突然の出現
「今更姿を現すとはな。奴らは何を狙っているんだ?」
「それはまだ分かりませんけど、のんびり遊びに来たわけじゃないってことだけは確かですね。制圧して聞き出しましょう」
ジェリアお姉さんの言葉にそう応じながら、前方の森を力を込めて睨みつけた。
森。そう、森だ。特に変わったところはない普通の森。けれど今のような状況では何よりも脅威的な場所でもあった。
私とジェリアお姉さんだけじゃない。ジェリアお姉さんが率いる騎士団の部隊と私が率いるオステノヴァ魔導兵団の部隊も一緒の正式な作戦だ。……まぁ、厳密に言えば私はただの名目上の指揮官に過ぎないし、魔導兵団を実際に指揮する主体は別にいるけど。
そしてここにいるのは私たちだけだけれど、増援も編成されている。そこにはリディアお姉さんをはじめ他の強い騎士たちも多く、シドお兄さんもハセインノヴァの要員たちを動かしている。
このような本格的な作戦行動になった理由は簡単だった。
「安息領が現れたのも六年ぶりか。今更何をしようとしているのだ、奴らは」
安息領。邪毒神を崇拝しテロを繰り返すエセ宗教集団。
元々は全世界に広く散らばっているガン細胞のような存在だったけれど、最近では勢力が弱まるどころか半ば消滅しかけた状態だった。それも当然だろう。彼らが崇拝する邪毒神たちがこの世界から完全に追放されたのだから。
邪毒神たちが排除されてから間もない頃は現実を受け入れられず暴走する者が多かったという。しかし安息領のテロには邪毒や邪毒神の力が宿った魔導具が核心であり、それを失った以上安息領はもはや脅威ではなかった。
全世界のほとんどの国で安息領を討伐するために力を注いだ。バルメリア王国でも当然大討伐作戦が実行され、六年前のある軍事作戦によってバルメリア国内の安息領は完全に姿を消した。……と学んだ。その当時の私は幼く、ジェリアお姉さんも騎士団に入団する前だったため直接当時の戦いを経験した世代ではないから。
とにかく、六年前以降少なくともバルメリア国内では一度も現れなかった安息領が突然出現した。
しかも単なる雑兵でもなかった。
「安息八賢人は確認したか?」
「はい。現存が確認された安息八賢人全員が集まっていました」
ジェリアお姉さんの部下の騎士がそう言うと、すぐに緊張感が広がった。
安息八賢人。安息領の最高幹部であり、最も強力な戦闘員でもある者たち。
今は名前と違って八人ではないんだけれども。安息八賢人の核心と推測された謎の一人と、実質的に安息領の活動を陣頭指揮するトップの役割を果たしたと言われるテシリタ・アルバラインは十余年前に消えた。邪毒神と共に。
そのため現存が確認された八賢人は六人。
今ここに強い戦力が集まったのも安息八賢人が含まれているという情報を入手したからだった。でもまさか現存する六人全員が集合したのなら私たちだけでは無理。その可能性を考慮して騎士団でも増援を編成中だったんだけど、報告が上がれば編成と派遣がより早まるだろう。
出発前に父上から言われたことを思い出す。
「安息領が現れたそうだね。そればかりかテシリタ・アルバラインが消えてから安息領を率いているサリオン・アルバラインの姿まで確認されたんだって」
急な用事だと呼び出されたとき、父上は真剣な顔でそう言った。
「安息領ですか? 急にどうしてまた……?」
「僕も少し前に出現を報告されただけで、詳しいことは分からないんだよ。でも奴らがテロ行為を働く時に使っていたマントと武具を身につけているらしいよ。まずは警戒のために騎士団から部隊が派遣される予定なんだ。魔導兵団からも兵力が動員される予定だし」
父上の目が突然怪しく光った。
「アルカ。君も一緒に行きなさいね」
「私ですか? 私が役立つことがあるでしょうか?」
父上の指示なら相応の理由があるだろう。それは否定しない。
けれどあれは厳然たる軍事作戦になるはずで、私は個人の戦闘力ならかなりのものだと自負できるけど軍事作戦には造詣がない。恐らく実際に部隊を率いるのは他の人がするだろうし、私はお飾りとしてついて行って場合によっては戦闘に参加する程度になるだろう。
そんな私が行ってもいいのかという意味だったけれど、父上は私の懸念を払拭するかのようにニッと笑った。
「君が役立つかどうかよりも、君の役に立つと思ってのことなんだ」
「私に……?」
「そうだよ。安息領は邪毒神を崇拝していた者たちだね。君が邪毒神に違和感を覚えるようになった今、突然奴らの行動が再び観測されたんだよ。偶然かもしれないし、何か関連があるかもしれない。どちらにせよ奴らを調査してみる価値はあるんじゃないかい?」
確かに、行って確認してみるのはいいかもしれない。
いつもの私なら自分のために同行を選択することはなかっただろうけど、今回のことは私にとっても非常に重要なことなので辞退する気はなかった。
だから私は父上の提案をその場ですぐに受け入れた。
そして今この場所にいるんだ。
私が短く回想している間にも騎士たちと魔導兵団は準備を整えていた。
「安息領の動向はいかがですか?」
私はうちの魔導兵団側の将校に尋ねた。私の代わりに兵団の部隊を指揮する実質的な責任者だった。
魔導兵団の索敵技術は騎士団よりも水準が高く、今も騎士団部隊と協力中だ。騎士が報告を上げたということはうちの兵団側もそろそろ情報を確保したということだろうけど――。
「まだ森の中で動いていません。ただし平和に森林浴を楽しみに来たわけではなさそうです。明らかに戦闘に備えている様子が見られます」
兵団からの報告を横で一緒に聞いていたジェリアお姉さんは手で顎を触りながら何かを考え、突然頭を上げて力強く言った。
「突入しましょう。今すぐに」
誠に申し訳ございません。昨日はあまりにも慌ただしく忙しくて、お知らせを掲載することすらできませんでした。
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