久しぶりの開戦
すると魔導兵団の指揮官さんが私を見た。一応名目上は私が責任者だから私の意見を聞くのだろう。
私は特に言葉を発せず頷くだけで同意を示した。指揮官さんはそれを見て小さく頷いた。
「承知いたしました。我々兵団も参加させていただきます」
「よし。直ちに出発しましょう」
ジェリアお姉さんはそう言うと返事も待たずに体を翻して地面を蹴った。騎士たちと魔導兵団なら勝手についてくるだろうという信頼と自信の表れだった。
もちろん実際に私たちはすぐさまジェリアお姉さんに付いていった。
先頭を走るジェリアお姉さんを追いかけて横で並んで走った。するとジェリアお姉さんが私を振り返ってウィンクをした。
「増援とともに安息領を殲滅する形になれば、奴らを通じて何かを探るのは難しくなるぞ。ボクらが戦闘を主導する形になれば、君が調査しやすくなるだろう」
少し驚いた。ジェリアお姉さんは私がここに来た目的を見抜いたかな。
いや、あのように言うのを見れば疑問の余地はない。気づいたのは確実だ。ただそのためにこんな作戦を提案したのが驚きだった。
「大丈夫ですか? 私のせいで他の人たちまでリスクを負うことになってしまったんですよね」
「構わぬ。負担は全てボクのものにするぞ」
「いいえ、そうしたらジェリアお姉さんに負担を押し付けることになってしまいますよ」
心配になってそう言ったけれど、ジェリアお姉さんはただ自信満々に笑うだけだった。
「ボクの力で対処できることなら問題などありはせぬ。むしろ、親友が望むものを得られずに苦しむのを見ているほうがボクには辛いことだぞ」
「でも……」
「君は優しいが、余計な気遣いは要らぬ。ボクが望んでしたことだし、他の兵力に被害が及ばないよう食い止める能力くらいはボクにもある。それに、もうそんなことを考えるには遅いと思わないか?」
ジェリアお姉さんが『冬天覇剣』を抜き放った。
すでに安息領の気配は目前。このまま走れば肉眼で安息領を見られるまであと数秒だろう。気配はすでにお互いにはっきりと感じられるほどだ。
「先制攻撃は派手にいくぞ!」
――『冬天世界』侵食技〈冬天世界〉
安息領が魔力を高めている気配が感じられたけど、奴らの姿を肉眼で見る前にジェリアお姉さんが先に侵食技を展開した。
森の光景が消え極寒の雪原が降臨した。開けた光景の中で安息領の姿が現れた。
私たちの位置も変わった。元々一箇所に集まっている安息領に向かって私たちも一つの塊になって突撃する形だったけれど、〈冬天世界〉が展開されると私たちが安息領を包囲する陣形に変わった。
侵食技を展開する時に人の位置を変えるのはかなり高位の技術なのに、ジェリアお姉さんはいつこれを習得したかな?
もちろん驚いたのは心の中だけで、私を含め私たち全員が変化した陣形を確認してすぐさま態勢を変えた。
見たところジェリアお姉さんは私と反対側。ここの最大戦力である私たち二人を両端に配置して包囲の力を活用しようというのだろう。
もちろん冷静に目の前の状況変化に対応するのは相手の安息領も同じだった。
「始めっから派手に来おったのぉ」
巨大で屈強な体格の老人がゆったりと言った。
今の安息領のリーダーと推測される男、サリオン・アルバライン。地獄より熱い『獄炎』と極めた拳の力を備えた恐ろしい爺さん。
すでに本来の力だけで境地を築いた彼の威圧感は、やっぱり今も凄まじかった。
「他の奴らは全て別の方向じゃな」
サリオンの言う通り、私の前にいる安息八賢人は彼一人だけだった。
気配を見ると他の八賢人はそれぞれ別の方向にいたけど……状況によっては四人までならジェリアお姉さんの方に行くかもしれない陣形だった。
本当に大丈夫なのか心配になったけれど、ジェリアお姉さんは不可能なことを無謀に固執するバカではない。ジェリアお姉さんの判断を信じるしかないね。
そもそも危険なのはこっちも同じなのだから。
「幼い少女か。だが、その弱そうな容姿の中に雄大な力を秘めておるのぉ」
我が軍の攻撃はすでに始まっていた。
騎士たちが前に出て安息領を攻撃し、魔導兵団は様々な魔導具と戦術を基に騎士たちを遠距離から支援する。来る間に合意した通り素早く動き、安息領に向かって猛烈な攻撃を浴びせたのだ。
しかしサリオンは軽い動作だけで自分に飛びかかる騎士たちを弾き飛ばし、魔導兵団の砲撃と呪いを拳一発で一気に消し去りながら、ただ私だけを視界に捉えていた。
この場で自分が相手にすべき者が誰かを知っているかのように。
一方私は騎士団の攻撃に加わることができなかった。私だけを見つめるサリオンの重圧と気配にのみ全神経を集中していたのだから。
ジェリアお姉さんが複数の八賢人を同時に相手にするとしても、こっちも簡単ではない。いやむしろある意味ではより難しいかもしれない。
サリオン・アルバラインは今の安息領の最大戦力。彼もまた安息領の手段を使わなかったわけじゃない。そのため安息領の邪毒関連の手段を代替するものを見つけられなかったなら、以前よりは弱くなった状態だろう。
でもサリオン・アルバラインはテシリタと同じく人間の平均的な寿命を超越した存在として有名だった。さらに言えば安息領に加担する前から至高の武闘家として名声を轟かせたという記録もある。
そして今彼から感じられる威圧と魔力。依然として手強い相手だということは明白だった。
だからといって逃げる気はないけど。
「どうして突然現れたんですか? 六年も静かだったくせに」
「まさか聞けば答えてくれるという甘い考えを持っておるのか?」
「もちろんそんなことありませんよ」
どうせ戦いなしに口で聞く答えなど期待していなかった。
私とサリオンは同時に姿勢を低くした。
「最初からぶん殴って白状させるしかないと思ってましたよ!」
強大な魔力を惜しみなく放出しながら、私とサリオンは同時に互いに向かって突撃した。
読んでくださってありがとうございます!
面白かった! とか、これからも楽しみ! とお考えでしたら!
一個だけでもいいから、☆とブックマークをくだされば嬉しいです! 力になります!




