表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

816/891

激戦と狙い

 全力を尽くしてもサリオンに勝つのは難しい。不可能じゃないと思うけれど、非常に骨の折れる過程になるだろう。


 逆に『万魔掌握』の力で戦場を観測することに力を割いても、サリオンにやられずに持ちこたえることはできる。そのくらいの力と自信はある。


 ならばサリオンがあっちに合流できないよう時間を稼ぎながら戦場の魔力を観測することこそ、私にとって最も有利な行動だ。


「他に狙っているものがあるようじゃな」


 私の事情を知るはずのないサリオンとしては全てを理解したわけじゃないでしょうね。


 けれど私の目的が目の前の戦いの勝利ではないということくらいは十分に伝わったようだ。


 自分との戦いが後回しだという事実に怒り――のような些細な感傷などサリオンにはなかった。


「確かに、儂を倒すこと自体が目的でないなら、あえてこの戦いにのみ集中する必要はないのぉ。そしてお主は儂を相手に死なずに持ちこたえるだけの実力がある。他に狙っているものがあるなら、今の状況を通じて一石二鳥を狙うのは合理的な判断じゃ」


 サリオンは私の意図と状況を正確に分析した。さっと垣間見えた怒りも今は跡形もなく消えていた。


 ……危ない。


「お主の目的が何かは分からんが、儂をあちらから引き離しておくお主の意図通りに動く理由はないのぉ」


 サリオンの上着が炎に変わった。


 正確には彼の体から噴き出した炎が服を瞬時に焼き尽くしたんだけど、体を覆い隠す要素という点ではその炎自体を服と呼んでも問題はないだろう。


 ……下の方がどうして無事なのか少し疑問だったけれど、おそらく特殊素材か何かだろうと適当に納得した。私としてはお爺さんの裸体を見たくはないからむしろ幸いだね。


 髭と髪の毛の先も燃え上がる彼は完全に炎の鬼と化していた。


「これからは本気で行くのじゃ」


「親切ですね。そんなことをわざわざ言ってくれるだなんて」


「そういう性格でのぉ。そして――」


 次の瞬間、サリオンは目の前にいた。


 その速さに私が驚愕するよりも、彼の鋼鉄より硬い拳が殺到してくる方が早かった。


「これでも大丈夫なほど、儂は強いのじゃ」


「うっ!?」


 受け流した。


 しかしそれで終わりではなかった。条件反射で反応したのはよかったけれど、私が体勢を立て直す前にすでにサリオンの方が先に拳を引き、次の一撃を繰り出していた。


「私を侮らないで!」


 肉体的には遅れをとる。


 ならば様々な術式の効能と魔力放出による推進で補うまで。


 わずかの間に数百を超える激突が続いた。双剣と拳がお互いを破壊するために絶え間なく舞い、一度激突するたびに大量の爆弾が炸裂したような衝撃が周囲を席巻した。


 ――『万魔掌握』専用奥義〈無限の軍勢〉


 激突の最中に魔力だけを動かして一つの奥義を発動した。


 次々と魔力を引き寄せて剣や槍のような兵装を作り出し、それを敵に投擲する技。一つ一つの威力は大したことはないけど、術式が壊れない限り無限に攻勢が続く。


「小細工はもう飽き飽きじゃ!」


 ――『獄炎』専用奥義〈地獄の行進〉


 雪原が燃え上がった。


 極拳流ではない『獄炎』特性の奥義。周辺一帯を灼熱で覆い支配する力が〈無限の軍勢〉の兵装を次々と破壊した。


 でも兵装の中には炎さえも突破してサリオンに到達するものもあった。彼の堅固な肉体と魔力を貫いて傷を負わせることは不可能だったけれど、彼の魔力の一部を削り取り邪魔をすることは可能だった。


「ぬおおおっ!」


 サリオンはあえてそれに対応しなかった。


 視線はひたすら私に。ろくなダメージも与えられない小細工など相手にする価値さえないと、私を潰せばそれでいいと。その本質をよく分かっていた。


 だからこそ私の言うことは一つだけだった。


「学習能力がないんですね」


 獄炎の海が歪んだ。


 炎に破壊された無数の兵装。それは魔力に戻った。私の魔力、つまりまだ私の支配力が及ぶ力へと。


 サリオンが今噴き出している炎は彼自身が覚悟を決めて支配しているもの。それは侵食技を展開した今の私でさえ掌握しづらい。


 しかしその中に私の魔力を混ぜ込み、それを媒介とすれば掌握できる。


 瞬時にすべての炎と熱気が私の刃先に集中した。私でさえ全て扱いきれないほど膨大な量だったけれど、瞬間的に纏めた次に一つの目標に向けて放出するだけならできる。


 サリオンの強力な力と肉体さえも貫く一撃。それを前にして、サリオンは笑った。


「それは儂のセリフじゃ」


 ――極拳流終結奥義〈根源の眼〉


 最初から彼の肉身の中で凝縮され精製された極限の魔力。


 それが至高の拳となって噴き出した。


 私が放った最大最強の破壊力を何でもないように貫いて散らしてしまった!


 私が死ななかったのは防御に成功したからではない。私が凝集した魔力を突破するのにサリオンの力も消耗され、激突の衝撃で狙いが外れて直撃を避けられたおかげだった。


 しかし消耗された力の余波だけでも私は吹き飛ばされ、全身を殴り倒されたような激痛に包まれた。


「が……はっ……!」


「儂が何度も同じ手に引っかかると思ったか。……それでも原型を留めないつもりで繰り出した拳だったがのぉ。やはりお主は強靭じゃ」


 見なくても私自身が血まみれになったことが分かった。


 しかし死ぬほどじゃない。


「この程……度でっ!!」


 地面を転がるのはちょうど三回。体が三回目の回転を終えたとき地面に手を突いて制動をかけた。


 全身の骨が砕け内臓の一部に骨片が刺さった。本当にひどく痛かったけれど……ダメージが均等に全身に入っただけで、体が完全に潰れた部分はない。この程度ならすぐに再生できる。


 もちろんサリオンはそれを再生する隙を与える馬鹿ではなかった。


「お主にも儂流の敬意を表すとしよう」

読んでくださってありがとうございます!

面白かった! とか、これからも楽しみ! とお考えでしたら!

一個だけでもいいから、☆とブックマークをくだされば嬉しいです! 力になります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