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狙うこと

 来た。


 私だけでなく会場内のみんなが心構えと姿勢を正して待つ中で、会場内の唯一の階段の上にあったドアが開かれ、ケイン王子が姿を現した。


 白を基調に金色の刺繍と装飾で飾った容貌はとてもきれいで美しかった。しかし、美しさ以上に目立つのは、単なる王子以上の威厳と覇気だった。彼の護衛役として二人の騎士が彼の後にいたけど、彼の覇気と魔力は後ろの騎士の存在感さえ薄めた。まるでこの場の覇者が自分だと全力で主張するように。


 やっぱり〝覇王ダイナスト〟バルメリアの第一継承権を占めた男。王子という立場以上に、そのデモ行動(・・・・)こそ彼の存在感をみんなに確実に刻印させた。


「はじめまして。今日この舞踏会を主催した第二王子、ケインです」


 彼が口を開くと同時に、会場全体を埋め尽くした覇気が和らいだ。でもみんなの緊張感を適度に保ち、注目を集める程度は維持された。やっぱりバルメリアの第一継承権者、緩急調節がうまいわね。


「今日はこんなに集まってくださってありがとうございます。今日は皆様に交流を開く機会を差し上げるためにこのように場を設けました」


 ケイン王子は懐からあるものを取り出した。表紙に星が描かれた本と万年筆を模した印章だった。その印章……アカデミーの象徴を知らない人はイ会長の中にいない。


 彼はそれを高く持ち上げながら続けた。


「多分お聞きになった方もいると思いますが、私は今年から王立人材育成総合アカデミーに編入して勉学に励んでいます。そしてアカデミーで切磋琢磨する次世代の人材たちと交流しています」


 会場の中にまんべんなく視線を送っていたケイン王子は、こちらを見た瞬間しばらく視線が止まった。私たち……というより、私としばらく目を合わせたような気がする。


 いや、気のせいじゃないかもしれない。


「そして、私は現在アカデミーに在学中の四大公爵家の後継者候補全員に直接・間接的に会ってみました」


 彼の次の言葉がこれだったから。


 まさか開会演説で直ちに四大公爵家に言及するなんて、それだけでもこの舞踏会の名分がわかる気がする。ジェリアに目を向けると、彼女も少し不愉快そうな表情で私と目を合わせた。アルカとリディアは無難な表情だったけれど、私とジェリアの視線交換と表情を見て眉をひそめた。


 名目として受け取った招待状には目的についての話はなかった。でも私だけでなくアルカやリディアまで全員招待したのも、この名分を満たす目的があったのだろう。


「四大公爵はこの国で国王の次に最も高い人々であり、その一族全体がさまざまな分野で重要な貢献をしています。当然、次期当主の候補に対する皆様の関心も高いでしょう。ちょうどその四大公爵家の三家の最も有力な後継者たちが皆アカデミーに在学中です」


 みんなが黙ってケイン王子の言葉に耳を傾けていた。言葉では言い表せない熱気がますます強くなった。期待感と恐怖、計算と衝動……私にとっては決して嬉しくない感情がその熱気に溶け込んだのが感じられた。


「今日この場にはその三家の次世代を担う生徒たちが全員出席しました。本日、この場はその後継者候補と皆様の間に橋を架けて、次世代の主役たちが活躍できる基盤を固めるために設けられました」


 そんな余計なこといらない! ……って言いたい気持ちは山々だけど、ここでは大人しくしているのが家にも役立つだろう。


 特にフィリスノヴァやアルケンノヴァならともかく、我が家は多くの研究機関を支援したり、直接運営する立場だ。主に騎士をたくさん輩出するあの二つの家よりも勢力や連合がはるかに重要だ。


 まぁ、何があっても積極的に何かをするつもりはないけどね。そもそも今回あえて参加した目的はそんなことじゃないから。


「こんにちは、オステノヴァ公女」


「失礼でなければ、どうか私に美しい公女と一曲踊る栄誉を……」


「すごい美しさですね! これはまるで始祖オステノヴァが再臨したような……」


 ケイン王子の宣言が終わり、本格的に舞踏会が始まるやいなや男たちが次々と訪ねてきて声をかけた。挨拶は受け入れてくれて、ダンスの申し込みは優しく断って……最後のおじさん、始祖は私と違って金髪金眼なんだけど? 始祖再臨とかなんとかはアルカに話してよ。


 まぁ、実はあのアルカも忙しくていちいち相手にしてくれる余裕なんてなかった。正確にはアルカだけではなく、私たち全員が各地の貴族や高官の標的になった。正直、挨拶を受けるだけでもすでに飽和状態だった。リディアに至っては突然人が殺到したため、ほとんどパニック状態だ。


