリアお姉さんの一撃がサリオンの強力な魔力を切り裂き、彼の肩に深く突き刺さった。けれど腕を切断するには至らなかった。


【邪魔をするな】


 突然サリオンを包んだ魔力から声が流れ出た。


 同時に金色の何かがジェリアお姉さんを吹き飛ばした。


「うわっ!?」


「ジェリアお姉さん!」


 驚いてジェリアお姉さんの方を見たけれど、幸い力に押されて飛ばされただけだった。今のジェリアお姉さんを遠くに飛ばしたことだけでも凄まじいことだけど。


 でもそっちに集中する余裕はなかった。


「ああ。久しぶりじゃのぉ、姉上」


【長かったな。よく頑張ってくれたぞ】


 膨大な魔力の中から金色に輝く何かが出てきた。


 それは手。


 小さな子供のもののような金色の両手がサリオンの頬を優しく撫でた。


 サリオンが姉上と呼ぶ存在なら……まさか!?


【遊んでいる場合ではないぞ。あの煩わしい神の力を突破したが、奴の力なら再び穴を閉じてしまうかもしれぬ。早々に片付けろ】


「そうするのじゃ、姉上」


 目に見えるのは手だけだけど、間違いない。十年間行方不明だったテシリタ・アルバラインに違いない。


 どうして突然、しかもこんな形で……。


「っ!?」


 何か思い浮かびそうだったけど、その瞬間激しい頭痛が襲った。


 今の状況さえ忘れて片膝をつくほど激しい痛み。両手で頭を抱え込んだが当然治るはずもなく、どうにか状況だけでも確認しようと視線を上げるのが限界だった。


「させん!」


 五大神教の聖騎士隊がサリオンに攻撃を浴びせていた。代行者さんはいつの間にか神聖で絶対的な光芒を放っていた。


 けれど神の代行者の権能さえもサリオンを包んでいる力を突破できなかった。


【五大神の玩具どもか。目障りだ】


 黄金の手が代行者さんに向かった。何か謎の力が放出され、代行者さんの姿が瞬く間に消えた。消滅したんじゃなく飛ばされてしまったのだ。


 状況についていけない。テシリタはなぜ行方不明になり、なぜ異界の力の中から飛び出してきたのかも分からない。


 でも非常に危険な状況だということだけは明らかだった。


「くっ……こ、これは……」


 しかもジェリアお姉さんも私と同じ状況のようで頭を抱えていた。


 これは……どうにかしなければ。

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