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『光』と邪毒神の疑惑

 ケインがボクに視線を送った。


 わざわざ直接聞かなくても、こいつが何を考えて確認したがっているのかは分かった。だからボクも無言で頷くだけで答えた。


 ケインは再びエリエラさんに視線を戻しながら尋ねた。


「五大神教は原因を把握できましたでしょうか?」


「恥ずかしながら、まだでございます。本来なら無礼と思われる手段まで動員いたしましたが、あの御方の意志と同様、すべて断絶されてしまいました」


 エリエラさんが言った手段というのはおそらく研究者たちが邪毒神の情報を得るのと似たようなものだろう。


 五大神はこの世界を管理する存在だ。世界の外の存在である邪毒神に比べれば、その気になれば調査するのはより簡単だ。実際、研究者たちの中にも五大神を研究する人々がいて、彼らが残す成果はなかなか目立つからな。


 しかし邪毒神と違って五大神は我々人間に近い存在で、稀ではあるが問いに直接答えることもある。そのため真剣に研究する学者はそう多くはない。何より五大神教がそういった行為を快く思っていないこともあるし。


 五大神を直接調査することについても、仕える神に直接手を伸ばすのは不敬だとか、そういった理由で禁忌視されているという話をちらっと聞いたことがある。


「そこまでの手段に手を伸ばすとは、確かに尋常ではない状況のようですね」


「そうでございます。しかし不敬と無礼を顧みずそのような手段に手を染めたにもかかわらず、何の収穫も得られなかったという点こそが不安を煽っております。世間に広まる噂も恐らくその事実を知る一部から漏れ出たものでしょう。……まったく、罪のない信徒たちが動揺するので口止めを徹底するようにと、そう言い聞かせたというのに」


 少し苛立ちを見せるエリエラさんから威厳が感じられた。おそらくボクたちのような部外者には見せない、五大神教の幹部としての姿が漏れ出たのだろう。


 もちろん本人は失敗したかのように小さく咳払いをして元に戻った。


「このような話はいつもだったら私どもの宗派内部でも慎重に統制しておりますが、第二王子殿下に隠しても意味がないでしょう。率直に申し上げますと……現在、私どもの信徒たちにとって最も不安なのは、この断絶がさらに深刻化しないかという懸念でございます」


 ボクとケインは同時に頷いた。


 神の意思と断絶されたことすら原因不明。調査も成果がないので、現状把握はおろか解決の糸口すら掴めない。


 そんな状況で信心深い者たちが不安を募らせた場合、どんな考えを持つようになるだろうか。この事態がいつ解決されるのか、解決どころか悪化しないかを心配するのが当然の成り行きだ。


「これはボクの考えなのですが」


 ボクが口を開くとエリエラさんの真剣な視線がボクの方を向いた。


「『救われざる救世主』の力が『光』に及んだ可能性もあるとも思います」


「この世界から邪毒神を追放したという邪毒神のことですか?」


「世界の外に存在する異物とはいえ、邪毒神もれっきとした神格。そのような邪毒神を、一体残らず全ての存在の干渉を完全に遮断するほどの力です。五大神にも影響を及ぼした可能性があるとしてもおかしくないでしょう」


 エリエラさんは顎に手を当てボクの言葉をしばし考えてから、理解できないといった様子で眉をひそめた。


「しかし五大神様はこの世界に属する存在です。この世界に属さない邪毒神がむしろこの世界に属する神の干渉を遮断するということが可能なのでしょうか?」


「むしろこの世界の存在であるがゆえに、完璧に断絶させられなかった可能性もあると私は考えます」


 今度はケインの言葉だった。


「もちろん確証はございません。仮に私の考えが事実だとしても、なぜ『光』だけがその対象となったのかも定かではありません。特定の理由があるのかもしれませんし、単に全ての五大神を遮るには力が足りなかっただけなのかもしれません」


 しかし考慮する価値はある。その言葉は言わなかったが、要点がそれだということはエリエラさんにも伝わっただろう。


 エリエラさんは黙った。少し視線を下に落とした真剣な表情でじっとしているのを見ると、ボクとケインの言葉について熟考しているのだろう。


 彼女がそうしていたのでボクもまた再び発言と推測を振り返った。


 正直に言えば邪毒神の仕業だとしても、なぜそんなことをしでかしたのかは分からない。邪毒神の干渉をこの世界から消し去ったのだから良い存在だ、とも断言できないしな。


 しかし邪毒神の行動原理なんて初めから考える価値もないものだ。人間の立場から見れば狂人の所業よりも異常なほど意味不明の悪行を働く場合が多かった。そんな邪毒神から論理的な動機を見出そうとする考え自体が間違いかもしれない。


「……考慮する価値はありそうですね。邪毒神が悪辣な策略を弄したのだとすれば、なおさら看過できない事態でもありますし」


 長考の末にエリエラさんが口を開いた。声と表情に少し怒りが垣間見えた。


「外的な要因で発生した事態である可能性は高いと私どもも判断しておりました。具体的にどのようなものか特定するのが難しかったのですが……むしろ邪毒神の仕業だとすれば分かりやすいですね。もちろんそれが確実な真実だという保証はなく、邪毒神がどのようにしてそのようなことをしたのかも分かりませんが、調査する価値は十分にあると思われます」


「何か分かることがあれば共有してください。私たちにとってもこの案件は非常に重要な事柄ですので」


「もちろんでございます。発想のきっかけを与えてくださいましたし、このような会話の流れであれば殿下がお越しになった目的がそれに関連していることは容易に推察できますから」


 エリエラさんはにっこり笑いながらそう言ってくれた。


 まぁ、エリエラさんは誠実な性格だから報告については心配する必要はないだろう。見知らぬ仲でもないしな。


 ……そういえばどうやって面識ができたんだっけ?

申し訳ございません。

昨日緊急事態が発生し対応に追われていたため、お知らせを掲載することを失念してしまいました。

一日二回の更新が現在四回分残っておりますが、その回数をそのままにして明日二回の更新で昨日の埋め合わせをさせていただきます。


読んでくださってありがとうございます!

面白かった! とか、これからも楽しみ! とお考えでしたら!

一個だけでもいいから、☆とブックマークをくだされば嬉しいです! 力になります!

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