状況の急変
――『万魔掌握』専用技〈星の巨人〉
魔力を私自身に集中させ、肉体の力を極限まで高める。
『万魔掌握』の力で吸収した魔力を余すところなく肉体強化に投入する技。術式を展開する能力は足りなくなっちゃうけれど、サリオンを相手にしては些細な小技なんてどうせ効果が薄い。
目の前のサリオンに対しては依然として強い探知を発揮できるけど、戦場全体を詳細に観測するのはこの肉体強化術を使えない。そのため戦場観測機能を最低限にした今こそ使えるのだ。
「さすがじゃ。だがそれくらいでは儂を倒すことはできんぞ!」
「自分自身への過信が凄いですね!」
魔力弓の軍勢を成していた魔力まで回収。私の武装を両手に握った双剣に圧縮し、それのみを振るってサリオンの拳法に対抗する。
剣を作るのに使った魔力量が膨大すぎたせいで魔力剣の大きさが少し大きくなってしまったけれど、この程度なら何の問題もない。
全て凝縮しきれなかったのは剣の大きさだけ。振るう斬撃の力も、受け流す防御の魔力も私ができる最大限に圧縮及び精錬されたものだった。サリオンもまた私を抹殺し私の攻撃を防ぐためだけに魔力を集中させた。
その結果、さっきよりもむしろ破壊の範囲が縮小した。互いに力をより集中して注ぎ込み、放出する破壊力のほとんどが互いに相殺されるほど、周囲に飛び散り破壊を撒き散らす力は減ったのだ。
しかしそれは互いに注ぎ込む力自体はより大きくなったという意味でもあった。
「ここまでついてくるか。もっとやってみるがよい!」
サリオンは外見に似合わず好戦的に笑いながらさらに手と足の苛烈を足していった。私もまた双剣の気勢をさらに高め、時には肘や蹴りでサリオンの肉弾攻撃をいなしながら対応した。
太山を砕いてもお釣りが来るほどの剣撃を腕が防ぎ、海を割る拳を剣が相殺する。そのような過程を繰り返すだけ。
言葉で表現すれば簡単だけど、それが一秒に数百回を超え四桁に及ぶほどの速度で繰り返されれば、それはもはや死の渦以外の何物でもない。
少しでも緊張を緩める瞬間、一撃で命を落とす状況だったけど……疑問が頭をよぎるのはどうしようもなかった。
ここは互角。でもあっちは安息領が不利だ。サリオン程の達人がそれを知らないはずがない。私のように探知術式を使わなくても、彼の感覚は鋭く研ぎ澄まされているはずだ。
それでもサリオンには焦りが全く見えなかった。ただ目の前の戦いを楽しんでいるだけ。その事実が私には不可解だった。
上位者がいなくなったからとはいえ、とりあえず安息領のトップとみなされる男。ここに集結した安息領の中でも彼は最強の戦力で、他に安息領を責任負う者もいない。
それなのにこの余裕は一体何だろう。
私を殺して他の人々まで一人で殲滅できると思っているのだろうかな? 可能性はさておき、仮にそうしたところで他の安息領が全滅すれば意味がない。私を相手に時間が引き延ばされれば実際にそうなる状況なのだから。
しかも安息八賢人がこれだけ集まっている今、騎士団がこの程度の兵力しか派遣するはずがないことは馬鹿でもわかるだろう。当然増援の派遣を想定するはずだ。実際に増援が編成されている状況だし。いや、もしかしたらすでに間近まで来ているかもしれない。
今この状況がサリオンには悪くないのなら、彼は何を狙って現れたのか。
非常に気になる部分だけど、それを突き止める材料が余りにも少なかった。
「あんた、一体何が目的なんですか?」
「ほう? この状況で口を動かす余裕があるのか?」
「それはあんたにも同じでしょう」
正直に言えば余裕はない方だ。
でも彼の狙いにこの状況が役立つのなら、このまま戦いを続けても意味がない。そんな判断の下、無理にでも頭を絞っているのだ。
もちろん戦いを疎かにしているわけではない――と思った瞬間、力強く振るった双剣をサリオンの両手が掴んだ。
刃と掌に集中した魔力が摩擦して火花が散る中、サリオンがふと笑った。
「良い警戒心じゃ。じゃが正しい判断とは言えんのぉ」
「どういう意味ですか?」
「明白じゃろう」
サリオンの両手に力が入った。
もちろんそれだけでは今の魔力剣を砕けない。しかしサリオンはそんなことなどどうでもいいとでも言うように、気分悪く笑う顔を突然近づけてきた。
「この状況と儂の目的に疑問を持ったのなら、何よりもこの戦いを素早く終わらせることに全力を注ぐべきじゃった」
サリオンがそう言った瞬間だった。
サリオンの姿が消えた。
何の前触れもなかった。怪しい魔力の気配もなく、彼が何かをしたようにも見えなかった。それでもまさに突然、姿だけでなく魔力と気配が完全に消えた。
いや、サリオンだけではなかった。
――『万魔掌握』特性複製『転移』
「ジェリアお姉さん!」
「ああ。見ての通りだ」
不愉快な表情で吐き出すジェリアお姉さんはすでに剣を下ろしていた。
安息領が完全に姿を消した。位置的に敵が流した血と思われる跡だけが雪原の大地にくっきりと残っていただけだ。
ジェリアお姉さんはその直後〈冬天世界〉を解除した。当然と言うか、世界の元の風景が戻った後も安息領の姿は見えなかった。
でも奴らの気配はかすかに感じられた。
「少し遠いですが、ここから気配を感じられる程度の距離にいますね」
「ボクにもかろうじて感じられるな。……どうやら先ほどの戦いも幻覚ではなかったようだ。すでに斬り倒したタールマメインとベルトラム、そしてギリギリだったラースグランデの気配は依然として消耗した様子が見て取れる」
それにもかかわらずあえてここで戦いを演じ、そうしていきなり消えた。
恐らく戦闘を繰り広げること自体が何か奴らの目的と関連があるのだろう。今はそこまでだけ判断して直ぐに動くしかない。
そう考えてすぐに体を翻したけれど、地面を蹴る前にまず変事が起こった。
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