サリオンとの戦い
――『万魔掌握』特性複製『空間操作』
互いに直接激突するより先に、私の魔力が私とサリオンを同時に包んだ。
『万魔掌握』で複製した魔力に加え、父上の『転移』の力が込められた魔道具まで重ねた。そうして増幅させた力で、強大すぎて干渉しづらいサリオンを強制的に転移させた。私と共に。
私たちが転移した場所は〈冬天世界〉の中のどこか。しかし安息領と戦っている方からかなり離れた場所だった。
「儂と一対一をしようというのか? 面白い小娘じゃ」
「どうせ安息領は安息八賢人がいなければ大したことのない寄せ集めですから。リーダーのあなたを分離するだけでも大きな助けになりますよ」
サリオンはげらげら笑った。
「そのとおりじゃ。だがその前提には一つ致命的な問題があるのじゃ」
サリオンの体が大きくなった。
いや、別に巨大化というわけではなかった。ただ筋肉質の体に力が入り筋肉が膨らみ、同時に増幅された魔力が彼をまるで巨人のように見せただけ。
もちろんその威圧感と存在感は錯覚ではなかった。
「お主が儂に瞬殺されぬという前提じゃ」
「おあいにくさま」
拳の構えを取るサリオンを睨みつけながら、両手に魔力を凝集させた。
作り出すのは二振りの剣。そして私の後ろに無数に並ぶ魔力弓の軍勢。
殺気はサリオンにも負けない。
「あなたが心配すべきはその逆の状況ですよ」
安息領にこれほどまでに敵意を燃やした記憶はなかった。
でも私が記憶の違和感に気づいたこの頃に突然動き出したのがまるで関係があると主張しているようで、今の状況そのものへの敵意を目の前の安息領に表出することになっただけ。
「面白いのぉ。ほら、やってみるがよい」
「もちろんそのつもりですよ!」
――『万魔掌握』特性複製『冬天世界』
――『冬天世界』専用技〈奈落の深淵の銛〉
私自身ではなく、周囲の地面全体から氷の槍が突き上がった。
方向を変えた奇襲。もちろんサリオンほどの大物がこの程度の小細工に引っかかるとは思っていない。恐らく時間稼ぎもろくにできないだろう。
予想通りサリオンは大地を踏みつける動作一つで氷の槍の群れを粉砕した。歩みに込められた『獄炎』の魔力が広がり、雪原ごと氷の槍を跡形もなく蒸発させたのだ。
……ただ予想外だったのは範囲だった。
「きゃっ!?」
まるで地獄が地上に降臨したかのような光景だった。
津波のように爆発する炎の波が周囲全方向に広がった。街一つくらいは覆い尽くしてもお釣りが来るような範囲、遠くで戦っている騎士団と魔道兵団にまで熱が広がるほどの爆炎が、ただ一度の足取りから噴き出したのだ。
揺らめく地獄の灼熱の中で、サリオンは平然と私を見つめていた。
「ほほう。不意の事態に戸惑っておるが、大した傷はないのぉ。この程度は挨拶代わりとして受け止められる力を持っておるのじゃな、小娘よ」
雪などかけらもなく、下の土さえ溶けて流れる大地。サリオンがその地を蹴った。
溶岩が爆発する光景を背景に、屈強な巨躯が矢のように迫ってきた。
――極拳流〈頂点正拳突き〉
――天空流奥義〈空に輝くたった一つの星〉
極限まで魔力を集束させた剣でサリオンの拳を受け流した。
最大限力をいなそうとしたけれど、サリオンの拳に圧縮された魔力が膨大すぎだった。手がしびれるだけでなく、高圧縮された『獄炎』の魔力が〈空に輝くたった一つの星〉を破壊しようとするほどだった。
しかしそれを『万魔掌握』の支配力で押さえ込み、反対側の剣でサリオンの肩を狙った。同時に魔力弓を動かして上下左右前後全方向からサリオンに砲撃を浴びせた。
「ふむっ!」
――サリオン式極拳流『獄炎』専用技〈火山進撃〉
サリオンの全身が光を放った。
純白に近い朱白で全身が輝くその姿はまるで歩く太陽のようだった。外見だけでなく、圧倒的な灼熱の力が魔力弓の全方位砲撃を全て払いのけたのだ。
のみならず輝く腕が私の剣を防いだ。
「うぅむ……! なかなか重いのぉ」
サリオンは苦しげにそう言ったけど、実際の彼の態度は紙の棒でも防いだかのように軽やかだった。
もちろん今の私はたかがそれ程度で気後れしない。
「ふぅっ!」
サリオンが攻撃を防いだ方とは反対の腕で拳を突き出した瞬間、私は剣を手放し後ろに飛んだ。二振りの〈空に輝くたった一つの星〉だけがサリオンの方に残り、私はサリオンの拳が起こした風圧に押されるように飛んでいった。
――『万魔掌握』専用奥義〈星の乱立〉
〈空に輝くたった一つの星〉二振りが爆発した。
いや、正確には二振りの魔力剣に凝集された膨大な魔力が一時に解放された。解き放たれた魔力は無数の粒子に分かれ、澄んだ夜空に広がる星の海のように輝いた。
それらの一つ一つが全て『万魔掌握』で複製された各々異なる特性を帯びていた。
〈空に輝くたった一つの星〉は本来膨大な魔力を一つに凝縮する奥義。今は一度に二振りも作り出せるけど、以前は一振りを具現化するだけでも私が制御できる魔力量の限界に達したほどだった。
その全てを分けさらに増幅して特性を付与する〈星の乱立〉の粒子は一つ一つが強大な魔弾も同然だった。
その全てが灼熱しながらあらゆる光が入り混じった。
「ふんっ!!」
サリオンは短く強い気合とともにまっすぐ突進した。太陽のように灼熱する肉体が〈星の乱立〉の眩い閃光を突破した。
それくらいできなければサリオン・アルバラインの名が泣く。
――『万魔掌握』専用奥義〈待つ星の光彩〉
〈星の乱立〉の舞い散った魔力、そして『万魔掌握』の権能で支配した周囲の魔力全てが私の前に集まった。ほんの少し稼いだ時間の間に仕掛けておいた罠の術式だった。
本来ならばこの魔力を敵に灼熱させるのが本来の使用法だけど――私は自ら魔力の中に飛び込んだ。
最近一度すると申し上げたことを撤回することが多くなり本当に申し訳ございません。
本来なら今週末に二回更新するはずでしたが平日遅くまではもちろん週末も仕事をしなければならないほど会社の作業が忙しくなり時間を適切に確保できませんでした。
今回予定していた二回の更新は来週に完遂いたします。
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