「リディア、大丈夫?」


 しばらく会話を遠慮してリディアを見た。彼女は緊張あふれる顔でブルブルしていたけれど、それでも私を見上げる眼差しにはまだ戦意が残っていた。社交界で戦意を抱くことの異様さはさておき、まだ諦めていないことだけは褒めたいわね。


 リディアは不安そうに震えながらも、なんとか私の質問に答えた。


「ええ、大丈夫。こ、ここ、こんなことも、リディアが、こ、これから乗り越えなければならない、あの…… 山! 山だからねっ」


 ……本当に大丈夫かしら? 三年前よりもひどくどもっているけど。


 少し心から心配になるほどだった。それでもリディアは前に一歩進み、必死に人々の挨拶に答えた。話しかけてくる人たちでさえ、彼女の真っ青な顔を心配した。うん……頑張ってね。


 そのような感じで何とか対話を勝ち抜くリディアを含め、しばらくは無難に対話が続いた。


 率直に言えば面倒極まりない。それでも無益なだけではなかった。特にこの国の六大騎士団の中でも何と三ヶ所の騎士団長が参加し、その人々と訓練法や将来などについて話すのはかなり有益だった。その上、オステノヴァとしても権威ある研究者や魔道具開発者たちの研究開発関連の話はかなり聞くに値する。


 私は社交界への参加経験がまぁまぁある。でも公女にしては少ない上に規模がそれほど大きくないところにだけ参加したので、このような規模と対話は初めてだ。かなり新鮮だね。


 ただ、正直面倒なこともあったので、たまにはただ踊ろうかと悩んだりもした。ジェリアはとっくに飽きて、適当な人を選んでダンスに逃げた。


 む。舞踏会なのに踊らずにずっと話だけするのもちょっとアレだし。私も一曲どうかしら?


 そろそろそんな気がしていたところ、ちょっと気になる話が耳に入った。


「オステノヴァ公女、少し気になる話があるのですが……しばらくよろしいでしょうか?」


「こんにちは、ティセン伯爵閣下。忌憚なく話してください」


 ティセン伯爵。我々オステノヴァ公爵領に属する伯爵だ。アカデミーに入学してからは会ったことがないけれど、父上の研究を手伝う側近の一人で、以前はかなり頻繁に顔を見ていた。


 公爵令嬢はあくまで公爵の娘であり、別の爵位を持つ人ではない。しかも、我がオステノヴァ公爵領で彼はかなりの発言力を持つ有力者だ。それにもかかわらず、彼はいつも私に優しくしてくれた。だからといって負担になるほど支えているわけでもない。だからかなり好きな方だ。


 ところが、彼の表情はあまり良くなかった。


「少し悪い噂が流れているようです」


「悪い噂……もしかして私がアカデミーで派閥を作って何か企むとか、そういう噂ですの?」


「ご存知ですね。はい、そんな噂です。何人かの有力者の間でそんな話が出ていましたね」


 はぁ……やっぱり。


 実は舞踏会直前にケイン王子が部下に調査した結果をジェリアを通じて伝えてくれた。まだ百パーセント確定ではなかったけど、やっぱり予想通りディオスの勢力から噂が始まったように見えると言っていた。


 当初、この舞踏会は〝アカデミーに在学中の四大公爵家の生徒たちを紹介する場〟だ。すなわち、ディオスも当然ここにいる。私がどのように対応するかを見るのもケイン王子の目的だろうから、ディオスを招待しないという選択肢はなかっただろう。


 このような場で生半可に他の公爵家の令嬢を貶めるのはリスクがある。でもアカデミーで私がじっとしているのを見て自信を得たかもしれない。どうせ私のせいで勢力が大幅に縮小された彼としては、リスクのために自制する余裕もないだろう。いや、もしかしたら舞踏会が開かれる前からこんな噂が流れるように手を使ったのかもしれない。


 じゃあ、どうする?


 率直に言えば私としてはどうでも構わない。あんな噂が流れて名誉に傷がついても、それが嘘だということを行動で見せれば今後の歩みに別に問題はない。特に私は騎士団に入団するつもりだし、騎士団で私のイメージはかなり良い方だ。


 それでもここでじっとしているとケイン王子が変に考えそうだし……とりあえずアクションを取るべきか。


 そう思いながらそろそろ出てみようかと思ったところだったけれど、実際に行動する前に他の所から先に雄叫びが沸き起こった。


「ふざけないで!!」

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