失ったものの感情
「ロベル。あなた、どんな女の子が好きなの?」
「突然どうなさいましたか? 流れについていけません」
「ただ気になっちゃって。いいじゃない、こんな雑談で時間を過ごすのも」
ロベルはしばらく不思議そうに私を見たけど、すぐに疑問を流すように肩をすくめた。
「まぁよろしいでしょう。最近お嬢様はあの問題を追跡なさったせいで十分お休みになっていなかったですから」
そう言ったものの、私の質問に対する答えはすぐには出なかった。答えを躊躇しているのではなく、彼自身にもはっきりと思い浮かぶものがないからだった。
ロベルは腕を組んだまま考え込むような唸り声を漏らした。
「うーん……普段あまり考えたことがない問題なので、僕にはよくわかりかねます。そもそも異性問題に関心を持つ余裕もなく、特に女性との出会いや交際を重視したことはございませんでした」
まぁ、ロベルは女性に関心が多いタイプじゃなかったからね。
彼は同年代や少し年上のメイドたちをはじめ、屋敷で見かける年の近い女性たちに人気がある。端正な容姿に性格もよく仕事もできるから。実際に彼を狙う女性も多かった。
でも彼はそのすべてを振り切った。知らないのではなく、すでに気づかったり直接告白まで受けたりしたけれど、すべて丁重に断ったのだ。
もしかしたら理想のタイプが強すぎてそうだったのかもしれないと思ったけど、どうやら単に恋愛にあまり関心がなかっただけのようね。
「じゃあもう一度『浄潔世界』を注入してみたらどう?」
私が笑いながら手を差し出すと、ロベルは「また何をしようとしているのですか」と言いたげな表情で私を見た。
「なに? さっきみたいに何か思い出せるかもしれないじゃない」
「それはそうかもしれませんが、わざわざなぜ僕の理想のタイプにそこまでご関心をお持ちなのでしょうか? 別に重要なことでもございませんのに」
「何をそんなに堅苦しく構えてるの。私があなたのことを好きかもしれないじゃない?」
もちろん本気ではない。
〝人間として〟好きなのは確かだけど、ロベルを異性として考えたことは特になかった。さっき手を握ったときも何の感覚もなかったし。今のはただの軽い冗談にすぎなかった。
もちろん、彼がこの程度の冗談で誤解するような人ではないことを知っているからこその行動だった。
予想通り、ロベルは失笑した。
「冗談が露骨すぎます。それに、このように見えても人気者だという自覚はございます。よほどの女性なら僕のことをお好きかどうか、目を見ただけでだいたいわかりますよ」
そう言いながら、彼は再び手を差し出した。やってもいいという意味だろう。
再びロベルに『浄潔世界』の魔力を注入した。その後、彼は腕を組んでもう一度考え込んだ。
「……何か少し思い出しそうで思い出せないような気がいたします。これは本当に不思議な感覚ですね」
そう言うロベルに少し期待を寄せながら、彼が考えをまとめるまでしばらく待った。
私がこれを気になる理由は個人的な好奇心だけではなかった。……いや、個人的な好奇心の範疇に含まれるのは確かだけれど、些細な興味とは少し違っていた。
状況を見れば彼の初恋、あるいはそれに近い位置にいた誰かが『救われざる救世主』の力によって消えてしまったことはほぼ確実だ。それが私の姉だったかもしれないあの人なのかは確実じゃないけれど、可能性はある。
そうであれば、彼が考える理想のタイプを通して、消えてしまったあの人がどんな人だったのかを知ることができるかもしれない。
それを知ったところで特にできることはないけど。
「……妙ですね」
ロベルがふと呟いた。
腕を組んだまま眉間にしわを寄せて話す彼の姿は先ほどと似ていた。けれど先ほど言った変な感じと今はまったく違うということが、なぜかわかった。
「何かぼんやりと思い出せる人がいらっしゃいます。お名前やお顔ではありませんが、なんというか……とてつもなく周りを振り回したような気がいたします」
「えっ?」
何か想像とは違う言葉が飛び出した。
あれってどういうこと?
「どういう意味? 周りを振り回したって?」
「やりたいことを思う存分やってのけたという感じ……でしょうか。曖昧でぼんやりしていますので、はっきりとは申し上げかねますが」
「それって結局勝手に行動して周りを苦労させたってことじゃないの?」
「そのような感じでございます。ただ……」
ロベルは目を閉じた。まるで自分自身の内面をより深く見つめようとするかのように。
徐々に彼の顔に広がっていく笑顔はどこか幸せそうに見えた。
「嫌な気分ではございません。むしろ……困りながらも面白かった。あの方の傍にいられることが幸せだった。……そのような感覚です」
「……。」
なんというか。いろいろと予想とは違う。
違うけれど、彼の言葉を聞いていると私自身も笑っていることにふと気づいた。
なぜか、わかる気がする。
「……そっか」
わからない。
顔も名前も性格も過去も。何一つ思い浮かばない。ただ誰かがいたという奇妙な感覚だけがかすかに残っていた。そしてそれを全く不快に思わない私がいた。
……ますます取り戻したくなった。この記憶を。これをくれた存在を。
それが誰なのか、私とどんな関係なのかはもはや重要ではない。胸の中で沸き上がるこの感情だけが全てだって、それに従うこと以外は考える必要がないって。何も知らないくせに、知らなくても構わないと心臓が叫んでいた。
ならばすべきことは明らかだ。
「ロベル――」
帰って、私たちが失った縁を取り戻そう。
そう言おうとした瞬間だった。
[――アルカお嬢様! 聞こえますか!?]
突然、念話が飛び込んできた。復元事業の責任者さんだった。
かなり急いでいるような声ね?
[何かありましたか?]
[非常事態です。詳しい話は公爵閣下が直接説明してくださるでしょう。まずは帰還装置のある場所に来てくださいませ]
ロベルにも聞こえる念話だった。
私とロベルは一度視線を交わしてから、同時に立ち上がって走り出した。
――もう、すぐ。
ふと、そんな思いが頭の中で響き渡った。
私の思いのようでもあり、誰かの言葉のようでもあるそれ。
その意味を今は知らない。知る必要もない。
だって、
――どうせ、知ることになるんだから。
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